講師はわりと楽しい
廊下を歩きながら、レイも考えていた。
「…………。」
四週間。
本当に何も起きていない。
最初に聞いていた問題は、もう完全に収まっているように見える。
それでも来週も来いと言う。
「えー……。」
頭を掻く。
「まだ経過観察なの……?」
まあ。
依頼主が必要だと判断しているなら仕方ない。
何か自分には見えていない問題でもあるのかもしれない。
それに――。
「まあ、いいか。」
講義そのものは嫌いではなかった。
むしろ、最近は少し楽しみにしている。
教えたことを吸収する。
自分で考える。
試す。
失敗して、また考える。
若い奴らが少しずつできることを増やしていくのを見るのは、思っていた以上に面白かった。
⸻
そうして。
翌週も。
その翌週も。
レイは学園へ向かった。
何か問題が起きれば対応するために。
――本人は、そのつもりで。
講師として教壇に立ち。
生徒の質問に答え。
課題を考え。
必要なら一人ひとりの癖まで見て指導する。
学園側から見れば、どこからどう見ても一年Sクラスの戦闘魔法術講師だった。
そんな認識の違いに、誰一人気づかないまま。
時間だけが過ぎていった。
⸻
「そういやお前、まだ学園行ってんの?」
「あぁ。」
「……まだやってんの?」
「まだ。」
「もう二か月近いだろ。」
「そうだな。」
「それで、結局原因は?」
「まだ聞けてない。」
「まだかよ。」
「仕方ないだろ。」
レイは酒を一口飲む。
「もう問題も一切起こさないんだよ。」
「本当に?」
「あぁ。俺の講義も普通に受けるし、他で何かやったって話も聞かない。」
「じゃあ解決してんじゃねぇの?」
「俺もそう思う。」
「…………。」
「…………。」
「じゃあ何でまだ行ってんだよ。」
「知らねぇよ……。」
ルコが呆れたように酒を飲む。
「原因くらい聞けばいいだろ。」
「今さら聞くのもなぁ。」
「何でだよ。」
「だって、もう何も起きてないんだぞ?」
「まあ。」
「わざわざ掘り返して、それでまた問題起こされたら面倒だろ。」
「…………。」
ルコが少し考える。
「それはそうか。」
「学園側も何も言ってこないしな。」
「まだ様子見したいんじゃねぇの?」
「多分。」
「長ぇな。」
「俺に言うな。」
「お前が行ってんだろ。」
「依頼主が終わりって言わねぇんだから仕方ないだろ。」
「まあ、それはそうだけどよ。」
ルコは頬杖をつく。
「でもお前、毎週ちゃんと授業してんだろ?」
「そりゃするだろ。講師として入ってんだから。」
「問題見るだけなら適当でもいいだろ。」
「よくねぇよ。」
即答だった。
「無駄なこと教えたくねぇし。」
「お前そういうとこだけ妙に真面目だよな。」
「それに――」
レイは少し考えてから、酒を飲む。
「まあ、依頼のついでだけど、若手育てるのは楽しいからいいんだけどよ。」
「…………。」
ルコが小さく笑う。
「お前らしいな。」
「何がだよ。」
「別に。」




