講師試験?
全員が修練場へ集まった。
ライオットは中央へ立つ。
他の生徒たちは二階席へ向かっていく。
修練場には強力な結界が張られている。
観客席まで攻撃が届くことはない。
さらに致命傷や気絶した者は術式によって瞬時に治療され、観客席へ転送される仕組みだ。
ライオットは笑みを浮かべる。
「多少は頑張ってくださいよ。」
「戦いぶり次第では座学くらいなら聞いてやります。」
「他国の戦闘技術には興味がありますしね。」
レイは二階席を見上げる。
「……お前ら。」
「何やってる。」
「早く降りてこい。」
生徒たちは足を止めた。
ライオットも首を傾げる。
「何を言っているんです?」
「この中はバリアが張られているんですよ。」
レイも首を傾げた。
「だから。」
「どうやって俺に攻撃するんだ?」
一瞬、静まり返る。
「……は?」
「何言ってるんだ?」
「冗談だろ。」
「あの人、本気で言ってるのか?」
ざわめきが広がる。
ライオットは苦笑した。
「安心してください。」
「他の生徒に手は出させませんよ。」
レイはため息をつく。
「逆に何言ってんだ。」
「これは授業だ。」
「全員の実力を見たい。」
「一人ずつなんて面倒だろ。」
「全員で来い。」
修練場が再び静まり返る。
今度は誰も笑わなかった。
「……頭おかしいんじゃないのか。」
「三十人相手だぞ……。」
「しかも魔法は禁止だぞ。」
テオは青ざめる。
「レ、レイさん!」
「何を言ってるんです!」
「魔法禁止でSクラス全員を相手にするなんて!」
「負けたら奴隷なんですよ!」
「せっかく一対一だったのに!」
「なぜ不利な方を選ぶんですか!」
レイは不思議そうな顔をする。
「一人ずつ見る方が面倒です。」
「時間ももったいない。」
「ほら。」
「早く降りてこい。」
黙っていたライオットが、小さく笑う。
「……面白い。」
「みんな。」
「先生のご希望だ。」
「全員でやってやろう。」
その一言で、生徒たちは次々と修練場へ降りていく。
レイは全員を見回した。
「やる気あるのか?」
「お前らの本気を見せてみろ。」
「最初の授業だ。」
「一対多数。」
「俺のことは高ランクの賞金首だと思え。」
「生死は問わない前提。」
「ちゃんと連携すれば倒せるかもしれない。」
「頑張れよ。」
対峙した瞬間。
誰一人、その言葉を冗談を言ってるようには見えなかった。
ただ一つ。
この男は頭がおかしい。
それだけは、全員の意見が一致していた。
「よーし。」
「じゃあ、始め。」
レイの合図と同時だった。
女子生徒の一人が素早く魔法を発動する。
ビリーナが操るロープが地面を這うように伸び、一瞬でレイの身体へ巻き付いた。
そのまま両腕ごと締め上げ、完全に動きを封じる。
「よくやったぞ、ビリーナ!」
ライオットが声を上げる。
「もうヤツは何もできまい!」
ビリーナは得意げに笑う。
相手の動きを封じ、攻撃手段を奪う。
魔法使い同士の戦闘では基本ともいえる戦術だった。
ましてやレイは魔法禁止。
そのうえ両腕まで封じられている。
誰もが、これで勝負は決まったと思った。
しかし、レイは自分に巻き付いたロープを眺めていた。
「ふむ……。」
「最初に相手の動きを封じる。」
「教科書通りだな。」
次の瞬間。
レイの姿が消えた。
「え――」
ビリーナが声を漏らした時には、すでに目の前にいる。
レイの蹴りが腹部へ突き刺さった。
ビリーナの身体が勢いよく吹き飛び、そのまま観客席へ転送される。
一瞬の出来事だった。
「……は?」
「何が……。」
誰も反応できていない。
ライオットも目を見開く。
「み、見えなかった……。」
「なんて速さだ……。」
レイは両腕を拘束されたまま、倒したビリーナがいた場所を見る。
「腕が使えなくても、脚は動くしな。」
「大したことじゃない。」
そのまま身体に巻き付いたロープへ目を落とす。
「それに、魔法じゃなくてロープってのも甘い。」
「術者を無力化した後なら――」
レイの全身を覆っていたオーラが膨れ上がる。
「こんなの、引きちぎればいいだけだ。」
力を込めた瞬間、ガチガチに固められていたロープが音を立てて引きちぎられた。
「なっ……!」
ライオットの表情が変わる。
「なんてデタラメな力だ……!」
魔法は禁止されている。
それでもレイは、一人目を一瞬で倒し、拘束まで力任せに破壊した。
ライオットはすぐに判断を切り替える。
「お前たち!」
「一斉攻撃だ!」
その声に、残る生徒たちが一斉に構える。
先ほどまでの余裕は消えていた。
相手は魔法を封じればどうにでもなる講師ではない。
ならば、一人ずつ相手をする必要もない。
初めから数の利を押し付ける。
数十人分の魔力が、一斉に膨れ上がった。
炎、雷、水、風。
次々と放たれた魔法が、四方からレイへ殺到する。
レイのいた場所を中心に轟音が鳴り響き、土煙が修練場を覆った。
さらに――
「オーバーヒート!」
ライオットの放った炎系譜の上位魔法が、最後に着弾する。
巨大な炎が爆ぜ、土煙ごと周囲を焼き払った。
「……やったか?」
生徒の一人が呟く。
しかし、ライオットは黙ったまま煙の中を睨んでいた。
「んー。」
突然、頭上から声がした。
「判断は悪くない。」
「ただ、まだ甘いな。」
一斉に顔を上げる。
レイは遥か上空にいた。
