呪いとなった遺言
視界が開ける。そこは、数年前のこの場所だった。
一人の老魔導師が、地面に伏していた。セシルの父であり、銀狼と共にこの村を守り抜いてきた男だ。
彼の命の灯火は、今まさに消えようとしていた。
『……銀狼よ、済まない。私は、先に逝く……』
老魔導師は、震える手で相棒の鼻先に触れた。
『……だが、頼む。あの子を……セシルを、この村を守ってくれ。お前だけが、私の……頼みな、んだ……』
それが、最期の言葉だった。
老魔導師の魂は光となって昇っていったが、その言葉――「頼む」という強烈な意思の残滓が、呪縛となって銀狼の魂にこびりついた。
銀狼は、その言葉を文字通り守り続けた。
例え寿命が尽きようとも、例え肉体が腐り果てようとも、主人の命令がある限り、自分はここを動いてはならない。
死ぬことさえ許されない忠義。それが、この美しい守護獣を「生ける屍」に変えようとしていたのだ。
「愛ゆえの呪い……。皮肉なものですね」
終は現実に意識を戻した。
目の前の銀狼は、すでに限界をとうに超えていた。肉体は亜神の力で維持されているが、魂はボロボロに擦り切れている。
「主人の願いに応えようとするあなたの心は、何よりも気高い。……ですが、本当の『守護』とは、縛ることではないはずです」




