黄金の砂海と渇いた亡霊
霊峰アイギスの凍てつく空気を背に、結城 終が辿り着いたのは、地平線の彼方まで黄金の砂が波打つ大砂漠アマルであった。見上げる太陽は容赦なく地上を焼き、立ち昇る陽炎が風景を歪ませている。案内役の光の玉は、熱に浮かされることもなく、砂丘の合間に口を開けた巨大な石造りの門を指し示していた。
「……なるほど。これほどまでに乾いた空気の中では、魂さえも干涸らびてしまいそうですね」
終は鞄から、かつての現世で酷暑の日の野外葬儀に用いた、薄手ながらも風を通さない上質な麻の外套を取り出した。亜神の魔力が宿るそれは、周囲の熱を遮断し、常に持ち主の足元に清涼な空気を纏わせる。終は銀の杖を砂に突き立て、迷宮の入り口へと歩みを進めた。一〇二年の人生で多くの夏を越してきたが、この異世界の砂漠が放つ熱気は、単なる気象現象を超えた、生者の活力を根こそぎ奪い去るような貪欲さを孕んでいた。
石門を潜ると、そこには外の熱狂が嘘のような、静謐で冷ややかな空間が広がっていた。だが、その静寂は安らぎによるものではない。何千年も時を止めたまま、出口を見失った無数の意志が澱み、凝固した結果の静寂であった。迷宮の壁面には、かつてこの地を支配した帝国の栄華が刻まれていたが、今やそれは砂に削られ、無残な爪痕のように見える。奥深くからは、鎧が擦れ合う微かな金属音が響いてくる。それは生者の行進ではなく、死してもなお職務から解放されぬ亡者の足音だった。
「……王の墓を守り続け、交代の来ぬまま数千年の当直に就いているのですね。それは、あまりに過酷な勤めだ」
終の瞳には、暗闇の奥に整然と整列する、数千の骸骨兵の姿が映っていた。彼らはかつての古代帝国の精鋭部隊。主君である王の死後、自らも殉死し、永遠に墓を守る契約を交わした者たちだ。だが、守るべき王の魂はとうの昔に輪廻へと還り、残されたのは「守れ」という命令に縛られた魂の抜け殻ばかり。彼らは、自らが死んでいることさえ忘れ、迷宮に迷い込む者を侵入者として自動的に排除し続けていた。
一〇二歳まで生きた終にとって、死とは「安息」であるべきものだ。これほどまでに長い間、遺骸を立ち上がらせて酷使し続ける呪縛は、葬儀屋として最も許し難い冒涜であった。終は銀の杖を掲げ、迷宮の深部へと足を踏み入れた。彼の足音だけが、数千年ぶりにこの迷宮に「正しい時間」を刻み込んでいった。




