12、新人時代は凡人のカケルさん
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
面倒な男性から救ってくれたハル君。
ハル君と昔の話をするが、課長との関係を訊かれる私。
そしてハル君は、昔の私とハル君は恋人のはずだったのに友達以上恋人未満な関係だったと気付かせてくれた。
「光さん?」
課長が、私の顔を覗き込みながら心配をして私を呼ぶ。
私は課長の顔が近いことに驚きながら、自分が考え事をしていて課長の話を全く聞いていなかったことに気付く。
「えっと、すみません課長。何のお話でしたか?」
「一週間後に共同開発の案件で社長が一人で来るみたいだから、光さんに説明をする担当になってくれないかなと思ったんだよ」
「私がですか? でも、、、」
「光さんは社長と仲が良いから、社長の顔色とかを見て、納得していない所なんかを俺達に教えてくれると助かるんだけど、どうかな?」
「そんな大役はできませんよ」
私は不安になり、大きく頭を横に振って断る。
「光さんならできるよ。カケルさんの隣でカケルさんの仕事の仕方を見てきているんだからさ。それに俺は、この日のために光さんに仕事を教えたつもりだから」
そんなに自信満々に言われても、私には何も身に付いていない気がするのよ。
「大丈夫。キミにはノートがあるから。いつも教わったことはメモにとり、それをまとめたノートがあるだろう?」
「はい。でも、、、」
「キミにはできる。この案件はキミの成長への大きな一歩なんだよ」
課長に言われると、できる気がしてきた。
それに相手は全然知らない人じゃない。
これはチャンスなんだ。
「分かりました。でも、説明が難しい所は課長にお願いするかもしれません」
「うん。俺は一応、デスクで待機してるよ」
「一緒には居てくれないんですか?」
「俺が居るより、二人の方が良いと思うんだ。社長もキミも」
私は課長が居た方が安心するんだけどな。
でもハル君も一人で来るみたいだし、私も一人で挑もう。
それから一週間なんて直ぐに過ぎていった。
でも、ちゃんと準備をした。
自信を持って説明できる。
「杏ちゃんなら必ず成功するわよ。だって杏ちゃんは、新人の時の私よりも優秀だからね」
「神様のカケルさんがですか?」
「そうよ。昔は神様じゃなくて凡人だったのよ」
カケルさんは笑って私を和ませてくれた。
カケルさんの優しさが嬉しい。
なんだか成功するような気がするよ。
カケルさんありがとうございます。
「あっ、杏」
ハル君が私を見つけて近寄ってくる。
「社長を会議室に案内するから、杏ちゃんは課長と最終確認をしてきたらどう?」
「そうですね。カケルさんありがとうございます。ハル君をお願いします」
ハル君に“後で行くよ”と伝えてカケルさんにハル君の案内をお願いした。
私は課長のデスクに向かう。
「課長」
課長はパソコンのキーボードを叩く手を止めて私を見る。
その目は、凄く優しかった。
「準備は大丈夫か?」
「はい!」
「うん。元気も良いし大丈夫みたいだな」
「でも課長」
「なんだ?」
「何かあれば直ぐに呼びに来ますから」
「分かってるよ。だから安心していってこい」
「はい!」
私は会議室へ向かう。
一度深呼吸をしてからノックをして中へ入る。
「説明は一応、全部だけど何か分からないことはある?」
「今のところはないかな?」
「本当?」
「うん。でも、プロジェクトが進み出すと何か不都合が起きたり、分からないことも出るだろうから、その時に色々と頼りにするかも」
「その時は、課長と一緒に解決してプロジェクトを成功させようね」
「うん」
「いたっ」
私はいきなり目に痛みを感じ目を押さえてうつむく。
そんな私に気付いて向かい合わせに座っていたハル君が急いで私に近付く。
「杏?」
「あっ、ごめんね。目の中にゴミが入ったみたいなの」
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと鏡で目を見てくるよ」
「俺が見てやろうか?」
「大丈夫だよ。アイメイクのせいかもしれないから、鏡を見て確認してくるよ」
「そうか」
そして私は会議室のドアを開けると目の前に課長がいた。
どうして課長が?
課長は私を見ると目を見開いた後、会議室へ入っていく。
えっ、何?
ハル君に何か用事なの?
「何をしたんですか?」
課長がハル君に訊いている。
私は片目を手で押さえながら、課長に近寄る。
「課長?」
課長は振り向き私を見た。
その顔は凄く悲しそうで、後悔しているように見えた。
課長は私の腕を優しく掴むと私を引っ張り、会議室のドアを開けて、誰かを探しているようだった。
「カケルさん、光さんをお願いしてもいいかな?」
「はいっ」
課長はカケルさんを見つけて呼んだ。
私をカケルさんにお願い?
どうして?
私、もしかしてプロジェクトから外されたの?
カケルさんが近付き私の腕を取ると思っていたが、カケルさんは会議室の中へ入ってハル君の目の前に立つ。
「社長、少しお話があります。隣の会議室へ来ていただけませんか?」
「はい、分かりました」
ハル君はカケルさんが来るのが分かっていたのか、驚くこともなく静かにカケルさんと一緒に出ていった。
「課長、ちゃんと杏ちゃんと話をしてください。ちゃんと杏ちゃんの声を聞いてあげてください」
カケルさんは、そう言うと会議室を出ていった。
私と課長は何が起こっているのか分からず沈黙が続く。
腕が温かい何かに包まれていることに気付き、私は腕を見てドキドキが止まらない。
課長はしっかりと私の腕を握っていたから。
私の腕に課長の大きな手から温もりが直接伝わり、手を繋いでいるかのような錯覚に陥る。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
会議室で課長と二人きり。
大役を成功させた私は課長におねだりをする。




