琥珀の森の引退式
終は、村からセシルを呼び寄せた。
彼女は、終の『聖域』に守られながら、恐る恐る銀狼に近づいた。
終が杖を振るうと、銀狼の背後に、老魔導師の残留思念が陽炎のように立ち昇る。
「セシルさん。お父様に、そしてこの子に、伝えてあげてください。今の村が、どれほど強く、健やかであるかを」
セシルは涙を流しながら、銀狼の首元に抱きついた。
「……お父さん、銀狼。ごめんなさい、ずっと一人で戦わせていたのね。でも、もう大丈夫よ。私たちは自分たちで麦を育て、村を守る術を覚えたわ。……だから、もう無理をしなくていいの」
その言葉が、数年間にわたって銀狼を縛り続けていた鎖を、音を立てて砕いた。
銀狼の瞳から血走った色が消え、深い、穏やかな蒼色が戻る。
背後の老魔導師の影が、満足そうにセシルの頭を一度だけ撫で、空へと溶け出した。
「お疲れ様でした。……さあ、次の場所へ、共に行きなさい」
終は『供物の顕現』によって、老魔導師がかつて好んだ香草を焚き、静かな鎮魂の調べを奏でた。
銀狼は、セシルの手の中で、一つ大きな欠伸をした。
そして、重荷をすべて下ろしたかのように、ゆっくりと目を閉じた。
黄金の葉が舞う中で、巨大な狼の身体は、光の粒子となって崩れ去った。




