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LAVeLESS  作者: 神矢
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プロハンターの実力

 開始の合図と同時に、二人はゆっくりと間合いを測る。


 歓声に包まれた闘技場。


 体格差だけを見れば、大人と子供に見える。


 巨大な鉄の棍棒を肩へ担ぎ。


 レイは短剣を一本、静かに構えるだけだった。


 先に口を開いたのはアランだった。


「よう。」


 口元を吊り上げる。


「予選、見てたぜ。」


「スピードには自信があるみたいだな。」


 棍棒を肩へ担ぎ直し、不敵に笑う。


「でも、俺より遅いぜ。」


「そうか。」


 レイは短く答えた。


 あまりにもあっさりとした返事に、アランは眉をひそめる。


「ビビっちまったか?」


「プロハンターなんてな。」


「危機回避能力や、その年の試験内容次第じゃ、素の実力がそこまでなくても奇跡的に受かる奴もいる。」


「運だけでここまで来た奴を何人も見てきた。」


 レイは黙って聞いている。


「もちろん。」


「プロになれただけでも、お前の運は神がかってると思うがな。」


「そうか。」


 レイは変わらず無表情だった。


「早く来いよ。」


「……は?」


 アランが首を傾げる。


「何か罠でもあるんだろ?」


「弱い奴は、それで勝つしかねぇからな。」


 観客席へ視線を向け、ニヤリと笑う。


「せっかくこんな大舞台なんだ。」


「ただ倒すだけじゃつまらねぇ。」


 そう言うと、自らの胸をドンッと叩いた。


「最初の一撃は譲ってやる。」


「俺の肉体は鍛え抜いてある。」


「その細腕程度じゃ、傷一つ付かねぇ。」


 腕を大きく広げる。


「さあ。」


「ここへ思いっきりぶつけてみろ。」


 観客席がざわつく。


「おおっ!」


「アラン選手、余裕だ!」


「真正面から受ける気か!」


 レイは静かに問い返した。


「……いいんだな?」


「ああ。」


 アランは笑う。


「遠慮なんかするな。」


「早く来い。」


 数秒の沈黙。


 レイは小さく息を吐いた。


「分かった。」


 右手をゆっくりと握る。


 その瞬間だった。


 身体を包んでいたオーラが爆発的に増大する。


 溢れ出した膨大なオーラは、そのまま右腕へと集まり始めた。


 肩。


 肘。


 手首。


 そして拳へ。


 膨大なオーラが一点へ凝縮されるたび、空気が震えた。


 ビリ……。


 ビリビリ……。


 闘技場全体へ、重苦しい圧が広がっていく。


 実況席の女性も思わず声を上げた。


「お、おーっと!!」


「何やら会話をしていたようですが、アラン選手、自ら身体を差し出しています!!」


「そしてピエロ選手!!」


「右の拳へ、とてつもない量のオーラを集中させています!!」


「肉眼でも分かるほどの魔力です!!」


「これは……!!」


「アラン選手の『俺の身体はびくともしない』というアピールなのでしょうか!?」


「ですが!」


「この一撃、本当に耐えられるのでしょうかぁぁぁ!!」


 観客席から歓声が消えていく。


 誰もが、レイの拳を見つめていた。


 拳だけが、異様だった。


 膨れ上がるオーラが大気を震わせ、闘技場の床にまで細かな砂埃が舞い始める。


 アランの笑みが消えた。


(……なんだ。)


(この魔力は。)


 頬を伝う汗。


 心臓が嫌な音を立てる。


 今まで何度も強敵と戦ってきた。


 だが。


 こんな圧は知らない。


(やべぇ……。)


 喉が渇く。


(こんなの喰らったら……。)


 自然と身体が震えた。


(極纏してようが耐えられるわけがねぇ……。)


(身体ごと……。)


(消し飛ぶ……。)


 レイはゆっくりと一歩踏み出した。


「どうした。」


 静かな声だった。


「さっきまでの威勢は。」


 もう一歩。


「耐えるんだろ?」


 拳を軽く持ち上げる。


「望み通り。」


「全力でぶちかましてやるよ。」


 その言葉だけで、アランの足から力が抜けた。


 ガクン。


 膝が地面へ落ちる。


「っ……!」


 実況が目を見開く。


「お、おーっと!!」


「アラン選手!!」


「膝をついたぁぁぁ!!」


「攻撃はまだ受けていません!!」


「これは……!」


「ピエロ選手の放つ、とてつもないオーラに耐え切れなかったのでしょうかぁぁぁ!!」


 会場中が騒然となる。


 レイは拳を下ろし、小さく鼻で笑った。


「……ふん。」


「この程度の覇気にも耐えられねぇのか。」


 その言葉は、恐怖よりも深く、アランの誇りを抉った。


「……っ!!」


 アランの表情が怒りに染まる。


「くっ……!」


「くそがぁぁぁぁぁぁっ!!」


 地面を砕く勢いで飛び出す。


 巨大な棍棒を両手で握り締め、渾身の力で振り下ろした。


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 風を裂く轟音。


 観客席から悲鳴が上がる。


 そして――。


 キィィィィンッ!!


