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LAVeLESS  作者: 神矢
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37/90

落札後

 落札金の支払いを終え。


 レイとルコは案内されるまま控室へ通された。


「いやー……。」


 ルコは深く息を吐く。


「まさか二億八千万まで跳ね上がるとは思わなかったな。」


 苦笑しながら肩を竦める。


「まぁ。」


「約束は果たした。」


「これでエルフちゃんも、帰ってくる。」


 レイは小さく頷いた。


「あぁ。」


 しばらくして。


 部屋の扉が開く。


 入ってきたのは、アイリスではなく。


 黒いスーツへ身を包んだ運営責任者だった。


「この度は落札、誠にありがとうございます。」


 深く一礼する。


 だが。


 その表情は硬かった。


「申し訳ございません。」


「落札されましたエルフにつきましては、現在お引き渡しすることが出来ません。」


 部屋の空気が止まる。


「……あ?」


 ルコが眉をひそめた。


「どういう意味だ。」


「今回の競売におきまして。」


「出品者である貴方様ご本人が、ご紹介された方へ商品を落札させております。」


「そのため。」


「不正取引の可能性があると判断いたしました。」


「現在、調査を進めております。」


「調査が終了するまで、商品のお引き渡しは出来ません。」


 一瞬の静寂。


 そして。


「……はぁ?」


 ルコの眉がぴくりと動く。


「何言ってんだ、お前。」


「紹介枠を使った。」


「入場料も払った。」


「競売も最後まで参加した。」


「金も払った。」


「どこに問題がある。」


「規約違反した覚えはねぇぞ。」


「規約違反とは申し上げておりません。」


「ですが、不正ではないと断定することも出来ませんので――」


「だからって止めんのかよ!」


 ルコが机を蹴り飛ばした。


 轟音が部屋へ響く。


「ふざけんな!」


「手数料も取っただろうが!」


「運営にも利益入ってんだろ!」


「俺は誓約書破って返せなんて言ってねぇ!」


「客として!」


「ちゃんと競って!」


「ちゃんと金払って!」


「落札したんだよ!」


「それでも返さねぇってのか!」


 責任者は一歩も退かない。


「若様のご判断が下るまで、お渡しすることは出来ません。」


「だったらその若様呼べ!」


 ルコが胸ぐらを掴んだ。


「今すぐだ!」


「おい!」


 責任者が叫ぶ。


 次の瞬間。


 武装した警備員たちが一斉になだれ込んできた。


「取り押さえろ!」


「ちっ!」


 ルコが拳を振るう。


 一人。


 二人。


 三人。


 警備員が吹き飛ぶ。


「舐めてんじゃねぇぞ!」


「ラクエンは信用第一じゃなかったのか!」


「客から金だけ取って!」


「後から渡せませんだぁ⁉︎」


「そんなもん詐欺と変わんねぇだろうが!」


 警備員が次々と飛び掛かる。


 武器は預けている。


 魔力封じの腕輪も付けられている。


 それでも。


 ルコは拳一つで何人も床へ沈めていく。


 しかし。


 数が違う。


 十数人。


 二十人。


 流石のルコも床へ押さえ付けられた。


 レイは抵抗しなかった。


 両腕を押さえられたまま。


 静かに状況だけを見つめていた。


 それでも。


 ルコはなお暴れ続ける。


「離せコラァ!」


「筋通せ!」


「責任者呼べ!」


「若様でも誰でもいい!」


「納得できる説明してみろ!」


 その時だった。


 扉が開き。


 低い声が。


 部屋の中に、響く。


「……やけに騒がしいと思ったが。」


 部屋の空気が変わる。


 警備員たちが一斉に振り返る。


 ゆっくりと。


 一人の青年が姿を現した。


 茶色の短い髪。


 鍛え抜かれた肉体。


 派手な装飾はない。


 黒いスーツの上からでも分かるほど均整の取れた体躯。


 ただ歩くだけで。


 周囲の部下たちが自然と道を開けていく。


 レイは静かに視線を向けた。


 まだ若い。


 二十代前半ほどだろう。


 それでも。


