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LAVeLESS  作者: 神矢
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ゲルムの交渉術

 ノアとの話を終え。


 ゲルムが部長のもとへ戻った頃には。


 既に。


 かなり遅い時間になっていた。


「失礼します。」


「あぁ。」


 部長が顔を上げる。


「どうだった?」


「…………。」


 ゲルムは。


 小さく息を吐いた。


 長かった。


 大会優勝者を追い。


 トーリア家へ辿り着き。


 候補を絞り。


 何日も尾行した。


 調べても。


 調べても。


 ただの見習いにしか見えなかった男。


 それでも。


 一つずつ。


 違和感を拾い。


 確信へ変えた。


 そして。


 今日。


 ようやく。


「契約を取りました。」


「……!」


 部長が立ち上がる。


「本当か?」


「はい。」


 ゲルムは頷いた。


「情報調査部、調査隊隊長補佐。」


 一拍。


「月二百万で合意しています。」


「二百万?」


「はい。」


「……よく、その金額で取れたな。」


「私も少し驚いています。」


 最初の反応を見た時は。


 失敗したと思った。


 場合によっては。


 その場で。


 条件を上げるつもりだった。


「現在の任務については?」


「継続してもらいます。」


「そうか。」


「こちらからは必要な時に依頼を出す。可能な範囲で動いてもらう形です。」


「それで了承したんだな?」


「はい。」


「…………。」


 部長は。


 ゆっくりと息を吐いた。


 そして。


 笑う。


「よくやった。」


「ありがとうございます。」


 その言葉を聞いて。


 ゲルムも。


 ようやく。


 肩の力を抜いた。


「……さすがに疲れました。」


「だろうな。」


 他社が。


 既に諦めていた人材。


 正体すら。


 誰も掴めなかった。


 そこから。


 一人の人間へ辿り着き。


 さらに。


 独占契約まで。


 取り付けた。


 情報調査部としても。


 大きな成果だった。


「休め。」


「はい。」


「――と言いたいところだが。」


「?」


 部長が。


 机から離れる。


「社長んとこ行くぞ。」


「……今からですか?」


「当たり前だ。」


 部長は笑った。


「ずっと待ってたんだぞ。」


「…………。」


 ゲルムは。


 ほんの少しだけ。


 天井を見る。


「分かりました。」


「行くぞ。」


「はい。」


 念願だった。


 魔導大会優勝者との。


 独占契約。


 その報告を持って。


 二人は。


 社長室へ向かった。


「行くぞ。」


「はい。」


 部長に続き、ゲルムは部屋を出た。


 向かう先は、社長室。


 既に、かなり遅い時間だった。


 だが、今日の報告だけは明日へ回すものではない。


 魔導大会優勝者。


 大会が終わってから、多くの者がその正体を追った。


 商人。


 貴族関係者。


 各国の諜報員。


 そして。


 ビヨンド商会も。


 その一つだった。


 他の商会が。


 一つ。


 また一つと。


 調査を諦めていく中。


 ゲルムは調査を続けた。


 トーリア公爵家。


 そこから。


 一人の少年へ辿り着いた。


 ノア。


 十代。


 ハンター歴一年。


 護衛見習い。


 何日も追った。


 調べた。


 直接、接触もした。


 そして、今日。


 ようやく、独占契約を結んだ。


「失礼します。」


「入れ。」


 部長が扉を開ける。


 社長は、まだ机に向かっていた。


「社長。」


「どうした?」


 二人を見る。


「こんな時間に揃って。」


「例の件です。」


「……!」


 社長の表情が変わった。


「ゲルム。」


「はい。」


「どうだった?」


 ゲルムは、一歩前へ出る。


「契約を取りました。」


「…………。」


 社長は、何も言わなかった。


 数秒。


 ゲルムを見る。


「本当か?」


「はい。」


「独占で?」


「はい。」


「……そうか。」


 椅子へ、深く座り直す。


 そして、小さく息を吐いた。


「よくやった。」


「ありがとうございます。」


「条件は?」


「情報調査部、調査隊隊長補佐。」


 一拍。


「月二百万です。」


「…………。」


 社長の動きが止まった。


「二百万?」


「はい。」


「五百万まで許可したはずだが。」


「はい。」


「それを?」


「二百万で了承しました。」


「…………。」


 社長が、部長を見る。


 部長も、小さく頷いた。


「私も確認しました。」


「…………。」


 再び、社長がゲルムを見る。


「ゲルム。」


「はい。」


「お前。」


 僅かに笑う。


「気に入られたな。」


「……私がですか?」


「あぁ。」


「…………。」


「そうでなければ、その金額では取れん。」


 社長が、腕を組む。


「五百万でも安いと考えていた人材だ。」


「私も同意見です。」


 部長が続ける。


「最初の接触が効いたのでしょう。」


「夫の件か。」


「はい。」


 ノアが、ある既婚女性と。


 定期的に会っていた。


 その夫が、二人の関係を疑い始めている。


 ゲルムはそれを調べ。


 本人へ伝えた。


 何かを要求することもなく。


 ただ、情報だけを渡した。


「なるほどな。」


 社長は頷く。


「先に恩を売ったわけか。」


「結果的には。」


「他の工作員が担当していれば。」


 社長は、少し考える。


「こうはいかなかったかもしれんな。」


「…………。」


 ゲルムは、今日の交渉を思い返す。


 月二百万。


 そう伝えた瞬間。


 ノアは、明らかに驚いた。


 あれは、演技には見えなかった。


 だが。


 その直後。


 二百万程度は当然だと。


 そう言った。


 最後まで、意味を測りかねていた。


(……そういうことか。)


 自分だから、その条件を受けた。


 そう考えれば、あの不可解な反応にも。


 一応、説明はつく。


「ゲルム。」


「はい。」


「今後も、ノアとの窓口はお前がやれ。」


「私が?」


「あぁ。」


「分かりました。」


「せっかく築いた関係だ。変える理由がない。」


「はい。」


「それと。」


 社長は、机の上の書類を閉じた。


「今月から、月給を百五十万にする。」


「…………。」


 ゲルムが、僅かに目を見開く。


 現在は、月百二十万。


「よろしいのですか?」


「当然だ。」


「ありがとうございます。」


「まだある。」


「?」


 社長が、指を三本立てた。


「今回の特別報酬だ。」


 一拍。


「三百万。」


「……!」


「受け取れ。」


「…………。」


 ゲルムは、静かに頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「それだけの仕事をした。」


 五百万まで、出すつもりだった。


 それを二百万で契約した。


 単純な金額だけでも、十分すぎる成果。


 だが、それ以上に。


 他社が、接触すらできなかった人材と。


 独占契約を結んだ。


 その価値は、金額だけでは測れない。


「本当によくやった。」


「はい。」


 ようやく、終わった。


 ゲルムは、僅かに肩の力を抜く。


「今日はもう帰れ。」


「はい。」


「さすがに疲れただろう。」


「……そうですね。」


 ゲルムも、少しだけ笑った。


「では、失礼――。」


「社長。」


 扉が、叩かれた。


「なんだ?」


「少々よろしいでしょうか。」


「入れ。」


 一人の社員が、部屋へ入ってくる。

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