「あんな真ん中にいる相手へ、ただ一斉に撃っても逃げ道はいくらでもある。」
「まずは逃げ道を塞がないとな。」
「――上か!」
真っ先に反応したのはライオットだった。
レイは大量の魔法が着弾し、全員の視界が塞がれた一瞬を利用して上空へ逃れていた。
だが、空中では自由に方向を変えられない。
上がった以上、いずれ地上へ降りてくる。
ライオットはすぐさま魔力を練り上げた。
「くくく……。」
「今度こそ逃げ道がありませんね、先生。」
落下してくるレイへ狙いを定める。
膨大な炎がライオットの前へ集まった。
「オーバーヒート!」
炎が一直線にレイへ迫る。
「そういうことだ。」
レイは少し笑う。
「判断が早いな。」
逃げ場はない。
回避も間に合わない。
誰もが直撃を確信した、その瞬間。
レイは右手を前へ出した。
「でも、残念だったな。」
右手を覆うオーラが、一瞬だけ爆発的に膨れ上がる。
そのまま――
炎を右手で振り払った。
轟音とともに炎が弾け飛び、跡形もなく消滅する。
「――なっ!?」
ライオットが目を見開いた。
「魔法を……消した!?」
その隙にレイは地面へ着地する。
すぐ近くにいた生徒へ踏み込み、一人。
振り返りざまに、もう一人。
続けて三人目を蹴り飛ばす。
次々と観客席へ転送されていく。
「ま、待て!」
ライオットが声を上げた。
「魔法は禁止のはずだぞ!」
レイは別の生徒を殴り飛ばしながら答える。
「魔力強化いいんだろ?」
「魔力を纏った右手で払っただけだ。」
「他の魔法なんて使ってないぞ。」
「そんな馬鹿な……!」
ライオットはレイが魔法を使用した痕跡を探す。
しかし――ない。
魔法を発動すれば、その場には少なからず魔力の残滓が残る。
一方、身体に魔力を纏う魔纏は、基本的にそのような残留を起こさない。
レイが魔法を使った痕跡は、どこにもなかった。
「……本当に使ってない……。」
理解が追いつかない。
魔法を封じたはずの相手が、魔纏だけで上位魔法を消した。
だが、目の前で起きたことに戸惑っている暇などなかった。
「おい。」
ライオットが顔を上げる。
「戦闘中だぞ。」
その頃には、すでに半数近くが観客席へ送られていた。
「くっ……! まだ終わってない! 囲め!」
ライオットの声に、生徒たちが慌てて動き出す。
だが、一度崩れた連携は簡単には戻らない。
レイは魔法を避けながら一気に距離を詰め、一人、また一人と生徒を倒していく。
近づかれれば魔法を撃つ暇もない。
距離を取ろうとしても、その前に追いつかれる。
援護しようにも、味方を巻き込むせいで思うように魔法を撃てない。
気づけば、修練場に立っている生徒はライオット一人になっていた。
「…………。」
「もう少し頑張ってくれると思ったんだけどな。」
レイがライオットを見る。
「あとはお前だけか。」
「……まだだ。」
ライオットは魔力を練り上げる。
「俺はまだ負けてない!」
「そうか。」
レイは構えることすらしなかった。
「なら、最後まで来いよ。」
ライオットの周囲に炎が広がる。
先ほどまでとは比べものにならない魔力。
残された全てを叩き込むつもりだった。
だが――
「遅い。」
「――っ!」
一瞬。
ライオットの視界からレイが消えた。
次の瞬間には、目の前にいる。
「なっ――」
反応するより早く、レイの蹴りが腹部に突き刺さった。
ライオットの身体が大きく吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる直前、その姿が消え、観客席へと転送された。
静まり返った修練場に、レイだけが残る。
「ふぅ……。」
レイは観客席を見上げた。
「まぁ、こんなもんか。」
そして、同じく呆然としているテオを見つける。
「テオ先生。」
「…………。」
「実技の授業、こんな感じでよかったですか?」
「…………。」
「テオ先生?」
「えっ!? あ、はい!」
ようやく我に返ったテオが立ち上がる。
「もう、すごすぎて何がなんだか……!」
修練場を見回す。
「ですが、とても素晴らしい授業でした! こんな型破りな実技、僕も初めて見ました!」
「そうですか。」
レイは少し安心したように息を吐く。
「それならよかったです。」
観客席へ戻されたライオットが、すぐにレイの元へやってくる。
その後ろには、他の生徒たちもついてきていた。
「レイ先生……ごめんなさい!」
ライオットは深く頭を下げる。
「僕、こんな戦い方を見たのは初めてです。失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした!」
そして顔を上げる。
「もし許していただけるなら……これから僕たちのために、教鞭を執っていただけませんか?」
「…………。」
初対面の時とはまるで違う態度に、レイは苦笑する。
だが、負けた後に言い訳もせず、素直に教えを乞う姿勢は嫌いではなかった。
「もちろんだ。」
レイは笑う。
「これからお前たちを、学園最強のクラスに育ててやるよ。」
「はい!」
普段のライオットを知る生徒たちは、その素直すぎる態度に驚いていた。
だが、それ以上に先ほど目の当たりにしたレイの実力に興奮し、これから何を教えてもらえるのかと楽しそうに騒ぎ始める。
こうしてレイは、王立魔導学園一年Sクラスの臨時講師として働くこととなった。




