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LAVeLESS  作者: 神矢
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学園の混乱

 そして翌週。


 土曜日。


「本日から戦闘魔法術を担当する――」


「申し訳ございません。」


 新任講師が名乗り終えるより先に、ライオットが立ち上がった。


「先生の講義を受けるつもりはありません。」


「……何?」


 教室にいる三十人。


 誰一人として異を唱えない。


「どういう意味だ?」


「言葉通りです。」


「…………。」


「申し訳ございませんが、失礼いたします。」


 一人。


 また一人。


 席を立っていく。


「待ちなさい!」


 誰も止まらない。


「せめて授業を受けてから判断しなさい!」


「必要ありません。」


「……何?」


 ライオットが振り返る。


「失礼いたします。」


 それだけだった。


 前任の講師には、実力を確認した。


 レイにも、実力を示すよう求めた。


 だが今回は――。


 試そうとすらしなかった。


 異変は、それだけでは終わらない。


 次に拒否されたのは、レイの解任に関わった講師。


 さらに――。


「申し訳ございません。」


「…………。」


 別の講師の授業でも、ライオットが立ち上がる。


「先生の講義も、受けるつもりはありません。」


「……理由を聞いても?」


「申し訳ございません。」


「…………。」


 答えない。


 その講師は先週、レイが魔力操作について説明した際、最後までその訓練に納得しなかった人物だった。


 ただし、Sクラスは全ての授業を拒否しているわけではない。


 受ける講義は、今まで通り真面目に受ける。


 私語もしない。


 課題も提出する。


 教師に暴言を吐くこともない。


 ただ――。


 一部の講師だけを、明確に拒否していた。


 さらに翌週。


 土曜日。


 新任の戦闘魔法術講師が、再び教壇に立つ。


「授業を始める。」


「申し訳ございません。」


 またライオットが立ち上がった。


「本日も、先生の講義を受けるつもりはありません。」


「…………。」


 それでも結果は変わらなかった。


 その頃には、噂も一年Sクラスだけには留まらなくなっていた。


「一年Sクラス、また授業拒否したんだって。」


「何か学園がやらかしたらしいよ。」


「前にいた臨時の先生を急に辞めさせたとか。」


「レイ先生?」


「そう。」


「でも、あの先生のおかげで一年Sクラスの魔法力、上がったらしいよ。」


「え? じゃあなんで辞めさせたの?」


「知らない。」


「……やばいね。」


 二年。


 三年。


 他のクラスにも、断片的な噂が広がっていった。


 詳しい事情を知る者などほとんどいない。


 だからこそ、


『学園側が何かやらかしたらしい』


 そんな曖昧な話だけが広がっていく。


 その一方。


「では、今日はここまでにしましょう。」


「「「ありがとうございました!」」」


「はい。ありがとうございました。」


 テオは、いつも通り講義を終えていた。


 テオは一年Sクラスで二つの講義を担当している。


 さらに二年、三年でもそれぞれ講義を持っていた。


 当然、忙しい。


 授業。


 準備。


 採点。


 生徒からの質問。


 終われば、また次の講義。


 しかもSクラスの生徒たちは、テオの授業を一度も拒否していない。


「先生、先ほどのところなんですが。」


「あぁ、そこですね。」


 授業が終われば、いつものように質問も来る。


「ここはですね――」


 テオ自身、生徒たちから慕われていた。


 授業中に私語もない。


 わざわざ他学年の噂話を聞いて回るような時間もない。


 結果。


 学園内で騒ぎがどんどん大きくなっているにもかかわらず――。


 テオは、その詳細をほとんど知らなかった。



「何が起こっているんだ!」


 学園上層部による緊急会議。


「新任講師だけではない! すでに一部の講師まで授業を拒否されている!」


「原因は!?」


「分からん!」


「生徒たちは何と言っている!」


「何も言わん! 拒否する講義以外は今まで通りだ!」


「それで原因が分からないでは済まないだろう!」


「分からないものは分からん!」


 怒号が飛び交う。


 ただでさえ異常な事態だった。


 一年Sクラスの三十人が、示し合わせたように一部の講義だけを拒否している。


 騒ぎを起こすわけでもない。


 教師に反抗するわけでもない。


 受けると決めた講義では、今まで通り真面目に授業を受けている。


 だからこそ厄介だった。


「それと……もう一つ。」


「今度は何だ!」


「Sクラスの保護者から、抗議が届いています。」


「…………何?」


 室内の空気が変わる。


「何件だ?」


「複数です。」


「内容は?」


 報告を持っていた講師が、手元の書類へ目を落とす。


「概ね同じです。」


 そして読み上げる。


「『成果を出した優秀な講師を、生徒への評価確認もなく学園側の都合で解任したと聞いている』」


「…………。」