 甲高い金属音が、闘技場全体へ響き渡った。


 誰もが目を疑った。


 レイは左手に握った短剣一本で、アランの巨大な鉄棍を受け止めていた。


 衝撃で足元の石畳が蜘蛛の巣状に砕け散る。


 それでもレイの身体は一歩たりとも動かない。


「な……。」


 アランの目が見開かれる。


「なんだと……!」


「片手で……。」


「俺の一撃を……。」


「防いだ……だと……。」


 実況席の女性も思わず立ち上がる。


「な、なななんとぉぉぉ!!」


「ピエロ選手!」


「左手一本! 短剣一本でアラン選手の渾身の一撃を受け止めましたぁぁぁ!!」


「地面が砕けていることから、とてつもない衝撃だったはずです!!」


 歓声がどよめきへ変わる。


 だが。


 観客の視線は誰一人として左手へ向いていなかった。


 全員が見ていた。


 レイの――右拳。


 なおも膨大なオーラを纏い続ける拳を。


 ビリビリと空気を震わせる圧力は、一切衰えていない。


 まるで、


 「本命はこちらだ」


 そう語っているかのようだった。


 レイは短剣で棍棒を押し返し、小さく息を吐く。


「……ゴンザのおっさんと比べたら。」


「大したことねぇな。」


 アランは舌打ちし、大きく後方へ飛び退いた。


「くそっ!」


 距離を取るなり両手を広げる。


 そして、炎の極大魔法が放たれる。


「ボルケーノ・フレイアァァァッ!!」


 轟ッ!!


 巨大な火柱がレイを飲み込む。


 闘技場が灼熱に包まれた。


「おぉーーっと!!」


「アラン選手の最大火力でしょうかぁぁ!!」


「ピエロ選手、完全に炎へ飲み込まれました!!」


 観客席から悲鳴が上がる。


 しかし次の瞬間。


 炎の中から、一つの影が歩み出る。


 レイだった。


 焦げ跡一つない。


 右手を軽く払う。


 その仕草だけで、身体へ絡み付いていた炎は霧散した。


「炎ねぇ……。」


 退屈そうに呟く。


「この程度の火力じゃ。」


「俺は焼けねぇよ。」


 一歩。


 また一歩。


 ゆっくりとアランへ近付く。


「そろそろ。」


「終わらせるか。」


 その瞬間。


 ドンッ!!


 雷鳴にも似た音が響く。


 レイの姿が消えた。


「――なっ。」


 アランが反応するより早く、


 右拳へ集められていた膨大なオーラが、一瞬で指先へ収束する。


 拳ではない。


 鋭く伸ばした指先。


 抜き手。


 ズンッ――。


 鈍い衝撃音。


 レイの右手は、アランの胸部へ深々と突き刺さっていた。


「が……っ。」


 アランの口から血が溢れる。


「ぐ……。」


「は……えぇ……。」


 レイは静かに右手を引き抜く。


 崩れ落ちるアランを見下ろし、小さく口を開いた。


「最後に一つだけ。」


「教えといてやる。」


 アランは霞む視界の中でレイを見る。


「確かに。」


「プロ試験は、その年の内容次第じゃ運良く受かる奴もいる。」


「それは間違っちゃいねぇ。」


 一拍置く。


「でもな。」


「敵の実力を見極められねぇ奴は。」


「本当のプロにはなれねぇよ。」


 そう言って背を向ける。


「じゃあな。」


 その言葉と同時に、アランの身体が光に包まれた。


 戦闘不能。


 転送魔法が発動する。


 闘技場に静寂が訪れ――


 次の瞬間。


「勝者ぁぁぁぁぁ!!」


「ピエロ選手ーーーーっ!!」


 実況の絶叫が響き渡る。


「圧倒的勝利です!!」


「正体は依然として謎のまま!!」


「次なる相手は、帝国が誇るシルバーナイト!」


「《風に愛されし天才》シルフィード・リザーブ!!」


「これは見逃せません!!」


 闘技場は割れんばかりの歓声に包まれた。


 レイは軽く肩を回しながら、小さく息を吐く。


「……ふぅ。」


 白塗りの顔で、僅かに苦笑する。


「この分なら。」


「決勝までは、楽勝だな。」

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