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LAVeLESS  作者: 神矢
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43/91

ラヴェレス誕生秘話②

「何でも屋を開きたい。」


 役所の窓口で、ルコがそう告げる。


「かしこまりました。」


「資格などはお持ちですか?」


「あぁ。」


 ルコは右手を差し出した。


「プロハンターのルコだ。」


 右手の甲に刻まれた、プロ資格の刻印。


 職員はそれを確認すると、机の下から小さな魔導具を取り出した。


「確認させていただきます。」


「どうぞ。」


 魔導具を刻印へ近付ける。


 一瞬だけ淡い光が灯り。


 すぐに消えた。


 職員が表示を確認する。


「……確認できました。」


「プロハンター、ルコ様ですね。」


「あぁ。」


「では、こちらへ必要事項を記入してください。」


「ほい。」


 渡された用紙を受け取り。


 ルコはそのままアイリスへ渡した。


「書けるとこ書いて。」


「うん。」


 アイリスは用紙を受け取り。


 一つずつ確認しながら書き始める。


 しばらくして。


 職員が書類へ目を通した。


「営業予定日は、いつですか?」


 アイリスがルコを見る。


「いつからできる?」


「俺に聞くなよ。」


 ルコも職員を見る。


「いつからできる?」


「ルコさんが保証人になられるのであれば。」


「即日でも可能です。」


「じゃあそれで。」


「はい。」


 職員が書類へ書き加えていく。


「それでは。」


「屋号はどうされますか?」


「屋号?」


 アイリスが首を傾げる。


「店の名前。」


「あぁ……。」


 少し考え。


 ルコを見る。


「どうする?」


「んー。」


 ルコも少しだけ考えたが。


「あとで決めるよ。」


「かしこまりました。」


 職員は書類を受け取ると、一度内容を確認した。


「では、少々お待ちください。」


「あぁ。」


 そのまま書類を持ち、奥の部屋へと入っていく。


「……。」


 アイリスは扉の向こうを見つめる。


「時間かかる?」


「いや。」


「プロが保証人なら、確認だけだろ。」


 ルコは気にした様子もなく椅子へ座った。


 数分もしないうちに。


 先ほどの職員が、もう一人の職員と共に戻ってきた。


 二人で書類を確認し。


 最後に署名を入れる。


「お待たせいたしました。」


「確認が取れましたので、本日より営業していただけます。」


「お。」


 ルコが笑う。


「早かったな。」


「はい。」


 職員はアイリスへ書類を差し出した。


「こちらをお持ちください。」


「ありがとうございます。」


 アイリスは両手で受け取る。


 じっと。


 書類を見つめた。


「これで。」


「何でも屋?」


「あぁ。」


「今日からな。」


「……。」


 アイリスの表情が少しだけ明るくなる。



 役所を出る。


 通りにはまだ多くの人が行き交っていた。


 アイリスは手にした書類を見ながら。


 ルコの隣を歩く。


「ルコ。」


「ん?」


「どうやって仕事を探せばいい?」


「あー。」


 ルコは少し考えた。


「まず。」


「今日から始まったってこと。」


「それと。」


「何でもできるってこと。」


「これは伝えろ。」


「……何でもできる。」


「そ。」


「何でも屋なんだからな。」


 アイリスは小さく頷く。


「それから?」


「それだけ。」


「……それだけ?」


「あぁ。」


 ルコは笑った。


「後は自分なりのやり方で。」


「仕事取ってみろ。」


「自分なり……。」


「俺が営業の仕方まで全部教えて。」


「俺が客まで連れてきたら。」


「あいつには響かねぇだろ。」


「……。」


 アイリスは少しだけ考える。


「自分で取った方がいい?」


「絶対そっちの方がいい。」


「分かった。」


 アイリスは真剣に頷いた。


「やってみる。」


「おう。」


 ルコは手をひらひらと振る。


「頑張れ。」


「うん。」


 こうして。


 その日から。


 アイリスは街を歩き回ることになった。



「何でも屋です。」


「今日から始めました。」


「何でもできます。」


「お仕事ください。」


「……。」


「……。」


「何でも屋です。」


「お仕事ください。」


「……いや。」


「今はないかな。」


「分かりました。」


「ありがとうございます。」


 次。


「何でも屋です。」


「今日から始めました。」


「何でもできます。」


「お仕事ください。」


「……。」


 店主はアイリスを見て。


 額の奴隷紋を見る。


 もう一度、アイリスを見る。


「……主人は?」


「家にいます。」


「……そうか。」


「お仕事ありますか?」


「いや。」


