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LAVeLESS  作者: 神矢
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44/90

ラヴェレス誕生秘話③

 次の日も。


 アイリスは朝から街へ出た。


 一日目とは違う区画へ向かい。


 同じように、店を一軒ずつ回っていく。


「何でも屋です。」


「お仕事ください。」


「悪いね。」


「今はないよ。」


「分かりました。」


 次。


「今日から何でも屋をやってます。」


「何でもできます。」


「お仕事ください。」


「……主人は?」


「家にいます。」


「そうか……。」


「お仕事ありますか?」


「いや。」


「分かりました。」


 やっぱり。


 仕事は取れない。


 それでも。


 途中で荷物を落とした人がいれば拾い。


 道に迷っている子供がいれば、一緒に家を探し。


 困っている人を見つければ、当たり前のように手を貸した。


 けれど。


 その日も。


 仕事は一件も取れなかった。



 三日目。


 アイリスは今日も朝から街を歩いていた。


「何でも屋です。」


「お仕事ください。」


「……悪いね。」


「今はないよ。」


「分かりました。」


 頭を下げ。


 また歩き出す。


「……営業。」


「難しい……。」


 小さく呟いた時だった。


「あぁ……どうしよう。」


 声が聞こえた。


 見ると。


 一軒の店の前で、男が大きな荷物を抱えて困っていた。


 店の中には他に誰もいない。


「どうしたの?」


「ん?」


 男が振り返る。


「いや。」


「これ、届けなきゃいけないんだけど。」


「今日は俺一人で店番なんだよ。」


「店閉めるわけにもいかないし。」


「……。」


 アイリスは少し考えた。


「店番はできないけど。」


「配達ならできます。」


「え?」


「私が持ってく。」


「……。」


 男はアイリスを見る。


 水色の美しい髪。


 長い耳。


 そして。


 額に刻まれた奴隷紋。


「……奴隷か。」


「はい。」


「……。」


 もう一度。


 荷物とアイリスを見比べる。


「まぁ。」


「奴隷なら、勝手なことはしないか。」


「場所、分かる?」


「教えてくれたら行ける。」


「そうか。」


 男は紙を取り出した。


「じゃあ、頼んでいいか?」


「うん。」


「ここだ。」


「分かった。」


 荷物を受け取り。


 アイリスは店を出た。



「ありがとうございました。」


 配達を終え。


 アイリスは店へ戻ってきた。


「おぉ。」


「早かったな。」


「ちゃんと渡したよ。」


「助かったよ。」


 男は笑い。


 改めてアイリスを見る。


「お嬢ちゃん。」


「どこの子?」


「向こうの区画。」


「何してるんだ?」


「何でも屋やってます。」


「何でも屋?」


「うん。」


「お仕事ください。」


「……。」


 男は少し驚いたように目を瞬かせる。


「君が営業もしてるのか?」


「うん。」


「……大変だね。」


「?」


 アイリスは首を傾げた。


「あっ。」


 男が思い出したように財布へ手を伸ばす。


「じゃあ。」


「さっきの分、報酬渡さないとな。」


「いらない。」


「え?」


「今のは依頼じゃないし。」


「私は現場担当じゃないので。」


「報酬はいりません。」


「……そうなのか?」


「うん。」


 アイリスは小さく頭を下げる。


「また依頼があれば。」


「言ってください。」


「あぁ。」


「その時は頼むよ。」


「ありがとうございます。」


 そして。


 アイリスはまた街へ歩き出した。



 それからも。


 アイリスは歩き続けた。


 店を回り。


 声を掛け。


 断られる。


 困っている人がいれば。


 また手を貸す。


 気付けば。


 昼を少し過ぎていた。


「……次。」


 次の通りへ向かおうとした時。


「おーい。」


 後ろから声を掛けられる。


「?」


 振り返ると。


 一人の女性が立っていた。


「君。」


「一昨日から、一日中街を歩いてる子だよね?」


「……うん。」


「やっぱり。」


 女性は笑う。


「さっき、あの店の人から聞いたんだけど。」


「何でも屋をやってるんだってね。」


「うん。」


「何でも屋です。」


「お仕事ください。」


「ははっ。」


 女性は少し笑ってから。


「依頼は主人がやるのかい?」


「はい。」


「そう。」


 少し考え。


「じゃあ。」


「頼めるかい?」


「……。」


 アイリスの目が大きくなる。


「いいの?」


「うん。」


 女性は笑った。


「君に頼みたいから。」


「……!」


