↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAVeLESS  作者: 神矢
PR
33/90

再会

 地下街ラクエン。


 王都下級区の地下から。


 城壁の外側へ向かって広がる、巨大な街。


 そこに、王国の法はほとんど届かない。


 酒。


 賭博。


 奴隷。


 表では扱えない品と欲望が集まり。


 マフィアの定めた暗黙の了解によって、危うい秩序が保たれていた。


 年に一度の大オークションを三日後に控え。


 普段以上に多くの人間が、ラクエンへ流れ込んでいる。


 その夜も。


 酒場は、客の怒鳴り声と笑い声で満ちていた。


 レイは。


 店の隅にある席で、一人酒を飲んでいた。


 昼間は、広すぎる家の中へ閉じこもり。


 夜になれば、こうして地下街へ降りてくる。


 酒を飲むため。


 そして。


 奴隷商や、大オークションに関する話を拾うために。


 食事は、生きるために必要な分だけ。


 眠りも浅く。


 笑い方さえ、いつの間にか忘れていた。


 それでも。


 アイリスを捜すことだけは、やめなかった。


「姉ちゃん! 酒、もう一杯!」


 酒場の奥から。


 聞き覚えのある声が響いた。


「あと肉も頼む! 一番でかいやつな!」


 豪快な笑い声。


 大きな卓を一人で占領し。


 酒瓶を片手に、周囲の客と騒いでいる男。


 レイの手が止まった。


「…………。」


 忘れるはずがない。


 自分の腹を貫き。


 アイリスを連れ去った男。


 ルコだった。


 レイは。


 静かに立ち上がった。


 手にしていた杯を、卓の上へ置く。


 真っ直ぐ。


 ルコのもとへ歩いていく。


「ん?」


 近づいてくる気配に気づき。


 ルコが、酒瓶から口を離した。


「……お?」


 レイの顔を見た瞬間。


 僅かに目を見開く。


「お前、生きて――。」


「久しぶりだな。」


「あ、ああ。久し――。」


 拳が。


 ルコの顔面へ突き刺さった。


「ぶふぉっ!?」


 椅子ごと吹き飛ばされ。


 ルコの身体が、隣の卓へ激突する。


 酒瓶と料理が宙を舞い。


 派手な音を立てて、床へ散乱した。


 騒がしかった店内が。


 一瞬にして静まり返る。


「てめぇ!」


 ルコと飲んでいた男たちが立ち上がった。


 だが。


 その声よりも早く。


 レイは腰の刀を抜いていた。


 床を蹴る。


 一気に間合いを詰め。


 立ち上がろうとするルコへ、刃を振り下ろした。


「ちょっ、待て!」


 ルコも。


 咄嗟に武器を抜く。


 刃と刃がぶつかり。


 鋭い金属音が、酒場中へ響き渡った。


「挨拶の次が斬撃かよ!」


「一発で済むと思うな。」


 鍔迫り合いのまま。


 レイは、ルコを押し込んでいく。


「お前が……!」


 刀を握る手に。


 魔力が集まった。


「あいつを連れていった!」


「分かってる! だから話を――。」


「黙れ!」


 力任せに刃を弾く。


 ルコの身体が後ろへ流れた。


 レイは追う。


 だが。


 横から、太い腕が身体へ絡みついた。


「捕まえろ!」


「こいつ、ルコに何しやがる!」


 二人。


 三人。


 周囲にいた男たちが、一斉にレイへ掴みかかる。


「離せ!」


 レイは一人を振り払った。


 続けて、もう一人の腹へ肘を打ち込む。


 それでも。


 二週間、まともに身体を動かしていなかった。


 以前なら簡単に振りほどけたはずの相手に。


 腕を押さえられ。


 背後から、床へ組み伏せられる。


「ぐっ……!」


「おとなしくしろ!」


「刀を取り上げろ!」


「やめろ。」


 ルコの声が響いた。


「そいつを離せ。」


「でも、ルコ!」


「いいから。」


 ルコは。


 切れた口元を拭いながら、立ち上がった。


「こいつとは、ちょっとした知り合いだ。」


「…………。」


 男たちは顔を見合わせる。


 やがて。


 渋々、レイから手を離した。


 レイはすぐに起き上がり。


 刀を構え直す。


「まさか、こんなところで会うとは思わなかったよ。」


 ルコは。


 腫れ始めた頬を擦った。


「さっきの一発は、エルフの里で俺が与えた一撃と相殺ってことにしてやる。」


「腹を刺した分には、随分安いな。」


「生きてるんだからいいだろ。」


「よくない。」


「相変わらず厳しいなぁ。」


 ルコは苦笑し。


 改めて、レイの姿を眺めた。


「つーか、本当によく生きてたな。」


「あの傷じゃ、普通は助からねぇぞ。」


「仲間が、優秀だからな。」


「ああ。あの子か。」


 ルコは納得したように頷く。


「まあ、正直なところ。」


「俺は、お前たちに感謝してるんだぜ。」


「…………。」


 レイの目つきが変わった。


