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LAVeLESS  作者: 神矢
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魔力の基礎講義

 レイは自分の身体を指した。


「それに、魔力の無駄も減る。」


「普段、お前らの身体からは何もしてなくてもオーラが漏れてるだろ?」


 生徒たちが頷く。


「魔纏を使ってても同じだ。」


「魔纏はほとんど魔力を消費しないって習うと思うが、正確には少し違う。」


「消費してないんじゃない。」


「漏れ出す量と自然に回復する量が大体同じだから、そう見えるだけだ。」


 レイは黒板に簡単な図を描く。


「身体に蓄えられる魔力を十とする。」


「何もしてなくても魔力は外に漏れ続ける。だから自然回復しても、実際には九くらいのところで釣り合う。」


「でも――」


 ふっと。


 レイの身体から、オーラが消えた。


 生徒たちの目が一斉にレイへ向く。


 そこに立っている。


 それなのに、先ほどまで感じていた魔力の気配だけが綺麗に消えている。


「俺は普段、こうやって遮断してる。」


「外に漏れる魔力を全部、身体の中に閉じ込める。」


「斥候職なら基本だな。魔力が漏れなくなるから、気配も断ちやすくなる。」


 レイは自分の胸を軽く叩く。


「それと、これなら十の器に十まで魔力を蓄えられる。」


「常にタンクをいっぱいにしておけるってことだ。」


 一人の生徒が手を挙げた。


「先生。それ以上は回復しないのでは?」


「そう。入らない。」


「でも、身体はそれで魔素の吸収をやめるわけじゃない。」


 レイは頷く。


「満タンなのに、それでも魔力を作ろうとする。」


「身体からすれば、もっと必要なんだって刺激になる。」


「それを繰り返してれば、魔力総量も増えやすくなる。」


 そこでレイは指を一本立てた。


「ただし、ずっと溜めっぱなしはダメだ。」


「魔素を吸収して魔力を作り続けてるのに、ずっと閉じ込めたままにするのは身体によくない。」


「だから定期的に発散させる。」


「で、どうせ使うなら――」


 レイが笑う。


「修行に使った方が得だろ?」


 レイの身体から、再び魔力が流れ始める。


「身体の中で魔力を動かす。」


「最初は好きな場所でいい。慣れてきたら、できるだけ速く、複雑に動かせ。」


 身体の中を魔力が高速で駆け巡る。


「それと同時に――外にも出す。」


 右手から細いオーラが流れ出す。


 体内では魔力が高速で動き続けている。


 それにもかかわらず、外へ漏れているのは右手からだけだった。


「こんな感じだ。」


「身体の中では魔力を乱回転させながら、決めた場所からだけ放出する。」


 今度は右手からの放出が消え、左足からオーラが流れ出した。


「頭でもいい。右腕でも左足でもいい。」


「慣れたら、どこで動かして出すかを次々変えていけ。」


「体内での魔力操作と、外への放出を同時にやる。」


 ライオットがその意味に気づく。


「……流纏を使いながら、魔法を構築するためですか?」


「そう。」


 レイはすぐに頷いた。


「実戦じゃ、一つのことだけやってればいいわけじゃない。」


「流纏で魔力を動かしながら魔法を構築して、必要な場所から放出する。」


「なら、普段から同時にやることに慣れとけばいい。」


 単純な理屈だった。


 だが、実際にやろうとすれば簡単ではない。


「しかもこれなら魔力もそれなりの速さで消費できる。」


「満タンになったらこれで使う。また回復したら溜める。」


「その繰り返しだ。」


 レイはそこで一度話を切った。


「でもな。」


「基本を極めることで、全部に応用が利く。」


「魔法だけじゃない。できることが増えれば、それだけ戦術の幅も広がる。」


「ただ――」


 少し考えてから、レイは苦笑した。


「でかい欠点が一つある。」


「つまらない。」


 予想外の言葉に、何人かが目を瞬かせた。


「地味だし、同じことの繰り返しだし、すぐに強くなった実感もない。」


「俺も昔、何ヶ月も基礎と基本ばっかりやってたから、さすがに飽きてな。」


「先生が?」


「ああ。」


 レイはあっさり認めた。


「嫌になって、強い魔法に手を出した。」


「そしたら――」


 レイは少し笑った。


「できちまった。」


「それまで使えなかった魔法が、思ってたより簡単にな。」


「俺も驚いたよ。」


「何ヶ月も、魔法なんて一度も使ってなかったのにな。」


 そこで言葉を切る。


「でも、逆だったんだ。」


「何ヶ月も基礎と基本しかやってなかったから、できた。」


 教室が静かになる。


「魔力を動かす。」


「集める。」


「止める。」


「必要な場所から放出する。」


「そんな地味なことばっかりやってたから、新しい魔法を使うための土台ができてた。」


「まぁ――」


 レイは頭を掻く。


