5、本当のカケルさん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
体調不良のカケルさんと一緒に仕事をする。
しかし、そんな私に悲劇が起こる。
それを助けてくれたのは課長だったけど。
「カケルさん。お弁当を食べましょう」
「えっ、光さん?」
「私のだけ温かくてごめんなさい」
「光さん。もう、大丈夫ですよ」
カケルさんの一言で私は泣いてしまった。
カケルさんの声は穏やかで安心できた。
カケルさんは私が泣き止むまで抱き締めてくれた。
それからカケルさんへ何があったのか説明をした。
何もされていない。
ただ、距離が近かっただけ。
それが恐怖でたまらなかっただけ。
カケルさんは静かに聞いてくれた。
そして一言だけ言った。
怒りを込めて。
「セクハラですね」
カケルさんが言った言葉は納得できた。
嫌でたまらなかった。
何もされなかったけど私は本当に怖かった。
それからカケルさんは“話をつけてきます”と言って会議室を出ていった。
出る時に鍵をするように言われた。
私を一人にするから誰も入れないようにしたかったみたい。
私は一人で仕事の続きを始めた。
一時間ほどでカケルさんは帰ってきた。
そして私に言った。
「アイツは左遷になるはずよ。私もアイツには色々と嫌なことをされたのよ。それを言ったら、上の人達は顔色変えて私に謝ってきたわよ。でも、本当は光さんに謝ってほしいわ」
「カケルさん? 言葉遣いが、、、」
「いいのよ。光さん。いいえ、杏ちゃんだから」
「私だから?」
「そうよ。だから何かあったら直ぐに私に言ってね。私は、ずっと杏ちゃんの味方だから」
ずっと味方。
それはどういう意味?
カケルさんは残り三ヶ月ほどでいなくなってしまう。
それでも味方でいてくれるの?
何かあれば相談できるの?
『コンコン』
会議室のドアをノックする音がした。
「あっ、そうだった。杏ちゃん、課長が話がしたいって言ってたのよ。でも嫌だったら断ってもいいのよ」
「大丈夫です」
「そう。私、残ってた方がいいかしら?」
「課長なら大丈夫です」
「そうね」
そしてカケルさんがドアを開けると申し訳なさそうな顔をしている課長が入ってきた。
「杏ちゃん、私は体調も良くなったし、デスクに戻るわね」
「えっ、カケルさん? 俺と光さんを二人にしてはいけない、、、」
「杏ちゃんが大丈夫と言っていたので信じます。課長を」
「えっ、カケルさん? 俺を信じてもらってもいいんだが、キャラが、、、」
課長が最後まで話す前にカケルさんは出ていった。
課長は閉まったドアを見ていた。
そして沈黙が流れる。
「あれが本当のカケルさんです」
「えっ」
私が沈黙を破るように言うと課長が驚いて振り向く。
でも視線は私の足元を見ている。
「光さん、本当に申し訳ありませんでした」
課長は深々と頭を下げて謝った。
「課長は何も悪くないですよ」
「いいや、部下がやったことは上司である俺の管理不足だから」
「課長。頭を上げてください」
「でも、まだ社会人になって少ししか経っていない光さんに怖い思いをさせてしまって、頭なんて上げられない」
「課長の気持ちは分かりました。でも私は、ちゃんと顔を見て、目を見て話がしたいです」
「そうだね、申し訳ない」
課長は頭を上げて私に顔を見せてくれた。
でも視線は私の足元を見ている。
「課長は、いつも私の様子を気にかけてくれていましたよね?」
「それは、光さんのことを教育者に任せっきりになっていて、光さんが困っていたのに気付かなかったのを反省したんだよ」
「だから、給湯室に様子を見に来てくれたんですか?」
「そうだよ。キミから目を離してはいけないと思っていたからね」
「だから私は助かりました」
「えっ」
課長は驚いて私の顔を見た後、直ぐに視線を足元へ戻した。
そんなに私を見るのが嫌なの?
「課長。私を見るのが嫌ですか? 私が課長にセクハラされたなんて言うと思っているんですか?」
「それは、違う!」
課長は視線を私に向けた。
その目は、はっきりと私を見つめて違うんだと伝えている。
「それなら、どうして見てくれないんですか?」
「思い出してしまうから」
「思い出す?」
「光さんが怯えた顔をしていたのを思い出してしまうから」
「えっ」
「本当は、アイツを殴ってでも直ぐに追い出したかった」
そんな風に思ってくれていたんだ。
あの時、怒りを抑えて大人の対応をしたんだ。
「課長、ありがとうございます」
「そんな、お礼なんて言われるようなことはしていないよ」
「いいえ。課長は私の救世主です」
「救世主? それは言い過ぎだよ」
「いつでも私を守ってくれる救世主。ヒーローです」
「やめてくれよ。おじさんにヒーローは似合わないよ」
課長は苦笑いをして言った。
でも、なんだか嬉しそうに見えた。
「課長」
私は、課長を呼ぶと一歩前へ進んだ。
すると課長は一歩後ろへさがった。
「どうして逃げるんですか?」
「ん? どうしてかな?」
私はどんどんと距離を詰める。
課長は後ろへとさがり続け、壁によってさがれなくなった。
「課長。もう、さがれないですね」
「光さん。距離は保たないとね」
「どうしてですか?」
「パーソナルスペースは人それぞれだからね」
「それなら課長には、もっと近付いても大丈夫ですよね? 頭を撫でられたこともあるので」
「あっ、いやっ、あれは、無意識に、、、」
大人な課長が慌てている。
なんだか可愛く見えた。
「私、課長の秘密を知っているんですよ」
「俺の秘密? それは何かな? バレるはずはないと思うんだけどな?」
「あれ? 何か思い当たることがあるんですか?」
「えっ、いやっ、ないよ」
さっきから課長に大人の余裕がなくなっている。
可愛くて仕方がない。
そして、からかうのも面白い。
「課長は、カケルさんのことが好きですよね?」
「えっ?」
「カケルさんと話す時に、いつも緊張してますよね? 課長は隠し事が下手ですね」
今だって顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
隠せてないですよ。
課長。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
課長とカケルさんの関係が気になる私。
そしてカケルさんは私に秘密を教えてくれた。




