11、友達以上恋人未満な過去の二人
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話あらすじ~
私が必要だとカケルさんは、また教えてくれた。
ある日、急遽の代打中のカケルさんに会い、要注意人物を教えてもらったが、その要注意人物が一人でいる私に話しかけてきて、、、。
「彼女に触れないでもらってもいいですか?」
私の後ろから低く威圧感のある声が聞こえたと思ったら、私は腕を引っ張られ後ろへ倒れこむと後ろに立っていた人の胸に背中を預ける形になった。
その人を見上げると、怒っているようで不機嫌な顔がそこにはあった。
「ハル君!」
「杏、ごめん」
私が驚いてハル君を見上げているとハル君は申し訳なさそうにしながら私に言った。
「彼女が一人だったから寂しくないように相手をしていたつもりなんだけど迷惑だったかな?」
「はい。迷惑です」
男性が嫌味のように言ったがハル君はハッキリと言った。
ハル君らしい。
嫌なら嫌だとハッキリと言う。
どんな相手にでも。
男性はチッと舌打ちをしてから何処かへ行った。
私はハル君の胸に背中を預けたままなのに気付き“ごめん”と言って離れる。
「どう? お腹いっぱい食べた?」
「後はデザートのチョコレートかな?」
「どれがいい?」
「そうだね。左から順に全部制覇するつもりなの」
「それなら、どうぞ」
ハル君は、そう言うと私の目の前にチョコレートを差し出す。
「えっ」
「食べさせてあげる」
「えっ、でも」
「昔はしてたじゃん。俺が買った新作のチョコレートを俺の手から食べてたじゃん」
「その言い方は、私が犬みたいに聞こえるわよ」
「犬じゃないよ。ほらっ、あ~ん」
「あ~ん」
昔の様に口を開けるとチョコレートが口の中に入ってくる。
甘くて美味しすぎる。
「その顔、好きなんだよね」
ハル君に言われてドキッとした。
私も、私の顔を見て嬉しそうに笑うハル君の顔が好きだった。
昔は。
チョコレートを食べ終わるとハル君は私を離さなかった。
そう。
私はハル君の隣にずっといたの。
ハル君が言うには、私がいると女性が来ないんだって。
だから他の社長さんと仕事の話がスムーズにできるらしい。
隣にいる私は、何の話をしているのか分からないまま、ただ隣にいた。
つまんない。
「ごめん。つまらないよね?」
「えっ」
「顔におもいっきり出てるから」
「嘘。ごめん」
「いいよ。もう、終わったし帰ろうか?」
「えっ、いいの?」
「もちろん」
やった。
この窮屈な場所からおさらばできる。
そしてハル君の運転で家まで送ってもらう。
「ねぇ、杏」
「何?」
ハル君が信号で停まると、真剣な顔で私を見てくるから緊張しながら言った。
「課長さんと付き合ってんの?」
「はあ? そっ、そんなわけないじゃん。課長は優しいし、会社でも人気だし、面倒見の良い人だから、私なんかが付き合えるわけないじゃん」
「ねぇ、杏。その言い方って付き合えるなら付き合いたいって言ってるのと同じなんだけど?」
「えっ、はあ? そっ、そんなわけないわよ」
「杏、焦りすぎ。嘘をつくのが下手すぎるのは昔から変わってないよね?」
ハル君は昔を思い出したのかクスッと笑って言った。
「杏ってさ、俺と付き合っていた時、俺のこと好きだった?」
「えっ、好きだから付き合っていたんだよ?」
「俺のどこが好きだったわけ?」
「笑わせてくれる所と、一緒にいて気を遣うこともなかったし、顔も良かったし」
私は、照れ隠しでふざける様にあの時の本心を言った。
「それって友達として好きとかじゃないよね?」
友達?
そう言われたら友達として好きでも当てはまるかもしれない。
でも、あの時は付き合っていたんだし、恋人として好きだったんだと思う。
「杏。俺と付き合っていた時の気持ちと課長さんへの気持ちって同じ?」
ハル君に言われてドキッとした。
私は、その反応で分かってしまった。
全然違う。
課長のことを思い出すとドキドキが止まらない。
課長の優しい笑顔も、課長の心配する顔も、課長の照れてる顔も、思い出すとドキドキが止まらない。
「今の杏の、そんな顔を俺は見たことがない」
「えっ」
「俺は杏にとって、、、いいや。なんでもない」
「何? 何て言うつもりだったの?」
「いいや。俺も杏と同じだからさ」
「同じ?」
「そう。俺も付き合っている時、杏と同じ気持ちだったんだと思う」
ハル君も同じ?
恋人なのか友達なのか分からない距離。
私達は、そんな微妙な距離を楽しんでいたのかもしれない。
「でもハル君。私はハル君が嫌いになって別れたわけじゃないよ」
「えっ」
「ハル君から別れを言われた時は、バタバタしていたから“分かった”の一言しか言えなかったけど」
私はハル君を見上げて、真っ直ぐと見る。
そして、あの日、言えなかった言葉を口にする。
「ありがとう」
「えっ」
「あの日、別れを告げたのは私のためでしょう? 私の受験勉強の邪魔をしないように身を引いてくれたんだよね?」
「どうして?」
「ハル君が優しいのは知っているから。あの時は余裕がなくて気付けなかったけど、大人になって気付いたのよ」
「杏は、遅すぎるんだよ」
そう言ってハル君は、私のおでこを人差し指でツンツンとした。
「だって、それはハル君が優しすぎるからよ。ハル君の優しさに甘えていたの」
「俺のせいかよ?」
「ハル君は悪くないよ。ただ私が子供だっただけ。ハル君の気持ちを考えられていなかっただけなの」
「違う。悪いのは、全てが遅かった俺のせい」
「遅い? ハル君が?」
「そう。だから杏。後悔をする前に動け。タイミングを見誤るな」
「ハル君?」
ハル君は後悔してるの?
何を後悔してるの?
「心配するなよ。俺は後悔をしていたけど、後悔をする必要がないことが分かったからさ」
「ん? それは、後悔したことが無駄だったってこと?」
「無駄、、、というより、良い経験になったよ」
「そっか。レベルアップだね?」
「まっ、そういうこと」
ハル君はニコッと笑って私の頭を撫でる。
課長の様に遠慮気味に撫でるのではなく、私に勇気を与えるかのように少し乱暴に撫でた。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話予告~
課長に大役を任された私。
不安でたまらない私に課長は自信を持たせた。
そして優しいカケルさんは和ませてくれて私は大役に挑む。




