↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAVeLESS  作者: 神矢
PR
35/90

秘密

《転生者》


 それを聞いて。

 

 驚きが。すぐに消えたわけではない。


 けれど。


 ルコがハンター試験で感じていたという違和感。


 この世界では耳にしない言葉への反応。


 そして。


 誰にも話していないはずの、自分の過去。


 それらは、確かに一つの答えへ繋がっていた。


「同じ日本人だったことが。」


 レイは、ルコを見据える。


「俺に協力する、最後の理由か。」


「最後の一押しだな。」


 ルコは、あっさりと認めた。


「同郷だからってだけで。」


「無条件に信用してるわけじゃねぇよ。」


「ハンター試験での借り。」


「帝国を相手にした、お前の度胸。」


「今後、商売相手にすれば儲かりそうだって打算。」


 指を折りながら。


 一つずつ数えていく。


「そこに。」


「同じ日本から来た人間だって事実が重なった。」


「だから。」


 ルコは、僅かに目を細めた。


「お前になら話してもいいと思った。」


「…………。」


「このことは。」


「今まで、誰にも話してない。」


 いつもの軽い調子ではなかった。


 前世の記憶。


 自らの死。


 この世界とは別の場所から来たという事実。


 それを口にすることが。


 ルコにとっても、軽いものではないのだろう。


「前世では。」


 ルコは、壁へ背を預けた。


「恋人がいた。」


 彼女は。


 重い病を患っていた。


 助ける方法はあった。


 ただし。


 そのためには、億を超える金が必要だった。


「親もいなかったし。」


「当時の俺も、何の力もないガキだった。」


「どれだけ足掻いても、金は用意できなかった。」


「…………。」


「金があれば、助かった。」


「でも。」


「俺には、その金がなかった。」


 恋人を失い。


 ルコは、そのあと。


 自ら命を絶った。


 そして次に目を覚ました時。


 この世界のスラムで、赤子として生まれていた。


「笑えるだろ。」


「生まれ変わった先でも、また貧乏だ。」


「食い物も、着る物もない。」


「昨日まで生きてた奴が。」


「次の日には、道端で死んでるような場所だった。」


 ある日。


 捨てられていた魔法書を拾った。


 文字を覚え。


 独学で魔法を学び。


 スラムで出会った仲間と共に、強くなった。


 二人は、やがて旅へ出た。


 だが。


「そいつも、ある国に裏切られて死んだ。」


「…………。」


「俺に金と権力があれば。」


「今度は、助けられたかもしれない。」


 前世の恋人も。


 今世の仲間も。


 金と力が足りず、救えなかった。


「だから、プロハンターになった。」


「俺にとって。」


「金は、ただ贅沢をするためのもんじゃない。」


 ルコは。


 静かにレイを見る。


「命なんだよ。」


「金がなかったせいで失うのは。」


「もう、御免なんだ。」


 だから。


 金になる依頼を受ける。


 奴隷が金になるなら売る。


 裏切る方が得になるなら。


 そうする可能性もあると、自分から認めている。


「綺麗事なんて。」


「とっくに見えなくなっちまった。」


「けどな。」


 ルコの視線が。


 僅かに鋭くなる。


「お前たちは。」


「何の得にもならないのに、あの里を守ろうとした。」


「帝国軍を相手に。」


「本気で命を張った。」


「…………。」


「馬鹿だと思ったよ。」


「否定はしない。」


「だろうな。」


 ルコは、小さく笑う。


「でも。」


「そんな馬鹿を、俺は嫌いじゃない。」


「恋愛感情抜きで。」


「同じ男として惚れたのも、本当だ。」


「そこは強調するんだな。」


「二回も殴られたからな!」


 ルコは。


 腫れた頬を指差した。


「ちなみに、ガチホモってのはキャラ作りだ。」


「本当は女が好きだ。」


「…………。」


「前世より、妙に顔が良くなっちまってな。」


「女が寄ってくるのが面倒だから。」


「男が好きなふりをしてる。」


「余計な問題が増えてるようにしか見えないけどな。」


「少なくとも、女は寄ってこなくなったぞ。」


「代わりに男に殴られてる。」


「それはお前だけだよ!」


 ルコの声が。


 路地裏へ響いた。


 そして。


 僅かな沈黙が落ちる。


「それに。」


 ルコは、再び声を落とした。


「お前たちと会って。」


「少しだけ、希望ができた。」


 自分が。


 この世界へ生まれ変わった。


 レイたちも。


 同じ日本から、この世界へ転生している。


 ならば。


「前世のあいつも。」


「この世界のどこかにいるかもしれない。」


「…………。」


「保証なんて、どこにもねぇ。」


「馬鹿みたいな話だってことも分かってる。」


「それでも。」


 ルコは。


 微かに笑った。


「零じゃないと思えるようになった。」


「その可能性を見せてくれたのは。」


「お前たちだ。」


 レイは。


 目の前にいる男を、静かに見つめた。


 自分の腹を貫き。


 アイリスを連れ去った男。


 金のためなら。


 裏切ることもあると公言する男。


 その行動を。


 許せるわけではない。


 けれど。


 理解できない人間でもなかった。


「事情は分かった。」


 レイは、ゆっくりと口を開く。


「お前が金に執着する理由も。」


「この世界の仕組みの中で。」


「帝国の依頼を受けたこともな。」


「俺も、この世界で人を殺してきた。」


「綺麗事で。」


「お前の生き方を否定するつもりはない。」


 だが。


「アイリスを攫ったことを。」


「俺が許せるかどうかは、別の話だ。」


「……ああ。」


「それでも。」


 レイは。


