2、いつもと違うカケルさん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
代打のカケルさんとは、代わりを喜んで引き受ける人。
代打のカケルさんとは、代打だと胸を張って言う強くて美しい人。
「なんでできないんだよ」
男性社員は、資料を丸め自分の掌に叩き付けながら威嚇して言っている。
私はまだ遠くにいたけど、なんだか怖く感じた。
目の前にいるカケルさんは、もっと恐怖を感じているのかもしれない。
「できません。それは私の仕事ではありませんので」
カケルさんは恐怖なんて感じていない様で、淡々と言っていた。
そのカケルさんの態度が火に油を注ぐのか、男性社員のイライラが増している。
「おいおい。それはカケルさんの仕事ではないよ。キミの方がよく分かっているはずだから、キミがした方が断然、早く終わるよ」
課長が、男性社員を落ち着かせながら言う。
「そっ、そうですか? それなら俺が、ささっと終わらせます」
「うん。よろしく頼む」
課長の一言で男性社員は自分のデスクへ戻っていく。
男性社員は少し上機嫌に見えた。
課長の褒め方が上手だったみたい。
「カケルさん。すまないね」
「いいえ。ありがとうございます」
また課長は緊張している。
しかし、カケルさんは表情を変えることなく自分のデスクへと戻っていく。
「怖かった」
「あっ、光さんも、すまないね。キミには、あんな怖い思いはさせないように俺が守るから安心してほしい」
私の小さな呟きを課長は逃さず聞き取ってくれて、ちゃんとフォローしてくれた。
優しい課長。
カケルさんも私みたいに頼れる課長に安心したかな?
カケルさんを見ると私と目が合った。
、、、違う。
課長を見ていたんだと私は後ろを振り向いて気付いた。
二人は両思いなんだ。
「カケルさん。おはようございます」
「あっ、光さん。おはようございます」
今日のカケルさんはいつもと印象が違った。
少し顔が赤い?
心、ここにあらずって感じで上の空。
なにかあったのかな?
「カケルさん。お得意様からお電話です」
「あっ、はいっ」
同僚から電話の引き継ぎでも、いつものテンポより一呼吸遅いカケルさん。
でもその後は、いつも通りのカケルさん。
気のせいかな?
「カケルさん。このお得意様の資料をデータとしてまとめてほしいんだけどできるかな?」
課長がカケルさんの元へ来て資料を見せながら言った。
「あっ、はい! 大丈夫です」
「そっ、そうかい? それじゃあ、終わったら教えてくれ」
「はい」
そして課長が資料をカケルさんに渡したのが、パソコンの打ち込みをしていた私の視界の端で見えたけど、その資料は床へハラハラと落ちていった。
「あっ、すみません」
「いやっ、いいよ。俺が拾うから」
やっぱり、いつものカケルさんとは違う。
もしかして課長と手が触れて驚いて落としちゃった?
だからカケルさんの顔が赤いんだ。
課長も緊張しているみたいだし。
もう!
私の隣でイチャイチャしないでよ。
「光さん、ちょっといいかな?」
さっきまで隣でイチャイチャしていたのに、課長がコソコソと小さな声で私に言った。
課長の顔を見ると、申し訳なさそうにしながら手招きをしている。
ここでは話せない内容だと直ぐに気付いた。
私は課長の後ろを着いていき、会議室へと入る。
今日って会議なんてあったかな?
今からお茶の準備をしなきゃいけない?
「仕事中に、すまないね。キミにしか頼めないと思ったからね」
「私にですか?」
「そう。カケルさんのことだよ」
何?
今、此処で私に交際宣言でもするの?
もしかして、まだお付き合いをしていないから私に協力を頼むつもりなの?
「私は、公私混同はしたくありません」
「あっ、いやっ、そうなんだけど、カケルさんのためだと思って、今日だけでもお願いできるかな?」
ん?
課長の言っている意味が分からない。
「えっ、課長のためではなくてですか?」
「俺? まあ、俺のためでもあるかもしれないけど、カケルさんの体調がよくないようだから、簡単な作業は光さんがやってあげてくれないかな?」
カケルさんが体調不良?
そんなの、どうして分かるの?
いやっ、分かる。
いつもと違うカケルさん。
体調不良でキツかったんだ。
「分かりました。でも、カケルさんを早退させてはいかがですか?」
「それは、カケルさんが首を縦には振らないよ。カケルさんは穴埋めとしてこの会社に来たのに穴を開けてしまったら意味がないだろう? だからこそ休まず出勤してきている」
「それでも、高熱だった場合は早退してもらいますよ。私が心配しすぎて仕事ができないので」
「分かったよ」
課長は私の必死に伝える様子にクスッと笑って頭を撫でた。
「あっ、すまない」
「いいえ、嫌じゃないです」
課長は無意識に私の頭を撫でたみたいで、申し訳なさそうにしながら私の頭から手を離し謝ってきた。
でも私は嫌じゃなかったから正直に伝えた。
すると課長は“ありがとう”と言って、私の頭を一度優しく撫でて笑った。
「光さん。俺は何も知らないことにしてくれるかな?」
「え?」
「光さんがカケルさんの仕事を手伝うことを俺が知ってしまったら、契約解除になってしまうからね」
「はい、分かりました」
「ありがとう、光さん。頼りにしてるよ」
「はい!」
私は課長へ元気に返事をし、会議室を出た。
カケルさんの体調不良の原因を知らなきゃいけないし、熱があるのかないのかも知りたい。
カケルさんの体調を見ながら手伝えるものは手伝おう。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
カケルさんの力になりたい。
だって、カケルさんが私を救ってくれたから。




