雪解けの遺物
儀式を終えた終は、一人、静まり返った神殿の跡に立っていた。
アルビオンが横たわっていた場所には、一つの小さな「宝珠」が残されていた。龍の数千年の魔力と記憶が凝縮された、純白の結晶。アルビオンが、感謝の印として終に遺した、彼の魂の一部である。
「……これは、重い香典を頂いてしまいましたね」
終が宝珠に触れると、山全体の結界が、より強固で、かつ生者に優しいものへと再構成されるのを感じた。龍は消えたのではない。この山そのものとなって、これからも世界を見守り続けることに決めたのだ。
麓の村へと下りる終の足取りは、いつになく軽やかだった。
村人たちは、山頂から立ち昇った黄金の光と、止まないはずの吹雪が止んだことに驚愕し、広場に集まっていた。彼らが終の姿を見つけると、一斉に問いかけた。
「旅人さん! 山で何が起きたんだ? あの光は、龍神様が怒ったのか!?」
終は穏やかに首を振り、村の子供の頭を優しく撫でた。
「いいえ。龍神様は、少し長い休暇に入られただけですよ。……これからは、この風の音が聞こえるたびに、彼が皆さんに挨拶していると思ってください」
終は村長に、山で摘んだという睡蓮の花を一つ手渡した。それは冬の間も決して枯れず、村に安らぎを与え続ける「神の祝福」となった。
一〇二年の心を宿した二十歳の葬儀屋は、村の小さな宿で、アルビオンから譲り受けた宝珠を鞄に仕舞った。
「銀の天秤に、白銀の宝珠。……私のコレクションも、随分と賑やかになってきました。次は、どのような『物語の終わり』が私を呼んでいるのでしょうか」
背後で光の玉が、今度は西の砂漠の方角を指して回っている。
『次は、熱い場所だよ。死者さえも喉を乾かすような、灼熱の迷宮だ』
「おやおや。今度は水を用意しておかなければなりませんね」
終は独りごち、新しい冒険への期待を込めて、銀の杖を磨き上げた。
彼の葬送の旅は、まだ始まったばかりである。