「ない。」


「分かりました。」


「ありがとうございます。」


 アイリスは頭を下げ。


 次の店へ向かう。


 店主はその後ろ姿を見送りながら。


「……何やってんだ、主人。」


 小さく呟いた。


 営業も。


 奴隷。


 現場へ出るのも。


 恐らく奴隷。


 しかも。


『何でも屋です。お仕事ください。』


 営業と呼ぶには。


 あまりにも、そのままだった。


 だが。


 そんなことなど知らないアイリスは。


 次の店へ向かう。


「何でも屋です。」


「今日から始めました。」


「何でもできます。」


「お仕事ください。」


「悪いね。」


「今は間に合ってるよ。」


「分かりました。」


「ありがとうございます。」


 次。


「何でも屋です。」


「お仕事ください。」


「……。」


「ない。」


「分かりました。」


 また次。


 朝から何度繰り返したか。


 もう分からない。


 仕事は。


 一件も取れなかった。


「……営業。」


「難しい……。」


 アイリスは小さく呟く。


 ルコから教えてもらったことは。


 ちゃんと伝えている。


 今日から始めた。


 何でもできる。


 仕事が欲しい。


 全部言っている。


 なのに。


 誰も仕事をくれない。


「……何が足りないんだろ。」


 考えながら歩いていると。


「いたたた……。」


 小さな声が聞こえた。


 アイリスが足を止める。


 通りの端。


 年老いた女性が、大きな袋を地面へ置き。


 腰を曲げて足をさすっていた。


「大丈夫?」


「ん?」


 女性が顔を上げる。


「大丈夫大丈夫。」


「ちょっと足が痛くなっただけだから。」


 アイリスは袋を見る。


 かなり重そうだった。


「それ。」


「持つよ。」


「え?」


「家まで持ってく。」


「いやいや。」


「悪いよ。」


「大丈夫。」


 アイリスは袋へ手を伸ばす。


 持ち上げた。


「……。」


「重くないの?」


「うん。」


「これくらいなら平気。」


「そうかい?」


 女性は少し申し訳なさそうにしながらも。


「じゃあ。」


「お願いしようかねぇ。」


「うん。」


 二人は並んで歩き出した。


「お嬢ちゃん。」


「この辺の子?」


「最近、近くに引っ越してきた。」


「そうなの。」


「今日は何してたんだい?」


「営業。」


「営業?」


「うん。」


 アイリスは胸を張る。


「何でも屋です。」


「今日から始めました。」


「何でもできます。」


「お仕事ください。」


「……。」


 女性は少しだけ目を丸くした。


「お嬢ちゃんが営業してるのかい?」


「うん。」


「主人は?」


「家にいる。」


「……そうかい。」


 何とも言えない顔をする。


 だが。


 それ以上は何も言わなかった。


 しばらく歩き。


「ここだよ。」


 一軒の家の前で、女性が立ち止まる。


 アイリスは荷物を玄関先へ置いた。


「ありがとうねぇ。」


「本当に助かったよ。」


「ううん。」


「じゃあ。」


「営業、頑張るね。」


「待ちな。」


 女性が財布を取り出す。


「少しだけだけど。」


「いい。」


「え?」


「これは仕事じゃないから。」


「でも、荷物運んでもらったんだよ?」


「うん。」


「でも」


「仕事で受けたわけじゃない。」


「だから、いらない。」


 アイリスは小さく頭を下げる。


「じゃあね。」


「あ、あぁ……。」


 女性は。


 歩き出したアイリスの背中を見つめていた。



 その後も。


 仕事は取れなかった。


 けれど。


「あっ。」


 風に飛ばされた紙を追いかけていた店員を見つければ、一緒に拾った。


「ありがとう!」


「ううん。」


 転んだ子供がいれば。


「痛い?」


「ちょっと……。」


「見せて。」


 膝の汚れを落としてやった。


 重い荷車を動かせずに困っている男がいれば。


「押す。」


「え?」


「いくよ。」


「ちょ、待っ――!」


 後ろへ周り。


 二人で荷車を押した。


 そうして。


 気付けば夕方になっていた。


「……。」


 アイリスは街の真ん中で立ち止まる。


「営業……。」


 難しい。


 それでも。


「明日もやろ。」


 小さく呟き。


 アイリスは家へ帰っていった。


 その日。


 仕事は一件も取れなかった。


 それでも。


 次の日も。


 アイリスは街へ出た。


 水色の美しい髪を持った。


 エルフの奴隷の少女。


 一日中、街を歩き回り。


 困っている人を見つけるたびに。


 当たり前のように手を貸していた。


 当然。


 そんな少女は。


 少しずつ、街の人々の目に留まり始めていた。


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