「一回できたことに調子乗って、『もう基礎なんていらない』って、そのまま放り投げる奴もいるだろうし。」


「俺も気づかなければ、そうなってたかもしれない。」


 少しだけ笑い声が漏れる。


「まぁ基礎以外も大事だ。」


「魔法の勉強をやめる必要もないし、他の勉強の時間を削る必要もない。」


「そのうえで、一つ課題を出す。」


 レイは生徒たちを見渡した。


「一週間、今教えた訓練を毎日続けろ。」


「明日、一日休みだろ?」


「最初は意識しないと難しいだろうから、明日はできるだけ続けてみろ。」


「お前らなら一日やれば、そこまで意識しなくてもできるようになる。」


「そうなれば歩きながらでも、飯を食いながらでもできる。」


「授業中だって、話を聞きながらできる。」


「あと、その一週間――魔法使うの禁止な。」


「えっ?」


 教室のあちこちから声が上がる。


「魔法を使うこと以外はいつも通りでいい。授業も受けろ。部活も行け。」


「先生。」


 一人の生徒が手を挙げる。


「部活動で魔法を使う場合はどうすればいいでしょうか?」


「その時は顧問に事情を話して、魔法を使う練習だけ外してもらえ。」


「分かりました。」


「一週間だけだからな。ちゃんと説明すれば大丈夫だろ。」


 生徒たちが頷く。


「以上。今日はここまで。」


 それだけ言うと、レイは荷物を手に取った。


「じゃあな。また来週。」


「え……?」


 あまりにもあっさりしていて、何人かの生徒が思わず声を漏らす。


 だがレイは気にした様子もなく、そのまま教室を出ていった。


 廊下でテオを見つけると、


「テオ先生、お疲れ様です。」


「あ、はい! レイさんもお疲れ様でした!」


「じゃ、帰ります。」


「はい! また来週お願いします!」


 軽く手を上げ、そのまま学園を後にする。


 残された教室では、しばらく誰も席を立たなかった。


 実技が始まる前。


 自分たちは、レイの実力を疑っていた。


 魔法を禁止して三十人を相手にするなど、無謀としか思えなかった。


 だが実際には、何もできなかった。


 拘束は引きちぎられ。


 上位魔法は魔力だけで消され。


 気づけば半数近くが、何が起きたのかすら理解できないまま観客席へ送られていた。


 ただ強いだけなら、それでもよかった。


 この学園にいる生徒たちは、幼い頃からいくらでも強者を見てきた。


 優れた魔法使いも。


 名の知れた軍人も。


 高ランクのハンターも。


 だが――レイは少し違った。


「……なんか、すごかったね。」


 一人がぽつりと呟く。


「うん。」


「戦ってる時もすごかったけど……なんていうか……。」


「教わった後の方が、よく分からなくなった。」


 誰かが苦笑する。


 魔纏。


 誰もが最初に習う技術だった。


 流纏も極纏も、ここにいる者ならすでに知っている。


 新しい魔法を教わったわけでもない。


 未知の技術を見せられたわけでもない。


 どれも、自分たちがすでに知っている技術の応用だった。


 それなのに。


 今まで自分たちが当たり前だと思っていたものが、まるで違って見えていた。


「俺たち、まだ全然使えてなかったんだな。」


「……そうだね。」


 ライオットは自分の手を見る。


 魔法を封じれば大幅に弱体化する。


 そう思っていた相手は、その魔法を一度も使わず、自分たちを圧倒した。


 そしてその理由を、惜しむことなく教えてくれた。


 難しい理論を並べるわけでもない。


 自分たちの判断を頭ごなしに否定することもない。


 間違っていないところは認めたうえで、その先を示してくれた。


「……僕は、もっと教わりたい。」


 ライオットの言葉に、誰も異を唱えなかった。


「俺も。」


「私も。」


「次、何を教えてくれるんだろ。」


「その前に課題だろ。」


「あ……。」


「一週間、魔法禁止。」


「それがあった……。」


 教室に小さな笑いが起こる。


 だが、その中に課題をやらないという者はいなかった。


 今日一日で十分だった。


 あの人の言うことなら、やってみる価値がある。


 いや――。


 きっと、やった分だけ強くなれる。


 誰からともなく魔力を身体の内側へ閉じ込め始める。


「……これで合ってる?」


「少し漏れてる。」


「そっちも。」


「難しいな……。」


 つい先ほどまで戦闘の余韻が残っていた教室で、生徒たちは早くもレイから与えられた課題を始めていた。


 来週が楽しみだった。


 その次も。


 できることなら、その先もずっと。


 もっと教わりたい。


 もっと先を見てみたい。


 この人についていけば、自分たちはもっと強くなれる。


 そんな期待が、いつの間にか全員の中に生まれていた。


 ――もっとも。


 その期待を向けられている本人は、そんなことなど露ほども知らず。


「終わった終わった。帰って飯食お。」


 とっくに学園を出ていた。


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