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異世界ランウェイは君のために 〜平民の仕立て屋が、規格外の公爵令嬢を世界一美しく着せ替えて覇権ブランドを創るまで〜  作者: 虹の箸


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9/14

パンツスタイル

あの甘い夜から、僕の中で何かが決定的に変わった。


彼女への愛と、彼女を縛るこの世界の身分の壁を、僕の服で、僕の事業でぶち壊したいという強烈な野心。そして、デザイナーとしての飽くなき情熱。


その二つの欲が、僕の中で激しく、複雑に絡み合い、僕の指先からはかつてないほど革新的で、挑発的なデザインが次々と生み出されていった。


女性のパンツスタイルも、その一つだった。


この時代、淑女はドレス

の下にドロワーズを穿くことはあっても、足のラインが出るパンツ(ズボン)を穿くなど、異端中の異端。はしたなく、野蛮な男装とされていた。


だが、僕は知っている。彼女が騎士団長として鎧の下に穿いている、機能的な革のパンツの動きやすさを。


そして、彼女が時折こぼす、「ドレスは窮屈で、剣も満足に振るえぬ」という嘆きを。


(彼女を、もっと自由にしたい。彼女が少しでも動きやすく、楽に、それでいて誰よりもオシャレに過ごせる服を作りたい……!)

僕のその想いが、女性用のタキシード「スモーキング・ジャケット」をオートクチュールとして形にしたのだ。


しなやかな最高級のウールを使い、女性の凛とした身体のラインを際立たせるカッティング。


そして、動きやすさを追求した、流麗なシルエットのパンツ。


だが、王都の古い慣習に縛られた人々は、まだこの「革命」を受け入れる準備ができていなかった。

   

王都で公爵夫人のサロンに次ぐ勢力を持つとされる、侯爵夫人のサロン「白百合の会」。


そこは、保守的な古い貴族たちの溜まり場であり、王太子の無能さを擁護する勢力の中心でもあった。


王太子絡みのしがらみで、サロンの晩餐会に招待されたというレオノーラ様がどのような扱われ方をするか、胸を騒がせていた。


レオノーラ様は、僕が仕立てた「スモーキング・ジャケット」のパンツスーツスタイルで、よりによって政敵とも言える侯爵夫人のサロンへ向かったのだ。


それは、彼女の長い脚と凛とした背筋を強調する、白馬の騎士のように美しい姿だった。


しかし、サロンの入り口で、彼女は立ち塞がった侯爵夫人に、入場を拒否されたという。


「まあ、レオノーラ公爵令嬢。そのお姿は……一体何事ですの?」

侯爵夫人は、扇で口元を隠しながらも、その瞳には明らかな嫌悪と嘲笑を滲ませていた。


「ここは淑女が集う、格式高いサロンですわ。パンツスタイルの女性など、はしたなくてお通しすることはできません。お引き取りくださいませ」


周囲の貴族たちからも、ヒソヒソと陰口や、あからさまな侮蔑の視線が向けられる。


かつてのレオノーラ様なら、その場に留まることに忸怩たる思いを抱きながら、静かに踵を返していただろう。


だが、あの日を境に、彼女の心にも、僕と同じ「革命」の灯が灯っていた。


(アッシュが、私のために作った服だ。この国の古い常識など、彼の前では塵に等しい……!)


レオノーラ様は、微塵も動じず、ただ堂々と、侯爵夫人をその紫水晶の瞳で見下ろした。


「侯爵夫人。パンツが、問題なのですか?」

「ええ、当然ですわ。淑女はスカートを着るもの。それがこのサロンの……いえ、社交界の常識ですわ」


侯爵夫人の言葉を、レオノーラ様は待っていた。


彼女は、公爵令嬢としての矜持と、アッシュの服への絶対的な信頼を持って、その場で誰もが予想もしなかった「機転」を利かせたのだ。


「……そうですか。ならば、問題はありません」

彼女は、そう言うと、躊躇なく、そして迷いなく、腰のベルトに手をかけ、その場で堂々とパンツを脱ぎ捨てたのだ。


「ひ……!」

「な……!!」

サロンの入り口は、悲鳴と驚愕の渦に包まれた。


だが、次の瞬間、全員がその場に石のように硬直した。


パンツを脱ぎ捨てたレオノーラ様の姿。

彼女が纏っていた「スモーキング・ジャケット」は、僕が女性向けにデザインした際、彼女の長身に合わせて丈を長めに設定していた。


パンツがなくなった瞬間、そのジャケットは、膝丈のコートドレスのように、彼女のしなやかで、引き締まった脚を大胆に、しかし気高く露出させていたのだ。


脱ぎ捨てたパンツの下には、僕は彼女のために用意していた、最高級のシルクのタイツが、その脚のラインを完璧に美しく彩っていた。


「……これで、スカートですわね、侯爵夫人」

レオノーラ様は、優雅に、かつ挑発的にスカートの裾(ジャケットの裾)を摘み、完璧なカーテシーを執ってみせた。


「パンツは脱ぎましたわ。これで、淑女として、このサロンに入る資格はありますでしょう?」

「あっ……う、あ……」

侯爵夫人は、言葉を失った。


パンツを脱いだ以上、「パンツスタイルの女性はお断り」という論理は通用しない。


だが、その大胆な行動と、何よりそのジャケットをドレスとして着こなした彼女の、息を呑むような美しさと凛とした姿に、反論することすらできなかったのだ。


「……では、失礼いたしますわ」

レオノーラ様は、唖然として立ち尽くす侯爵夫人と、静まり返った群衆を置いて、堂々と、かつ優雅にサロンへと足を踏み入れた。

その背中は、この上なく気高く、そして自由に見えた。

   

「……あの人は……!」

工房で、公爵家の使いから噂を聞いた僕は、驚愕のあまり、持っていた鋏を床に取り落とした。


その場でパンツを脱ぐ? 侯爵夫人のサロンで?


なんて、大胆で、情熱的で……そして、なんて素晴らしい機転なんだ!


僕の作った服を、彼女は自分の機転で、新しい美しさに昇華させた。


「……ふふっ、あはははは!」

僕は、愛おしさが込み上げて、その場に座り込んで爆笑した。


彼女のその行動は、古い常識への痛快な反撃であり、僕の服作りへの最高の答えだった。


そして、笑いながら、僕はハッと気づいた。


(彼女がジャケットをドレスとして着こなした……? コートドレス……ジャケットドレス……?)

彼女の大胆な行動は、僕にデザイナーとしての新しい、そして強力なインスピレーションを与えてくれたのだ。


女性のパンツスタイルは、まだ時期尚早かもしれない。


だが、ジャケットをミニドレス(コートドレス)のように着こなすという発想は、この国の古い慣習を、エレガントに、かつ挑発的に打ち破る、新しいモードになる……!

「……レオノーラ様、ありがとうございます。あなたは、僕の最高のミューズであり、パートナーだ」


僕は立ち上がり、床に落ちた鋏を拾い上げると、まだ熱を帯びた瞳で、新しいスケッチブックを手に取った。


彼女が愛おしくて、彼女の機転が素晴らしくて、そして、新しい服を作りたいという欲求が、もう止まらなかった。


彼女の機転が、王都の古い常識を脱ぎ捨てたられた夜。


僕のアトリエでは、二人の愛と情熱が絡み合った、さらなる「革命」の幕開けとなる、新しいドレスのデザインが描かれようとしていた。


お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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