ハンターギルド アルトーラ支部
昼の日差しが王都を照らし、人通りは朝よりも増えている。
荷車を引く商人。
巡回する兵士。
露店から漂う焼き菓子の香り。
クロノはきょろきょろと辺りを見回しながら歩いていた。
「王都って……本当に人が多いね。」
「まぁ慣れる。」
レイは短く答える。
「今日はまずギルドで登録。」
「その後、定例会。」
「昼過ぎに花屋のおばちゃんの屋根見て。」
「終わったら討伐依頼だ。」
「忙しい……。」
「新人はそんなもんだ。」
「討伐も行くの?」
「行く。」
「聞いてないんだけど。」
「今言った。」
「そういう問題じゃない。」
レイは気にした様子もなく歩き続ける。
しばらくすると、大通りの先に巨大な石造りの建物が見えてきた。
正面には、剣と盾を交差させた大きな紋章。
ハンターギルド・アルトーラ支部。
クロノは思わず足を止めた。
「大きい……。」
「王都支部だからな。」
レイはそのまま巨大な扉を押し開けた。
受付嬢がレイを見るなり笑顔になる。
「レイさん、こんにちは。」
「あら? 今日は新人登録ですか?」
「ああ、頼む。」
クロノは少し緊張しながら前へ出た。
受付嬢は一枚の資料を机に置き、優しく微笑んだ。
「それでは、簡単にハンターについてご説明しますね。」
クロノは背筋を伸ばす。
「ハンターというのは、基本的に自由な職業です。」
「依頼を受けるかどうかも、どんな仕事をするかも本人の自由です。」
「王都で活動する方もいれば、世界中を旅しながら依頼を受ける方もいますよ。」
「へぇ……。」
クロノは素直に頷く。
「個人で活動する方もいれば、仲間とグループを作って活動する方もいます。」
「大きなグループになると、寮を用意して新人を給与制で雇っているところもありますよ。」
「給与制?」
「はい。まだ一人では十分に稼げない新人が、先輩の仕事を手伝いながら経験を積むための制度ですね。」
クロノが興味深そうに資料を見る。
「ボクも、そういうところに入った方がいいの?」
「入るかどうかは自由だ。」
横からレイが口を挟む。
「ただ、お前は新人コースに入らなくていい。」
「え?」
「普通に依頼受けて稼げる。」
「……そうなの?」
「少なくとも月十万稼ぐために先輩の雑用する必要はねぇよ。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「そのためのランクだ。」
レイが受付嬢へ視線を向ける。
「説明頼む。」
「はい。」
受付嬢は資料を一枚めくった。
「ハンターには、受けられる依頼の目安となるランクがあります。」
「下から順に、F、E、D、C、B。」
「その上がA1、シングルエー。」
「A2、ダブルエー。」
「さらにSランクが、S1、S2、S3の三段階です。」
「多い……。」
クロノが資料を見つめる。
「Sランクについては、一般的に数字ではなく呼び名を使うことが多いですね。」
「S1がシングル。」
「S2がダブル。」
「S3がトリプルです。」
「トリプルが一番上?」
「はい。」
「現在のハンターランクでは最高位になります。」
「へぇ……。」
「基本的には、自分のランク以下の依頼を自由に受けることができます。」
「一人で活動する方の場合、自分より低いランクの依頼を選ばれることも多いですよ。」
「安全にこなせる仕事を安定して受けた方がいい場合もありますから。」
「なるほど。」
「また、四人以上で組む場合など、条件を満たせば一つ上のランクの依頼を受けられることもあります。」
「じゃあ、ランクが低いと絶対に上の仕事ができないわけじゃないんだ。」
「そうですね。」
「ただし、危険度の高い依頼ほどギルド側でも慎重に判断します。」
受付嬢は続ける。
「Fランクの依頼であれば、登録していない方でも受けられます。」
「それより上の依頼を受けたい場合は、ギルドでそのランクに認定される必要があります。」
「最初はFから?」
「いいえ。」
「昇格試験は誰でも受けられますよ。」
「最初から上のランクを受けても構いません。」
「ほんとに?」
「はい。」
「ただし、試験を受ける際には預け金が必要になります。」
「不合格の場合、その預け金は返還されません。」
「高いランクほど金額も大きくなります。」
「受験手数料も別途必要になりますので、自信がない場合は無理に上を受けない方がいいですね。」
「なるほど……。」
クロノはしばらく資料を眺めてから、隣のレイを見る。
「ちなみに君は?」
「S1。」
「……。」
「シングル?」
「ああ。」
「そんな上なの?」
「まあな。」
受付嬢も頷く。
「レイさんはシングルとして登録されています。」
クロノは改めてレイを見る。
「……。」
「なんだよ。」
「別に。」
受付嬢はさらに続ける。
「それから、ハンターにはもう一つ。」
「プロハンターという資格があります。」
受付嬢は資料の別の項目を指差した。
「こちらは通常のハンターランクとは別の資格です。」
「ギルドが毎年実施する試験に合格した方だけが認定されます。」
「現在、世界全体でおよそ三百名ほどですね。」
「三百人しかいないんだ……。」
「ええ。」
「プロハンターになると、通常のハンターにはない様々な権限や特権が与えられます。」
クロノが少し身を乗り出す。
「例えば?」
「加盟国間の移動で通行料が免除されます。」
「犯罪者の逮捕、捜査する権限が与えられます。」
「それから、会社設立時の審査のほとんどが免除されるなど、各国で様々な便宜を受けることができます。」
「……すごい。」
「ギルドが身元と能力を保証しているようなものですからね。」
「その分、試験は非常に厳しいです。」
受付嬢はそう言って微笑む。
「まぁ、あんまりいないけど。」
横からレイが口を挟んだ。
「最初から受ける奴もいるぞ。」
「え?」
「俺もそうだった。」
「…………。」
クロノが固まる。
「えぇっ!?」
受付嬢が苦笑した。
「レイさんはかなり例外ですね。」
「普通は何年も経験を積んでから受験される方がほとんどです。」
レイは肩をすくめた。
「まぁな。」
受付嬢は一度資料をめくる。
「そして、プロハンターの中でも特に優れた十一名には、ギルドナイトという称号が与えられています。」
「ギルド直属の最高戦力です。」
クロノは少し考えるように首を傾げた。
「それって……。」
「セルバ・ヴィルガルムって人とか?」
受付嬢は微笑んで頷く。
「はい。」
「ヴィルガルム総統は、ギルドナイト序列二位の方です。」
「他にも、世界各地で活動されている方がいらっしゃいます。」
「普段はそれぞれ自由に活動していますが、大規模災害や国家規模の依頼などでは招集されることがあります。」
「ギルドナイトが国境を越えただけでニュースになることもありますね。」
「多くのハンターにとって、憧れの存在なんですよ。」
クロノは静かに頷く。
「やっぱり……。」
「すごい人たちなんだ。」
「……ボクも、いつか……。」
レイが横で少し笑う。
「まぁ、あいつら忙しいからな。」
「普通はそうそう会えねぇ。」
「とりあえずは、目の前の依頼をこなしていくことだな。」
受付嬢はギルドカードを両手で差し出した。
「それでは改めまして。」
「ようこそ、ハンターギルド・アルトーラ支部へ。」
クロノはカードを受け取り、大切そうに見つめる。
「ありがとうございます。」
受付嬢は微笑んだ。
「これからよろしくお願いしますね。」




