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LAVeLESS  作者: 神矢
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78/90

決勝戦 ヒナ・ヴィルガルム

 闘技場を埋め尽くす観客たちの歓声は、先ほどまで以上の熱気に包まれていた。


 残るは、あと一試合。


 アルベルト魔導大会――決勝戦。


 最強の十代を決める、最後の戦いである。


「さあ皆さん!!」


 実況の興奮した声が闘技場中へ響き渡る。


「ついに決勝戦です!!」


「グランフェルナ王国代表、ヒナ・ヴィルガルム選手!!」


「対するは、正体不明のプロハンター!!」


「同じくグランフェルナ王国在住、謎のピエロ選手です!!」


 歓声が一層大きくなる。


「風の勇者シルフィード選手との激闘で、一気に評価を上げたピエロ選手ですが――」


「現在のオッズは、1.3対2.7!!」


「それでも、開催国代表ヒナ選手が優勢と見られております!!」


「無傷で決勝まで勝ち上がってきたヒナ選手が、そのまま優勝となるのか!!」


「それとも、正体不明のピエロ選手が最後まで番狂わせを起こすのか!!」


「注目です!!」


 実況の声が響く中。


 二人は静かに中央へ歩み寄った。


 ヒナはレイを見つめる。


 ピエロ姿。


 奇抜な衣装。


 白塗りに隠れた素顔。


 それでも。


(……あの強さ。)


(風の勇者戦で、竜巻をかき消した異常な技。)


(今は、少し猫背だけど。)


(戦闘中の動き。)


(どう見ても、あいつよね。)


 小さく息を吐く。


(プロハンターで匿名参加なんて。)


(面倒事が嫌いなあいつしかいないじゃない。)


 ヒナは小さく笑った。


「一番得意な武器を持ってこないなんて。」


「舐められたものね。」


 レイは肩をすくめる。


「何の話だ?」


 腰の短剣を軽く叩く。


「俺の武器はこいつだ。」


(……さすがに、こいつにはバレたか。)


 ヒナは少しだけ嬉しそうに笑う。


「あんたとは、一度戦いたかったの。」


 レイは苦笑した。


「……はぁ。」


「まぁ、俺もそれは思ってたけど。」


 一度だけ周囲を見回す。


 観客席。


 貴賓席。


 そして実況席。


 誰にも聞こえないほど小さな声で。


「そうだよ。」


「俺だよ。」


「お前に気を遣うなんて、ありえねぇ。」


「制限はあるが――」


 口元を少しだけ吊り上げる。


「その上で、全力でやってやる。」


 ヒナも自然と笑みを浮かべた。


「正体がバレないように、ね。」


「本当の全力が見られないのは残念だけど……」


 レイを真っ直ぐ見据える。


「それでも。」


「あんたと戦えるなんて。」


「しかも、こんな晴れ舞台で。」


「楽しみだわ。」


 レイは頭を掻いた。


「まぁ。」


「結果がどうなっても、お前なら優勝賞品くらい譲ってくれるだろ。」


 ヒナは呆れたように笑う。


「めんどくさがりのあんたが、こんな大会に出るなんておかしいと思ってた。」


「やっぱり優勝賞品が目当てだったのね。」


 そして、優しく微笑む。


「いいわ。」


「でも、あんたのためじゃない。」


「あの子のためよ。」


 その笑みが、すっと消えた。


 代わりに宿るのは、闘志。


「だから――」


 細身のレイピアを静かに構える。


「安心して、負けなさいッ!!」


 ヒナが地面を踏み込んだ、その瞬間。


 闘技場の空気が、ずしりと重く沈んだ。


 ヒナがレイピアを構え、小さく息を吸う。


 次の瞬間。


 足元へ幾重もの魔力が流れ込んだ。


 淡い紫色の魔力が闘技場の床を這い、二人を中心として円を描くように広がっていく。


 誰の目にも見えるほど濃密な魔力だった。


 ヒナは静かに一歩踏み出す。


 その足取りは、まるで舞を踊るように美しい。


 一歩。


 また一歩。


 規則正しく見えるその動きとは裏腹に、足元では極めて複雑な術式が絶え間なく組み替えられていた。


 実況が思わず声を上げる。


「出ましたぁぁ!!」


「ヒナ選手の代名詞ともいえる重力魔法です!!」


「自身と相手の重力を自在に操る、極めて特殊な第1級魔法!!」


「この重力魔法を前に、ピエロ選手はどう戦うのか!!」


 レイは舌打ちした。


「さっそく使ってきやがったか……!」


 すぐさま後方へ飛び退こうとする。


(この魔法だけは……。)


(一度ハマったら終わりだ。)


 しかし。


 右脚で地面を蹴った、その瞬間。


「っ……!」


 身体がわずかによろめく。


 右脚。


 踏み込んだはずの脚だけが、突然鉛のように重くなる。


 無意識に身体が反応した。


 腰を捻る。


 左脚へ魔力を流し込み、無理やり体勢を立て直す。


「しまった……!」


「もう範囲内か!」


 ヒナは小さく笑う。


「遅い。」


「もう逃がさない。」


 軽く地面を蹴る。


 その身体は、風よりも軽やかに加速した。


 一瞬で間合いを詰める。


 レイピアの切っ先へ、重力属性の魔力が凝縮されていく。


 だが。


 その突きが放たれる直前。


 ヒナ自身の腕へ重力が加わる。


 レイピアがわずかに沈み込む。


 その一瞬だけ、突きの威力が爆発的に跳ね上がった。


「くらいなさい――」


「グラビートスピア!!」


 鋭い一閃。


 レイは反射的に身体を捻る。


「くっ……!」


 紙一重。


 だが。


 ――ドォォォンッ!!


 突きの余波だけで、身体が大きく吹き飛ばされる。


 地面を何度も転がりながら受け身を取り、ようやく立ち上がった。


「っはぁ……!」


 苦笑する。


(何度か見てきたが……。)


(触れてもいねぇのに、この威力か……。)


(相変わらず、とんでもねぇ魔法だ。)


 観客席もどよめく。


「今の避けたぞ!?」


「いや、避けたのに吹っ飛んだ!」


「なんだあの突き!」


 実況も興奮を隠せない。


「これがヒナ選手の重力魔法!!」


「通常の重力魔法とはまるで別物です!!」


「重力場の中では、相手だけでなく自身の重力までも自在に操る!!」


「ピエロ選手、防戦一方だぁぁぁ!!」


 ヒナは攻撃の手を緩めない。


 一歩。


 また一歩。


 特殊なステップを刻むたび、重力場そのものが生き物のように姿を変えていく。


 レイが踏み込もうとした瞬間。


 左脚だけが重くなる。


「っ!」


 身体が止まる。


 無意識に右脚へ魔力を流し込み、踏み替える。


 今度は肩が軽くなる。


 上体が不自然に跳ねる。


 腰を捻り、強引に姿勢を戻す。


 そこへ突き。


 紙一重。


 また避ける。


 また吹き飛ばされる。


 ヒナは唇を噛んだ。


(どうして……。)


(そこまで動きを乱しているのに、当たらないの……!)


 レイは、ゆっくりと立ち上がる。


「これくらいのハンデ……。」


 苦笑する。


「……と言いたいところだが。」


「マジで身体が動かねぇ。」


 肩で息をしながらも、その視線だけは変わらない。


 ずっと見ている。


 ――ヒナの足元だけを。

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