「お前たちが帝国軍を引きつけてくれなかったら。」


「あんなに簡単に、エルフを連れ出せなかった。」


「まさか、一国の軍隊へ正面から喧嘩を売る馬鹿がいるとは思わなかったよ。」


「主力連中も、かなりの実力者だったしな。」


 ルコは。


 楽しそうに笑った。


「まあ、帝国側も。」


「あれがお前たちだったとは、まだ気づいてないだろうけどさ。」


「アイリスは、どこだ。」


 レイの声が。


 一段、低くなる。


「生きてる。」


 ルコは即座に答えた。


「傷も、ちゃんと医者に見せた。」


「完全に治してある。」


「食事も、下手な貴族よりいいものを食わせてるよ。」


「怖がらせるような真似もしてない。」


「…………。」


「俺が売った商品に傷が残ってたら。」


「信用に関わるからな。」


 あくまで。


 金のため。


 善意で助けたわけではないと。


 ルコは隠そうともしなかった。


「まだ子供だが。」


「ここしばらく、市場へ流れていなかったエルフだ。」


「顔立ちも、かなり整ってる。」


「大オークションの目玉としては、十分すぎる。」


「とりあえず。」


 ルコは指を三本立てる。


「前金で、三千万ベルもらった。」


「…………。」


「あとは、どこまで値が伸びるかだな。」


「一億近くまでいく可能性もある。」


 ルコは、上機嫌に笑う。


「帝国は、俺が死んだと思ってる。」


「依頼の報酬は受け取り済み。」


「そのうえ、エルフまで高値で売れる。」


「最高だろ?」


 レイの身体から。


 魔力が、静かに溢れ出した。


 周囲の客たちが。


 顔色を変えて、距離を取る。


「おっと。」


 ルコが両手を上げる。


「そんなに睨むな。」


「魔力も引っ込めろ。」


 声を落とし。


 周囲を軽く見回す。


「この街を仕切ってるマフィアの若頭。」


「《地砕》の部下に見つかったら、面倒だぞ。」


「…………。」


「表の王国なら、プロハンターの身分で多少は誤魔化せる。」


「けど、ラクエンの住人には通じない。」


「さすがにお前も。」


 ルコは薄く笑った。


「何度も考えなしで、一国級の連中に喧嘩を売るほど馬鹿じゃないだろ?」


 レイは。


 魔力を抑えた。


「話せ。」


「アイリスを、どうすれば取り戻せる。」


「やっぱり話が早いな。」


 ルコは、満足そうに頷く。


「お前の言いたいことは分かってる。」


「あのエルフの子を取り戻したいんだろ?」


「当たり前だ。」


「俺はな。」


 ルコは、自分の胸へ親指を向けた。


「一に金。」


「二に男なんだ。」


「…………。」


「元は百万ベル程度の仕事だった。」


「それが、お前たちのおかげで。」


「三千万以上の仕事に化けた。」


「俺は、度胸のある男が好きでね。」


 ルコの視線が。


 レイの顔を、上から下へと眺める。


「それに、お前。」


「かなり俺の好みの顔だしな。」


「…………。」


「お前の行動次第では。」


「あのエルフを、国にもマフィアにも喧嘩を売らずに取り戻す方法を。」


「教えてやらんこともない。」


「…………。」


「その手伝いも、してやっていい。」


 ルコは、意味ありげに笑った。


「お前が俺と、いっぱ――。」


 レイの身体から。


 魔力が爆発した。


「うおっ!?」


 押さえようとしていた男たちが。


 まとめて吹き飛ばされる。


 次の瞬間。


 レイの拳が、再びルコの顔面へ突き刺さった。


「ぶふぇあっ!」


 ルコの身体が宙を舞い。


 今度は、酒場の壁へ叩きつけられた。


「このガチホモ野郎……!」


「わ、分かった!」


 ルコが。


 鼻を押さえながら叫ぶ。


「落ち着け! 冗談だよ!」


「何、本気になってんだよ!」


「殺すぞ。」


「目が本気なんだよ!」


 ルコは慌てて立ち上がった。


「お前とは、金にもならないのにやり合いたくねぇんだよ!」


「だったら、二度とふざけるな。」


「へいへい……。」


 ルコは。


 床へ落ちた上着を拾い上げる。


 それから。


 騒然とする酒場の出口へ向けて、顎をしゃくった。


「ここじゃ話しづらい。」


「場所を変えようぜ。」


 レイは。


 刀を鞘へ戻した。


「逃げるなよ。」


「逃げねぇよ。」


 ルコは腫れた顔を押さえ。


 恨めしそうにレイを睨む。


「俺はもう、二発も殴られてんだからな。」


「腹の穴には、まだ足りない。」


「根に持ちすぎだろ。」


「当たり前だ。」


「……そりゃそうか。」


 ルコは、小さく息を吐いた。


 二人は酒場を出る。


 騒がしい大通りから離れ。


 魔導灯の光も届かない、細い路地裏へと入っていった。


 そこで。


 ルコは初めて。


 アイリスを取り戻すための方法を、口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。