3、ちゃんと見ていてくれたカケルさん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話予告~
できない仕事は断る、はっきりと線引きをするカケルさん。
そんなカケルさんが、なんだかいつもと違う。
そんな異変に気付いたのは課長だった。
「あっ、カケルさん。そのコピーは私がやりますよ」
「えっ、光さん?」
「体調悪いですよね?」
「どうして?」
「分かりますよ、無理しているのは。なので私にできることは任せてください」
「しかし契約があるので」
カケルさんは、部下に指示をしている課長を見ながら言った。
課長は気付いていない。
もしかして、課長にバレたくない?
「課長にバレなければいいですか?」
「えっ」
「課長にバレなければお手伝いはできますか?」
「えっと、その」
「それなら、私が勝手にやったことにしてください」
「光さん? どうして、そんなに私のために?」
「だって、カケルさんが私の恩人で、私の目標なんです」
カケルさんは私が仕事に対しての向き合い方に悩んでいる時、答えを教えてくれた。
カケルさんがいなければ私は今の職場を辞めていたと思う。
あのカケルさんの言葉は私の心を軽くした。
“私は代打ですので”
◇二ヶ月前◇
「光です。よろしくお願いします」
私は、新入社員として入った部署で挨拶をする。
全てが初めてのことでワクワクが止まらない。
格好いい課長と優しそうな先輩達。
この部署は大当たりなのかもしれないと思っていた。
でも現実は違った。
「あっ、カケルさん。これをお願い」
「ねぇ、カケルさん。これはどうしたらいいの?」
「お~いカケルさん。こっちの仕事を頼んでもいいかな?」
いつもカケルさんが頼りにされて、私はカケルさんの隣で銅像のように動くことはない。
誰にも頼られないし誰も仕事を教えてくれない。
ただパソコンを開いてトップ画面を眺める。
隣ではカケルさんが忙しそうにカタカタとキーボードを叩く音がする。
私、必要なのかな?
此処に居ていいのかな?
「光さん。今日、ランチ一緒にどうですか?」
隣の席からカケルさんが小さな声で話しかけてきた。
私が隣に顔を向けると、カケルさんがニコニコしながら私を見ていた。
「えっ、いいんですか? カケルさんって、いつも一人で食べていますよね?」
「それが今回は一人では無理なので、光さんにお願いという形で誘ってみました」
「お願いですか?」
「あのですね、一人では食べきれないデカ盛りランチのお店に行きたくて。二人なら食べきれると思うので一緒にどうですか?」
「はい、行きます! 私、食べるの好きなんです」
「それでは行きましょう」
会社で初めて声をかけられたのがカケルさんだった。
私には一応、指導係がいたが、その人は仕事に追われ私のことまで時間を割けないでいた。
「光さんは痩せの大食いですね」
「そんなことは、、、ありますね」
二人で大きなデカ盛り大人様ランチを残さず食べた。
カケルさんよりも倍の量を食べた私。
お店を出て、会社へ戻る途中に事件が起きた。
「あれ? カケルさんじゃない?」
後ろから声をかけられ私達は振り向く。
そこには、銀行の制服を着た女性が驚きながら立っていた。
「あっ、以前はお世話になりました」
カケルさんは無表情で女性に頭を下げて言った。
「カケルさん。なんだか印象が変わったわね?」
「あのっ、急ぎの仕事があるので失礼します」
「えっ、あっ、うん。そうだよね。カケルさんって本当に仕事が一番だよね」
女性が嫌味のように言った。
でもカケルさんは無表情のままだった。
「カケルさんが抜けてから大変だったんだよ。帰ってきた育児休暇の女性社員ったらミスばかりだし、子供が熱を出して休んだり、カケルさんが戻ってきてくれたらいいのにって思っているのよ。戻ってきてくれない?」
「私は代打ですので」
カケルさんは無表情で言っていたが、胸を張って堂々としていた。
自分はあくまでも代わりの人間。
でも、それを恥だとも、引け目とも感じていない。
そう。
代打という仕事に誇りを持っているようだった。
だからこそ代わりの人が戻ってくれば消えてしまう。
戻ることはない。
「代打? それって二番手ってことよね? 二番手でいいと思えるなんて幸せね」
「はい。それでは失礼します」
女性に嫌味を言われながら鼻で笑われても、カケルさんは無表情のまま別れを告げて歩き出す。
そんなカケルさんを私は追いかけ隣に並んだ。
「カケルさんは強いんですね」
「私? 強いというよりは気にしないからですかね」
「気にしない?」
「だって、さっきの方は自分の目だけで世界を見てます。自分の価値観を人に押し付けるんですよ」
「なんか嫌ですね?」
「はい。ですので私は気にしません。価値観は人それぞれなので」
「価値観ですか、、、」
私の価値観は?
カケルさんの価値観は?
違う?
みんな違うの?
「光さんは必要ですよ」
「えっ」
「光さんは私にとって必要ですよ。会社にとっても必要です。私は代打ですが光さんは会社が必要だと新入社員として雇った大切な社員なんですよ」
カケルさんの言葉で私の心が温かくなっていく。
あっ、私、必要とされたかったんだ。
「でも光さん、待ってるだけじゃ誰も光さんを必要としません。ただ居るだけではなく、光さんには何ができるのか考えてください」
「私ができること、、、」
「私は光さんを隣で見てきましたが、光さんは必ず皆さんに頼られる存在になります。あなたの周りを和ます明るさや周りまで元気にする笑顔。そして何よりも気配りのできる優しい方なので」
「カケルさん、ありがとうございます」
カケルさんは私を見ていてくれた。
カケルさんに救われた。
私、これから仕事を頑張る。
皆に頼られる人になる。
カケルさんの様になる!
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
カケルさんのために仕事を手伝う私。
そんな私に悲劇が起きる。
それを助けてくれたのは、、、。




