白熱
先に踏み込んだのはレイ。
右拳。
セルバは左腕で受ける。
そのまま身体を沈め、右拳を返した。
「っ――!」
レイは首を傾ける。
拳が頬を掠めた。
すぐさま左を返す。
セルバの頬へ直撃。
「ぐっ……!」
顔が横へ弾かれる。
だが。
足は動かない。
すぐに視線だけを戻し。
「いい拳だ。」
「そりゃどうも……!」
もう一発。
セルバは僅かに身を引く。
空を切った。
その瞬間。
踏み込んでいたレイの懐へ、セルバが一歩入る。
「――ッ!」
腹部へ拳が突き刺さった。
「ぐっ……!」
身体が浮く。
続けざま。
頬。
――ドンッ!!
「がっ――!」
レイの身体が大きく吹き飛んだ。
数メートル。
地面へ叩きつけられ、そのまま何度も転がる。
「ピエロ選手ぅぅぅ!!」
「今度はセルバ様の拳が炸裂ぅぅぅ!!」
レイは仰向けになったまま、大きく息を吐いた。
「……っはぁ。」
数秒。
腕をつく。
身体を起こし。
そのまま立ち上がった。
セルバは動かない。
拳を構えたまま待っている。
「どうした。」
「もう終わりか?」
レイは口元の血を拭った。
「まさか。」
再び拳を構える。
「今のは効きましたけどね……!」
地面を蹴る。
再び。
二人が激突した。
拳。
拳。
拳。
レイの右がセルバの頬を捉える。
顔が弾かれる。
続けて腹。
「ぐっ……!」
セルバの身体が僅かに沈む。
それでも倒れない。
返しの拳。
レイが腕で受ける。
そのまま身体を回し、左を振るう。
セルバが避ける。
今度は右。
頬へ直撃。
「ぬっ……!」
血が飛ぶ。
それでも。
セルバの拳が返ってくる。
「っ……!」
レイの顎を掠める。
身体が揺れた。
その隙へ。
もう一発。
「ぐぁッ!」
レイが後方へよろめく。
踏み留まる。
すぐに前へ。
「おおおおおおおお!!」
「凄まじい!!」
「両者、一歩も引きません!!」
「これは本当にエキシビションマッチなのでしょうかぁぁぁ!!」
レイの拳がセルバの腹へ沈む。
「ぐっ……!」
セルバの口元から、血が滲む。
レイは止まらない。
左。
右。
セルバも返す。
互いの拳が頬を捉える。
「ぐっ!」
「っ……!」
二人の顔が同時に弾けた。
それでも。
どちらも退かない。
「はは……!」
レイが笑う。
「やっぱ強ぇな……!」
セルバも血の滲んだ口元を吊り上げた。
「当然だ。」
次の瞬間。
再び拳が交差する。
時間が経つほど。
打撃の数は増えていった。
レイの拳がセルバを捉える。
一発。
二発。
何度受けても。
セルバは倒れない。
身体を揺らし。
血を流し。
それでも。
踏み留まる。
「……っ!」
そして。
僅かな隙を見つければ。
必ず拳が返ってくる。
――ゴッ!!
「がっ……!」
レイが地面へ倒れる。
すぐに起き上がる。
また向かう。
殴る。
殴られる。
倒れる。
「はぁ……!」
立ち上がる。
再び拳を構える。
セルバの頬も。
口元も。
すでに血に濡れていた。
呼吸も荒い。
それでも。
一度として膝はつかない。
「まだ来るか。」
「……当たり前だろ。」
レイが踏み込む。
拳がセルバの顔面へ入る。
「ぐっ……!」
頭が大きく揺れた。
レイはさらに踏み込む。
右拳。
だが。
セルバが僅かに身体を沈めた。
「――ッ!」
空を切る。
直後。
拳がレイの脇腹へ突き刺さった。
「がっ……!」
膝が落ちる。
そこへ。
もう一発。
頬。
――ドンッ!!
レイの身体が横へ弾けた。
地面を転がる。
一度。
二度。
三度。
止まる。
「…………。」
観客席から。
大きな歓声が響いている。
レイは地面へ手をついた。
「っ……。」
腕が震える。
それでも。
身体を起こす。
膝を立て。
また。
立ち上がった。
セルバは無言でその姿を見つめる。
レイは荒い息を吐きながら。
もう一度。
拳を構えた。
そして。
真正面から、セルバへ向かっていった。
⸻
貴賓席。
ティアは瞬きも忘れたように、闘技場を見つめていた。
セルバの拳が、ピエロの頬を捉える。
身体が大きく傾く。
それでも倒れない。
足を踏み締め、もう一度拳を構える。
そして真正面から、王国最強へ向かっていく。
その姿を見つめているうちに。
ティアの脳裏へ、遠い日の光景が蘇った。




