朱海麗学童の仲間たち
第2話 朱海麗学童の仲間たち
「ここが、今日から私の職場……」
目の前に建つ洋館のような建物を見上げながら、私は小さくつぶやいた。
朱海麗学童。
森之蝶という不思議な街にある、どこか懐かしさを感じる学童保育施設だ。
私は少し緊張しながら、玄関の扉を開けた。
カラン、コロン。
小さなベルの音とともに、明るい声が聞こえてくる。
「こんにちは!」
「わあ、新しい先生?」
部屋の奥では、子どもたちが楽しそうに遊んでいた。
テーブルには色とりどりの折り紙が並び、壁には子どもたちが作った動物や季節の飾りがたくさん貼られている。
その光景を見て、私は自然と笑顔になった。
「今日からお世話になります。紅と申します。よろしくお願いしますね」
そう挨拶すると、子どもたちは興味津々といった様子で私の周りに集まってきた。
「紅先生って、どんな遊びが好き?」
「私は折り紙が好きかな」
「本当? じゃあ、今度一緒に作ろう!」
元気いっぱいの子どもたちに、私の緊張も少しずつほぐれていった。
すると、奥の廊下から聞き覚えのある声がした。
「紅先生。無事に到着されたようですね」
振り返ると、そこには淡い狐色の衣をまとった美しい女性が立っていた。
「あっ! 先ほど道を教えてくださった……!」
「ふふっ。覚えていてくださったのですね」
女性は優しく微笑んだ。
「改めまして、私はこの朱海麗学童の責任者をしております。狐月院玲華と申します」
「狐月院玲華さん……。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。これから一緒に頑張っていきましょうね」
玲華の穏やかな笑顔を見て、私は少し安心した。
その後、玲華は職員室へ私を案内してくれた。
「紅先生、こちらが一緒に働く職員たちです」
そこには二人の職員がいた。
「初めまして! 花村小春です。よろしくお願いしますね!」
最初に挨拶してくれたのは、明るく親しみやすい女性だった。
「私もここで働いているんですよ。分からないことがあれば、何でも聞いてくださいね!」
「ありがとうございます。心強いです」
小春さんはにっこりと笑った。
「それから、こちらが雨宮朔さんです」
「……雨宮です。よろしくお願いします」
朔さんは落ち着いた声で挨拶した。
「朔さんは少し口数が少ないですけど、子どもたちからは結構人気なんですよ」
「小春さん、余計なことを言わなくていい」
「ふふっ、ごめんなさい」
二人のやり取りを見て、私は思わず笑ってしまった。
どうやら、ここには個性豊かな仲間たちがいるようだ。
「では、紅先生。まずは施設の中をご案内しますね」
玲華に案内され、私は学童の中を見て回ることになった。
遊戯室にはたくさんのおもちゃがあり、読書スペースには絵本がきれいに並べられていた。
窓際には小さな花瓶が置かれ、可愛らしい花が飾られている。
「素敵な場所ですね。とても落ち着きます」
「ありがとうございます。この建物は昔から大切に使われているんですよ」
玲華は嬉しそうに答えた。
「紅先生も、きっとすぐに気に入ってくださると思います」
その言葉に、私は笑顔でうなずいた。
しばらくすると、おやつの時間になった。
小春さんが台所からお皿を運んできた。
「今日は手作りのクッキーですよ!」
「わあ! クッキーだ!」
子どもたちは大喜び。
テーブルの上には、丸い形や星形の可愛らしいクッキーが並んだ。
「小春さんが作ったんですか?」
「そうなんです。子どもたちが喜んでくれるので、時々作るんですよ」
「すごいですね!」
私も子どもたちと一緒にクッキーをいただいた。
サクサクとした食感に、ほんのり甘い香り。
とても美味しくて、思わず頬がゆるんだ。
「紅先生、おいしい?」
「うん、とってもおいしいよ」
「よかった! また作ってね!」
小春さんは嬉しそうに笑った。
おやつの後は、子どもたちと折り紙をすることになった。
「先生、うさぎ作って!」
「私は猫がいい!」
「僕は飛行機!」
次々とリクエストが飛んでくる。
「じゃあ、みんなで好きなものを作ってみようか」
私は折り紙を配りながら、子どもたちに折り方を教えていった。
小春さんも隣で一緒に作り、朔さんは子どもに頼まれて少し不器用そうに折り紙を折っている。
「朔先生、耳が反対だよ!」
「……そうか?」
「こっちだよ!」
子どもたちに教えてもらいながら、朔さんは何とか可愛らしい猫を完成させた。
「できた!」
「わあ、上手!」
みんなの笑い声が部屋いっぱいに広がった。
その様子を見ていた玲華も、優しい表情で微笑んでいた。
「賑やかで、楽しいですね」
私がそう言うと、玲華は静かにうなずいた。
「ええ。子どもたちの笑顔は、何より大切なものですから」
その言葉には、深い愛情が込められているように感じた。
夕方になり、子どもたちが一人、また一人と帰っていく。
「紅先生、また明日ね!」
「うん。また明日ね!」
元気よく手を振る子どもたちを見送りながら、私は心の中で思った。
ここでも、子どもたちと楽しい毎日を過ごせるかもしれない。
七年間続けてきた仕事を離れるのは寂しかったけれど、新しい場所にも温かい居場所がある。
そう思うと、少しだけ未来が楽しみになった。
帰り支度をしていると、一人の女の子が私のところへやってきた。
「ねえ、紅先生」
「どうしたの?」
「この学童ってね、夜になるとちょっと特別なんだよ」
「特別?」
「うん。夜にはね、昼間とは違うお友達にも会えるんだって!」
女の子は楽しそうに笑った。
「いつか先生にも紹介してあげるね!」
「ふふっ。それは楽しみだね」
私は笑顔で答えた。
その様子を少し離れたところから見ていた玲華は、何も言わずに優しく微笑んでいた。
窓の外では、森之蝶の街に夕暮れが訪れようとしていた。
今日から始まった、新しい毎日。
ここには、まだ知らないことがたくさんありそうだ。
私は明日もこの場所に来るのが、少し楽しみになっていた。
第2話 終




