窮地
目の前にゴブリンが5匹。
しかも、その中の1匹は上位種のホブゴブリンだ。遠目ではあんまり感じなかったのだが、近づいてみるとほかのゴブリンどもよりも一回り大きい。普通のゴブリンが1メートルくらいだとして、ホブゴブリンは俺と変わらない体長だ。それが、剣を持って武装している。こりゃ、駆け出し冒険者の手には負えねぇわ。
「逃げましょう!! 私たちではこのゴブリンの相手は無理です。全力で走ればおそらく……」
ミレネも確実に逃げ切れるとは思ってないみたいだな。
明らかに表情に不安が滲んでいる。
「私が何とかするから、ダイサクはミレネを連れて逃げなさい」
「え!? 何言ってるのミカちゃん。そんなことしたらミカちゃんが……」
「私1人だったら大丈夫よ。下手に戦闘に参加されちゃったら戦いづらいでしょ? わかったら早くいきなさい!!」
これは死ぬ気だ。ミカが自分を犠牲にすることで何とか時間を稼ごうとしているんだ。
しかし、俺はこの状況は割と望んでいたものだったりするんだよな。冒険者としての困難、そう、これは俺が乗り越えるべき壁なんだ。覚悟を決めてるところ悪いがここは俺の出番なんだ。
「ミカじゃあのでかいの倒せないだろ」
「何言ってるの、余裕よ。あいつらが仕掛けてくる前に早く逃げなさいって言ってるでしょ!! ミレネに怪我でもさせたら許さないんだから!!」
「手が震えてるぞ。いいから、俺ならあいつを倒せる……とまでは行かなくても、時間を稼ぐことくらいできる。二人が逃げたら俺も逃げるから先に行っててくれ」
我ながら、今の自分をカッコいいんじゃないかとか思ってしまう。
美少女二人を守るために、自分を危険に晒す構図。なかなか悪く無いな。
「そんなことできません!! 誰かが戦うって言うんだったら私も戦います。三人で戦えばもしかしたら勝てるかもしれないですから」
それじゃダメなんだよ。二人に俺の真の実力を目撃されるわけには行かない。むしろ、二人が逃げた後は誰の目もない状況が作れるから好都合なんだよ。そして、ゴブリンどもを討伐して、命からがら帰還した雰囲気を出せば完璧だ。
「ギャギャーーー!!」
ゴブリンが俺たちの話が終わるのを素直に待ってくれるわけもなく、叫び声を上げこちらへ突撃してきた。
「二人とも下がれ」
先頭を走るホブゴブリンの剣を借りた剣で防ぐ。
ガキンッ!!
鈍い金属音をたて、振り下ろされた剣は静止した。
こん棒程度なら喰らっても誤魔化せるが、こいつは食らうわけにはいかない。
「ダイサクさん!!」
「ダイサク!!」
俺の背中には二人がまだいるんだ。ここは耐えることしかできない。現在の実力以上のことをするとまずいからな。この程度なら火事場のくそ力で誤魔化せるだろ。しかし、俺は命の危険がないことをわかっているからどうしても緊張感にかけてしまうが、二人の場合は違うんだよな。本当に死ぬかもしれないという覚悟を決めて戦おうとしている。俺が本来望んでいたものだ。心底羨ましいな。
「早く逃げろ!!」
俺は必死な声で二人に促す。
「ダ、ダイサクがそいつを抑えれるんだったら……私がほかのやつらを」
「私だって戦えます」
流石に後ろを見る余裕はないが、恐怖で声が震えていることだけはわかる。
こんな状態で戦うほうが危険だ。俺一人ならばどうとでもなるが、二人を確実に守れるかと言われたら、NOだ。俺も自分の力について正しく把握できているわけではない。加減も難しいしな。
「俺だっていつまで持つかわからないんだ。俺が耐えている今のうちに」
剣を俺が抑えているとはいえ、目の前には俺と同程度のモンスターが気持ちの悪い顔でこちらを見ているんだ。いつまでもこの状態は続かない。力で押しきれないことがわかれば攻撃を変えてくるはずだ。
「ギャギャギャ? ギャーーーー!!!」
「おい、あんまり暴れんなよ」
俺とつばぜり合いになっていた剣を一度引き、適当に振り回してくる。
まるで止まっているように見える攻撃だが、俺は何とか防ぐように心がけないといけない。剣を喰らって無傷かもわからないし、できれば食らいたくない。
「ひっ……」
「大丈夫ミカちゃん?」
やっぱりいつもとは違うホブゴブリンの威圧感に参ってしまってるんだな。そんな状態で戦えるはずもない。
「い、行けるわ……やあっ!!」
え? なんで? 何やってるんだよ。
ミカが何を血迷ったのか俺と戦っているホブゴブリンの取り巻きに、攻撃を仕掛けた。
「きゃっ!!」
いつものキレもない攻撃はゴブリンのこん棒に阻まれ、反動でミカは剣を落としてしまった。
「おい、避けろ!!」
ゴブリンは追撃にこん棒をミカめがけて振り下ろす。
ボゴッ!!
間一髪、ミカとゴブリンの間に割って入った。
とっさのことで、剣で防ぐことができずに、ミカを庇う形になり後頭部にこん棒をもろに受けてしまった。
軽い衝撃が頭を襲うが、それだけでしかなかった。
「え? え? ダイサク? ちょっと……」
自分を庇って攻撃を貰った俺を見て、ミカが明らかに取り乱している。致命傷でも負ったと思ってるんだろうか。
でもまあ、かっこつかないな。今の俺はミカに覆いかぶさってるし、てか抱き着いている。
「ミカちゃん!! ダイサクさん!! ハイヒール」
ミレネが何かを唱えると、俺とミカの体に光が集まってきて、すぐに消えた。
回復魔法だろうか、得意って言ってたもんな。でも、残念ながら俺は怪我してないんだよな。普通の人間だったら後頭部への打撃は致命傷になりかねないが俺は普通の人間じゃないんだよ。さぁて、これからどうしますか。