 アイリスの表情が一気に明るくなる。


「じゃあ。」


「ちょっと待ってください。」


「ん?」


「ルコ呼んでくる。」


「ルコ?」


「うん。」


「最初の手続き。」


「一緒にやってくれるって言ってた。」


「分かった。」


「待ってるよ。」


「うん!」


 アイリスは勢いよく走り出した。


 三日目。


 ようやく。


 初めての依頼が取れた。


 アイリスは、そのままルコのところまで走った。


「ルコ!」


「ん?」


 机いっぱいに広げた書類から。


 ルコが顔を上げる。


「仕事取れた!」


「……は?」


「依頼。」


「初めて。」


「取れた。」


「……。」


 ルコは数秒。


 アイリスを見つめた。


「お前。」


「営業始めて何日目だ?」


「三日目。」


「……三日。」


 手元の書類を見る。


 もう一度、アイリスを見る。


「……三日で取ってきたのか。」


「うん。」


「……すげぇな。」


 ルコは小さく笑い。


 そのまま立ち上がった。


「よし。」


「行くぞ。」


「仕事は?」


「後でいい。」


「最初の一件だろ。」


「うん。」


「なら俺も行く。」


 書類をそのまま机へ置き。


 ルコは上着を掴んだ。



「あっ。」


「戻ってきた。」


 先ほどの女性が、アイリスに気付いて笑う。


「お待たせしました。」


「いやいや。」


「そんな待ってないよ。」


 女性は、その隣に立つルコへ視線を向けた。


「あなたがご主人?」


「いや。」


「俺は店の保証人。」


「最初の依頼だけ。」


「依頼書とか、その辺手伝いに来たんだよ。」


「あぁ、そうなのかい。」


「主人は?」


「家。」


 アイリスが答える。


「……家なんだ。」


「まぁ。」


「そいつの話は後でいいよ。」


 ルコは苦笑しながら。


 鞄から紙を取り出した。


「で。」


「何を頼みたい?」


「実はね――。」


 女性が依頼内容を話し始める。


 ルコは聞きながら、必要なことを書き込んでいく。


「アイリス。」


「うん。」


「まず。」


「何をしてほしいのか。」


「いつまでなのか。」


「場所はどこなのか。」


「その辺から聞け。」


「うん。」


「後は仕事によって変わる。」


「必要そうなことを、自分で聞いてみろ。」


「分かった。」


 ルコは女性を見る。


「悪いけど。」


「もう一回、こいつに話してやって。」


「いいよ。」


 アイリスは女性へ向き直った。


「お願いします。」


「はいはい。」


 女性がもう一度、依頼内容を話す。


「場所は?」


「この先の倉庫だよ。」


「いつまで?」


「明日の夕方までなら大丈夫。」


「運ぶものは?」


「雑貨とか。」


「重い?」


「そんなには。」


「ただ、量が多くてね。」


「じゃあ。」


「レイなら大丈夫。」


「ははっ。」


 ルコが笑う。


「まぁ、あいつなら余裕だな。」


 アイリスは紙へ視線を戻す。


「他に……。」


 少し考え。


 必要なことを一つずつ聞いていく。


 ルコは横から口を挟まず。


 最後まで見ていた。


「……これでいい?」


「あぁ。」


 ルコが依頼書を確認する。


「十分。」


「後は依頼人に確認してもらって。」


「問題なけりゃ成立だ。」


「分かった。」


 女性も内容を確認し。


 最後に署名を入れる。


「これでいいかい?」


「あぁ。」


 ルコは頷く。


「これで依頼成立。」


「……。」


 アイリスは完成した依頼書を見る。


 少しだけ。


 嬉しそうに笑った。


「取れた。」


「おう。」


「自分でな。」


「うん。」


「じゃあ。」


「帰るぞ。」


「ルコも?」


「あぁ。」


 ルコは笑う。


「ここまでやったんだ。」


「本人にも言っとかねぇとな。」



 家へ戻ると。


 レイはいつものように、ソファへ寝転がっていた。


「おう。」


「ただいま。」


「……なんでお前までいるんだよ。」


「いいから起きろ。」


「あ?」


 面倒そうに身体を起こすレイへ。


 ルコは言った。


「とりあえず何でも屋でもやっとけ。」


「アイリスと一緒に許可は取っといた。」


「……は?」


 レイが固まる。


 その横で。


 アイリスは大事そうに依頼書を持っていた。


「仕事。」


「取れた。」


「……仕事?」


「うん。」


「私が営業して。」


「初めて取れた。」


「……。」


 レイは目を丸くする。


「自分でとってきたのか?」


「うん。」


「すげぇじゃん。」


 素直に笑う。


「三日かかった。」


「三日で取れたなら十分だろ。」


「頑張ったな。」


「……うん。」


 アイリスも嬉しそうに笑う。


「……。」


 そして。


 レイの視線が。