 誰一人として軽く見る者はいない。


 地下街ラクエン。


 リスタードファミリー若頭。


 表へ姿を見せない父に代わり。


 実質的に、この街を束ねる男。


 【地砕の暴君】


 リュウ・リスタード。


 リュウは。


 床へ倒れている部下たちを見回した。


「ほう。」


「よくもまぁ。」


「ここでこれだけ暴れたなぁ。」


ゆっくりとルコへ近付く。


「うちの部下をここまで痛めつけるとは。」


「覚悟は出来てんだろーな?」


 押さえ付けられたルコを見下ろし。


 リュウは肩を鳴らした。


「魔力封じの腕輪付けて。」


「ここまで暴れるとはな。」


「何があったか。」


「俺は聞かなきゃいけねぇ立場なんだが。」


 口元が。


 僅かに吊り上がる。


「……すげぇ興味湧いた。」


 その一言で。


 部屋中が静まり返る。


「俺に勝てたら。」


「今回の件は不問にしてやる。」


 誰もが、息を呑んだ。


「もちろん。」


「負けたら死ね。」


「お、お待ちください若様!」


 責任者が慌てて口を開く。


「こやつらは――」


「……あ?」


 リュウは面倒くさそうに視線だけ向けて、威圧する。


「……」

 

 責任者は、黙ってしまう。


「ふん…」


 リュウは、再度ルコを見る。


「なんでそんな怒ってんだよ。」


「うちの部下がなんかしたかぁ?」


 軽く笑いながら言う。


 そのまま。


 また責任者へ目を向けた。


 一瞬。


 責任者の表情が固まる。


 その一瞬だけで。


 リュウは何も言わなかった。


 小さく鼻で笑うと。


 すぐに興味を失ったように視線を外す。


「まぁいい。」


「オークションは俺らの商売でも一番大事だからな。」


「他国の連中も来てる。」


「ここまで暴れられて。」


「何もしねぇじゃ示しがつかねぇ。」


 拳を握る。


「けど。」


「俺に勝てば話は別だ。」


「部下が悪かったなら。」


「今度はあいつらが死ぬだけだ。」


 その言葉に。


 責任者を含め。


 数人の顔色が変わる。


「おい。」


「離してやれ。」


「若……?」


「いい。」


「暴れたのはそいつだろ。」


 拘束が解かれる。


 ルコはゆっくり立ち上がった。


 拳を握る。


 リュウも向かい合う。


「安心しろ。」


「俺も魔力は使わねぇ。」


「拳だけだ。」


 ルコは鼻で笑う。


「上等だ。」


「ぶっ飛ばして。」


「その部下共まとめて土下座させてやる。」


「ははっ。」


 リュウは楽しそうに笑った。


「そういう奴。」


「嫌いじゃねぇ。」


 次の瞬間。


 二人の姿が同時に消えた。


 一直線。


 互いの拳が。


 真っ直ぐ相手だけを狙う。


「おおおおッ!!」


 ルコの渾身の右。


 魔力も。


 武器も。


 何もない。


 鍛え抜いた肉体だけで放つ一撃。


 ――ドゴッ!!


 拳は。


 確かにリュウの頬を捉えた。


「……。」


 リュウは避けない。


「……ちょっと痛ぇ。」


 その程度だった。


 次の瞬間。


 リュウの拳が振り抜かれる。


 ――ゴッ!!


 ルコの身体が壁まで一直線に吹き飛ぶ。


 轟音。


 石壁へめり込み。


 そのまま崩れ落ちた。


 完全に気絶していた。


「なんだてめぇ。」


「ちょっと痛かったけど。」


「よえーじゃねぇか。」


 その瞬間。


 責任者――シュロは。


 小さく息を吐いた。


 肩の力が抜ける。


(……助かった。)


 若様が勝った。


 これで終わる。


 そう思った。


 だが。


 ゾクリ――。


 部屋の空気が震える。


 リュウが。


 ゆっくりと視線を向けた。


 その先。


 拘束されたままのレイ。


 一瞬だけ。


 凄まじい殺気が漏れる。


「あー。」


 リュウは笑う。


「もしかして。」


「お前の方が楽しませてくれる?」


 レイは答えない。


 ただ。


 壁際で倒れたルコを見つめていた。


 その視線だけで。


 リュウは十分だった。

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