 感情と判断を、切り離す。


「アイリスを取り戻すために協力するなら。」


「今ここで、お前と争う理由はない。」


 真っ直ぐに。


 ルコを見る。


「同じ元日本人として。」


「助けてほしい。」


「そのあとは。」


「俺にできることなら、できる限り協力する。」


「…………。」


 ルコは。


 少しの間、黙っていた。


 やがて。


 満足そうに笑う。


「やっぱり、お前は話が早いな。」


「余計なことはいい。」


「オークションへ入る方法を話せ。」


「へいへい。」


 ルコは。


 懐から、一枚の黒い札を取り出した。


 表面には。


 金色の紋章が刻まれている。


「大オークションは。」


「金さえ払えば、誰でも入れる場所じゃない。」


 ラクエンでは。


 表の身分に意味はない。


 王族も。


 貴族も。


 ハンターも。


 参加する権利を持たなければ、門前払いとなる。


「入場料は、百万ベル。」


「それとは別に。」


「参加権を持つ奴から紹介を受けて、一千万ベルを払う。」


「申し込み後の審査と手続きには。」


「最低でも二週間かかる。」


「大オークションは三日後。」


 そこまで聞き。


 レイはすぐに結論へ辿り着く。


「今から正規の参加権を取るのは、間に合わない。」


「そういうことだ。」


 ルコは。


 黒い札を指先で揺らした。


「ただし。」


「商品を出品した業者には、特別な枠がある。」


「入場料さえ払えば。」


「その年のオークションへ参加できる。」


「さらに。」


「一人だけ、客を無条件で紹介できる。」


「お前の紹介枠を。」


「俺に使うということか。」


「話が早くて助かるよ。」


 ルコは。


 札をレイへ差し出した。


「これで、お前は三日後のオークションへ入れる。」


「なぜ、そこまで――。」


 口にしかけ。


 レイは言葉を止めた。


 その理由なら。


 すでに、十分すぎるほど聞いている。


 ルコも。


 それに気づいたように、小さく笑った。


「ここで会ったのも、何かの縁だ。」


「ハンター試験の借りもある。」


「同じ日本から来た奴と会えた礼もある。」


「それに。」


 いつもの調子で。


 口元を歪める。


「お前と商売仲間になれば。」


「今後、かなり儲かりそうだからな。」


「最後の一言で、全部台無しだぞ。」


「本音を隠すよりいいだろ?」


「信用はできない。」


「だから正直に話してるんだよ!」


 レイは。


 差し出された札を受け取った。


「本当なら。」


「俺が買い戻すのが一番早かったんだがな。」


 ルコは、頭を掻いた。


「もう出品の誓約書に署名してる。」


「しかも。」


「あの子は、大オークションの目玉だ。」


「今さら返せと言っても。」


「リスタード・ファミリーが認めるわけがない。」


「悪いな。」


「お前は死んだと思ってた。」


「…………。」


「だから。」


 ルコは続ける。


「落札するのは、お前だ。」


「俺があの子を売って得る金は。」


「そのまま、お前の支払いへ回す。」


 前金として。


 ルコは、すでに三千万ベルを受け取っている。


 落札額が三千万ベルを超えた場合。


 超過分の八割が、追加の売却益として入る。


 残り二割は。


 オークション側へ支払う手数料だった。


「仮に、一億で落札された場合。」


「俺の取り分は、合計で八千六百万。」


「その全額を、お前の落札代金へ充てる。」


「不足は、一千四百万だ。」


「ただ。」


 ルコは、僅かに眉を寄せる。


「一億を超える可能性もある。」


「余裕を見るなら。」


「あと三千万ほど、自由に動かせる金が欲しい。」


「お前の手持ちは?」


「二百万ベル。」


 レイは、迷わず答えた。


「王都で、拠点を買ったばかりだ。」


「旅で手に入れた素材も。」


「その時に、ほとんど換金した。」


「……なるほどな。」


 ルコは。


 頭の中で、残された時間を計算する。


「お前なら。」


「高ランクの討伐依頼を何件かこなせば、金自体は作れる。」


「けど。」


「三日じゃ、現地までの往復と確認が間に合わない。」


「ああ。」


「倒す時間より、移動にかかる時間の方が長い。」


「となると。」


 ルコは。


 しばらく黙って考え込んだ。


 やがて。


 苛立ったように頭を掻き回す。


「あー、もう!」


「分かったよ!」


「不足分は、俺の手持ちから出してやる!」


「…………。」


「その代わり!」


 勢いよく。


 レイへ指を突きつける。


「絶対に返せよ!」


「お前の、その。」


「高ランクの討伐対象を簡単に倒せる、わけの分からねぇ実力で!」


「あとから、きっちり稼いで返させるからな!」


「分かった。」


「返す。」


「即答かよ!」


「返せるからな。」


「くそっ……!」


 ルコは。


 悔しそうに顔を歪める。


 それでも。


 大きく息を吐き。


 レイを真っ直ぐに見た。


「もう、ここまで来たら最後までやるぞ。」


「三日後。」


「絶対に、あの子を取り戻す。」


「……お前。」


 レイは、僅かに目を細めた。


「本当は、いい奴だったんだな。」


「俺の腹に穴を開けたけど。」


「うっせぇな!」


 ルコの怒鳴り声が。


 再び、路地裏へ響いた。


「もう、ヤケだよ! ヤケ!」


「お前みたいな奴と組めば。」


「裏切られる心配も少ないし。」


「長い目で見れば、もっと儲かりそうだからな!」


「それ、本人の前で言うのかよ。」


「お互い様だ、ボケ!」


 大オークションまで。


 残り三日。


 アイリスを取り戻すため。


 レイは。


 自分の腹を貫いた男と、手を組むことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。