 アイリスの持つ依頼書へ落ちる。


「あっ……。」


「それ。」


「俺が行くやつだよな。」


「うん。」


「……。」


「……あぁ……。」


 深いため息。


「わかった。」


 レイは依頼書を受け取ると。


 そのまま立ち上がった。


「じゃあ。」


「行ってくる。」


「うん。」


 迷う様子もなく。


 玄関へ向かい。


 そのまま家を出ていった。


「……。」


 扉が閉まる。


 アイリスはしばらく、その扉を見つめていた。


 そして。


 小さく息を吐く。


「素直に行ってくれて、よかった。」


「……ん?」


「引っ叩かなくてよかった。」


「……。」


 ルコは一瞬黙り。


 苦笑した。


「誰に何教わってきたんだよ。」


「近所の人。」


「怖ぇな。」


 ルコは肩を竦める。


「でも。」


「言ったろ。」


「お前が一人で営業したから、響いたんだ。」


「……私が?」


「あぁ。」


「俺が仕事持ってきて。」


『働け。』


「って言ったって。」


「あいつなら。」


『めんどくせぇ。』


「で終わりだ。」


「……。」


「でも。」


「お前が三日間、自分で街歩いて。」


「自分で声掛けて。」


「自分で取ってきた。」


「そんな仕事。」


「あいつが放り出せるわけねぇだろ。」


「……。」


 アイリスは少しだけ。


 嬉しそうに笑った。



「……。」


 レイは依頼書を片手に。


 街を歩いていた。


「何でも屋ねぇ……。」


 正直。


 やりたくない。


 仕事なんて。


 めんどくさい。


 それでも。


 アイリスが。


 一人で街を歩いて。


 知らない人に声を掛けて。


 三日かけて。


 初めて取ってきた依頼。


「……辞めるは、ねぇな。」


 それだけは。


 最初から決まっていた。


 ただ。


「リピートは。」


「また別だよな。」


 一度やるのと。


 ずっと頼まれるのは違う。


 今回の依頼は。


 自分の責任で終わらせる。


 でも。


 次から頼まれなければいい。


「……。」


 少し考える。


「めちゃくちゃ。」


「めんどくさそうにしとけば。」


「嫌われるだろ。」


 態度が悪い。


 やる気がない。


 二度と頼みたくない。


 そう思わせればいい。


「……完璧。」


 実際。


 めんどくさいし。


 嘘でもない。


 そんなことを考えているうちに。


 依頼人の家へ着いた。



「すみません。」


「ん?」


 女性が扉を開ける。


 そして。


 レイを見て目を丸くした。


「え?」


「もう来たの?」


「さっき頼んだばっかりだけど。」


「はい。」


「めんどくさいけど来ました。」


「……は?」


「この倉庫のやつ。」


「運ぶんですよね。」


「え、あぁ。」


「そうだけど……。」


「じゃあ。」


「行ってきます。」


「え?」


 レイはそのまま倉庫へ向かった。


 扉を開ける。


「……これ全部か。」


 中には。


 いくつもの箱。


 袋。


 家具。


 雑貨。


 かなりの量が積まれていた。


「何回かに分けても――。」


「いや。」


「一回でいいです。」


「……一回?」


 レイは手早く荷物を動かしていく。


 大きな箱を下へ。


 軽いものを上へ。


 形を揃え。


 隙間を埋め。


 次々と積み上げる。


「ちょ。」


「そんな積んで大丈夫なの?」


「崩れないようにするんで。」


 最後に。


 荷物全体へ薄く魔力を纏わせる。


 固定。


「よし。」


 そのまま。


 両腕で抱えた。


「……え?」


 女性の目が大きくなる。


「じゃあ。」


「行ってきます。」


「いや。」


「ちょっと待っ――。」


 レイは走り出した。


「……。」


 女性は。


 その後ろ姿を見送るしかなかった。



 しばらくして。


「戻りました。」


「早っ!?」


 女性が思わず声を上げる。


「全部?」


「はい。」


「届け先で確認も?」


「してもらいました。」


「……。」


「じゃあ。」


「報酬ね。」


 女性が財布を取り出し。


 約束していた金額を差し出す。


「はい。」


 レイは受け取り。


 軽く確認する。


「確かに。」


「じゃあ。」


「帰ります。」


「え?」


「終わったんで。」


「いや。」


「あ、うん。ありがとう。」


 女性は。


 目の前の男を見つめた。


 態度は悪い。


 やる気も感じない。


 ずっとめんどくさそう。


 なのに。


 仕事は、異常に早かった。


「……なんだあいつ。」


 レイが去った後。


 女性は一人。


 そう呟いた。

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