「『事実であれば、能力を重視する王立魔導学園の理念に反する行為ではないか』」


 一度、言葉を切る。


「さらに――」


「まだあるのか?」


「『後任講師について、正当な能力評価を経ず採用された、いわゆるコネ採用である可能性も否定できない』」


「馬鹿な!」


「そんな事実はない!」


「当然です。しかし、保護者側はそう疑っています。」


「…………。」


「そして――」


 報告する講師の表情が険しくなる。


「『学園側から納得できる説明が得られない場合、管理委員会へ報告し、正式な調査を依頼する』と。」


「…………。」


 今度こそ、室内が静まり返った。


「……管理委員会だと?」


「はい。」


「冗談ではないぞ……。」


 Sクラスには貴族の子弟も多い。


 それも、王立魔導学園へ子供を入れられる家だ。


 ただの苦情として無視できる相手ではない。


 まして問題にされているのは、学園が最も重視しているはずの教師の能力と採用基準。


 正式な調査が入れば、事実無根であったとしても大事になる。


「何か兆候はなかったのか!?」


「…………。」


「何でもいい!」


「……そういえば。」


 人事担当が口を開いた。


「新任講師が配属される前、Sクラスの生徒が数人、確認に来ている。」


「確認?」


「あぁ。」


「何をだ?」


「レイ先生を辞めさせた正式な理由を説明してほしい、と。」


「…………。」


「なんと答えた?」


「臨時だから、と。」


「それだけか?」


「正規講師が決まった以上、契約を終了するのは当然だと説明した。」


「生徒たちは?」


「それ以上は何も言わずに出ていった。ただ……納得している様子ではなかったな。」


「他には?」


「…………。」


「どうした?」


「その時点で、コネ採用を疑われていた。」


「何!?」


「もちろん否定した! この学園でそのような採用は認められていない!」


「それで、なぜそんな話になった!」


「生徒たちの話では――」


 人事担当は思い出しながら続ける。


「一週間ぶりに魔法を使ったところ、クラス全員が魔法力の向上を実感したそうだ。」


「……全員?」


「あぁ。」


「レイ先生から教わった魔力操作を一週間続けただけで、だそうだ。」


「…………。」


「それで生徒たちは、実際に成果を出した講師なのに、なぜ自分たちへ評価の確認すらせず解任したのか、と。」


「それで後任がコネではないかと?」


「あぁ。」


「だが、そんな事実はない。」


「分かっている。」


「新任講師は正規の手続きを経て採用している。」


「それも説明した。」


「…………。」


 コネ採用などしていない。


 その点については、いくら調べられても問題はない。


 だが――。


「……まずいな。」


「あぁ。」


 問題は、そこだけではなかった。


 管理委員会へ正式な申し立てが行われれば、確認されるのは新任講師の採用経緯だけではない。


 なぜ前任の臨時講師を解任したのか。


 その判断は適切だったのか。


 生徒から高い評価を受け、実際に成果まで出していた講師について、なぜ生徒への聞き取りすら行わなかったのか。


 学園の掲げる理念に沿った運営が、本当に行われていたのか。


 調査の範囲が広がれば、審問会が開かれる可能性すらある。


「コネ採用などしていないのに、審問会にまで引っ張り出されるのは御免だぞ。」


「当然だ。」


「しかも、何も問題がなかったとしても調査には時間を取られる。」


「その間、この騒ぎを放置するわけにもいかん。」


「…………。」


 一人が机の上で指を組む。


「整理しよう。」


 全員がそちらを見る。


「レイが辞めた。」


「あぁ。」


「その日のうちに、生徒たちは自分たちの魔法力が上がっていることを確認した。」


「その後、学園へ解任理由を確認しに来た。」


「こちらの説明には納得しなかった。」


「翌週、新任講師の授業を受けることすら拒否。」


「さらに、レイの解任に関わった講師まで拒否されている。」


「そして、その話を聞いた保護者から正式な抗議まで来た。」


「…………。」


「全部、レイを解任してからだ。」


 室内が静かになる。


「だが……あの男は二日しか講義していないんだぞ?」


「そうだ。」


「なぜそこまで……。」


「それは分からん。」


 別の一人が苛立ったように息を吐く。


「だが、今は理由を突き止めることより先に、この状況を止めるべきだ。」


「レイを戻すのか?」


「あぁ。」


「それで解決する保証は?」


「ない。」


「…………。」


「だが、少なくとも生徒たちはレイの解任に不満を持っていた。それだけは確かだ。」


 反論はない。


「一度戻して、生徒たちの反応を見る。」


「それでも駄目なら?」


「その時に改めて原因を調べればいい。」


「……そうだな。」


「このまま保護者からの抗議が増えて、管理委員会が動き出す方が面倒だ。」


「決まりだ。」


 一人が立ち上がる。


「レイを戻せ。」


「誰が連れてきた?」


「何?」


「あの臨時講師だ。最初に誰が連れてきた?」


「確か……テオ先生です。」


「テオを呼べ!」

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