仕方ないわね
「私たちもよく行くお店で安くて美味しいですからね。期待しておいてください」
「ほんとにいいのか? 二人だって冒険者として生活してるんだろう? 金に余裕なんてあるのか?」
「最近は討伐クエストにも行き始めましたからね。報酬もその分多くなってます。それに、私はあまり自分のことにお金を使わないのでお金が貯まるのですよ」
ミレネが折角貯めた金を俺の飯代として使ってしまうのは何とも申し訳に気持ちになるが、俺も死活問題なので今回だけ、そう今回だけは甘えさせて貰おう。この恩は今日のクエストの分と合わせてきっと返すからな。
「言っとくけど、店で一番安い料理だから」
「それだと、お腹一杯にならないよ。わざと言ってるでしょ、ミカちゃん」
改めて考えてみると、飲食店で一番安い料理って何だろうか? おつまみとかそういう系か? まだ俺は未成年で飲酒はできないからな。おつまみだけ食べるのもちょっと微妙だな。
「あ、ダイサクさんが気になるお店があればそちらでも構いませんよ。あまり高そうなお店は無理ですが、ある程度であれば希望も聞けると思います」
「いや、ミレネのおすすめの店でいいよ。俺も安くてうまいって言うのは気になるしな。今度とも贔屓にする可能性も考慮してるから問題ない。むしろ、そこがいい」
「当然よ。ダイサクが高そうな店に行きたいとか言い出してたら私がぶん殴ってたわ。ミレネは優しすぎるのよ。奢るのは私たちなのよ。いくら冒険者として先輩と言っても年齢は変わらないでしょ」
俺は16歳だけど二人はいくつなんだろうか? 女の子に年齢を聞くのはまずいか? いや、まだそんな年齢じゃないし関係ないか。
「こちらの方です。まだダイサクさんはこの町に来たばかりでどこに何があるかもわかってないですよね? はぐれないよう私たちについてきてください」
ちょうど人が多いタイミングなのか、大通りが人で溢れかえっている。
俺もこの人ごみの中だと二人を見失ってしまいそうだ。千里眼を使えばそんな心配もないが、スキルには頼らないって決めてるからな。はぐれないよう気を付けよう。
「ほんとに人が多いな。いつもこんな感じなのか?」
「そうですね。この時間帯はいつもです。ミカちゃんもダイサクさんがはぐれないようにもっと近づいて歩いてよ」
「はぐれたら面倒なのはわかるけど、ミレネは近づきすぎよ。離れて。ほら、ダイサクも3歩下がりなさい」
「そんなことしたら見失っちまうだろ」
満員電車までとは言わないが、今は人ごみの間を縫って歩いているような状態だ。これで3歩も離れれば見失うこと間違いなしだろ。
自分でもはぐれるのは面倒だって言ってるんだから勘弁してくれよ。
「私がダメならミカちゃんがダイサクさんと手をつないでよ。そうしたらはぐれることもないよね?」
「はぁ!? ミレネ何言ってるのよ。話が飛躍しすぎよ。どうしたら手をつなぐなんて話になるの!!」
「だってミカちゃんが私から離れてって言うから。どうしたらはぐれないで済むかと思ってね。いつも私たちは手をつないで歩いてるからそうすればいいと思ったんだよ」
「私とミレネは幼馴染で親友だけど、ダイサクは今日あったばかりの変態でしょ。同じことなんてできないわ」
あったばかりなのはそうだが、変態ってなんだよ。俺がいつ変態みたいなことしたって言うんだよ。
「ミカちゃんが嫌なら私が手をつないで案内するから大丈夫だよ。行きましょう、ダイサクさん」
「ああ、悪いな」
「悪いと思ってるんだったらその手を離しなさい!!」
ミレネが俺の手を取るが、すぐさまミカがその手を引き離す。
なんで俺たちは店に行くだけなのに、こんなに大騒ぎしてるんだよ。奢ってもらう身であれだが、結構腹減ってるんだよな。できれば急いで店に行きたい。
「ミレネの手に触るのは許せないわ……仕方ないから私が手をつないで上げるわよ」
そう言いミカが手を差し出してくるがこの態度が気に入らないな。この手を払いのけてやったらどうなるんだろうか? 恥を欠かされたって怒るんだろうか? 流石にやめとくか。
「悪いな。俺もできれば迷子にはなりたくないから頼む」
「手をつないでるからって必要以上に密着して来たらしばくから」
声のトーンも顔もガチだ。
これは俺がふざけてボディータッチなんてしようもんなら容赦ない攻撃が喰らわさえることだろうな。いや、しないけどな。
「二人がどんどん仲良くなって私も嬉しいよ。もうすぐ着くから、楽しみにしててくださいね」
ミレネの感性はやはり何かおかしいようだ。
ミカに手を引っ張られて歩くこと数分。
ドンモリ亭と書かれた看板の店の前へとやってきた。
雰囲気は至って普通の飲食店って印象だな。少し年季が入った建物が唯一の特徴といってもいいだろう。それも、特筆すべきほどでもないし、昔からあるのかっていう程度だな。
「ここです。私たちが冒険者になって見つけたお店です。さっそく入りましょう」
「そうだな。俺も腹減ったわ」
「いつまで手を握ってんのよ。着いたんだから離しなさいよ」
つないだままになっていた手をミカの方から振りほどかれた。ミカの手は剣を振っているせいか少し硬くなっていたがそれでも女の子特有の柔らかさがあって気持ちよかったんだけどなぁ。
少し名残惜しさに浸ってしまう気持ちの悪い自分に気づき、急いで意識を戻した。
「よし、入ろうか」




