15、カケルさんロスを望まないカケルさん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
私の顔を見ただけで何があったのか予想できる神様のカケルさん。
職場恋愛は難しいなどと言われたけど、私は課長とお付き合いしていません。
「カケルさん、これはどうやるの?」
「これは、ここを押せば大丈夫です」
カケルさんの元へ、やり方を訊きに来た女性社員にカケルさんが優しく教えている。
「カケルさん、これはこれでいいかな?」
「そうですね。ここをもっと見やすくするといいと思います」
次は男性社員がカケルさんに資料の作り方を教わっている。
「カケルさん、お茶をどうぞ」
私は、カケルさんの周りに誰もいなくなったのを確認してお茶を渡す。
カケルさんは疲れた表情でお茶を飲む。
朝からカケルさんに仕事を教わる人が急増した。
その理由を知っているからカケルさんは嫌な顔をせず親身になって教えてあげている。
カケルさんがいなくなるまで残り数日となった。
それを知った社員達は、育児休暇から戻ってくる女性社員の仕事を減らすために、少し請け負うことにした。
だからカケルさんが仕事を教えている。
これを一人でしていたカケルさんに皆が驚いていたし、育児休暇から戻ってくる女性社員の凄さに全員が尊敬した。
カケルさんが“こんなに優しい社員が集まった会社は初めて”だと言っていた。
私も、こんなに他人のことを思いやれる人達がいるなんて、この会社に入って良かったと思った。
「カケルさんロスが起きるかもしれないですよ」
今、二人でランチタイムにチャーハンのデカ盛りチャレンジ中。
「私は、そんなこと望んでないわ」
「カケルさんはそうでしょうが、皆さんはカケルさんが居ないという現実に慣れるまでは無理ですよ」
「そうね。私の存在が依頼人のやる気を失くさせるのだけはしたくないの」
「それなら私が隣で見ておきますよ」
「杏ちゃんは私と一緒に働くのよね?」
カケルさんはニコッと笑って言ったけど、なんだか黒い影がカケルさんの後ろに見えた気がした。
「かっ、カケルさん。私は、、、」
「嘘よ。私は杏ちゃんに強制なんてさせないわよ。だから杏ちゃんが、どんな選択をしても受け入れるつもりよ。でも断られるのはショックだから答えは私の最後の日に訊きたいの」
カケルさんは私が断るんだと思っているのかな?
本当にカケルさんとは、これからも一緒に働きたいの。
それは本心。
でも、、、。
「あっ、カケルさん! 一大事って何があったんだ?」
「えっ、課長!」
走って来たのか課長は息を切らしてカケルさんに駆け寄った。
カケルさんはニコニコとしているのに私は驚き食べる手が止まり、声が出た。
「課長、一大事なのよ。私は、お腹いっぱいなんだけどデカ盛りチャーハンが沢山、残って困っているの。ねぇ、杏ちゃん?」
カケルさんなら私がデカ盛りチャーハンを食べられることは知っているはず。
それなのに課長を呼ぶなんて、何か企んでいるみたい。
「えっと、それが一大事で俺を呼んだと?」
「そうですよ課長。だって残したらフードロスになりますよ」
「まぁ、そうなんだけど」
「私は会社に戻るので食べ終わったら帰ってきてくださいね。課長と杏ちゃん」
カケルさんは私にウインクをして言った。
「あっ、このお店は隠れ家的な場所なので会社の人達にはバレないですよ。なので、ゆっくり二人で食べて帰って来てくださいね。皆には杏ちゃんの体調不良で帰るのが遅くなるって伝えておきますね」
カケルさんは、そう言ってお店を出ていった。
私と課長はカケルさんが出ていったドアを見つめていた。
何が起きてるの?
「えっと、時間もないし、このチャーハンを食べようか?」
課長が腕捲りをしながら言う。
「課長。お昼ご飯は食べました?」
「いいや。忙しくて後で食べようと思っていた所にカケルさんから連絡があったからね」
「それなら食べてください」
私はチャーハンを小皿に移して課長に渡す。
「光さんもお腹いっぱいかな?」
「えっと、それが、私、大食いなんです」
「ん? 大食い?」
「はい。デカ盛りチャレンジはカケルさんと、よくしているんです」
「もしかして、いつも完食してる?」
「はい」
大食いなんて知られたら嫌われるかな?
男の人より食べる女性は嫌だよね?
「それなら一緒に食べようか?」
「えっ」
「たくさん食べる人って見ていて飽きないよね。だから俺は沢山食べる人、好きだよ」
課長はニコニコしながら私の小皿にチャーハンを乗せてくれた。
初めてかもしれない。
こんな風に言われたのは。
「いただきます!」
「うん。俺もいただきます」
そして二人でデカ盛りチャレンジのチャーハンを食べる。
さっきより美味しいかも。
「美味しい。やっぱりチャーハンはデカ盛りですね」
「そうだな。光さんの美味しそうに食べる姿を見ると癒されるよ」
「ん? 癒される? ということは、、、」
「まさか、、、」
「立ち場は忘れましょうね。ハルさん」
「そうだね。杏」
二人でクスクス笑った後、チャーハンを食べた。
課長も案外食べる人で、いつもよりか早く食べ終わった。
「ハルさん。カケルさんがいなくなったらデカ盛りチャレンジができなくなるので一緒に来てもらえますか?」
「そうだね。カケルさんがいなくなったら、できるだけ付き合うよ」
「本当ですか? やったぁ。約束です」
私が小指を差し出すとハルさんは小指を私の小指に絡める。
そして私が指切りの歌を唱え約束が交わされた。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
カケルさんの出勤が、とうとう最後の日となった。
カケルさんの最後の言葉は短かった。
“私は代打ですので”の一言では私には伝わるけど皆には伝わらない。




