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LAVeLESS  作者: 神矢
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23/90

アイリスの夢

 アイリスは一通りの家事を終えると、居間のソファーへ腰を下ろした。


 何でも屋 ラヴェレス。


 この場所で、奴隷として住み込みで働き始めてから、すでに半年以上が過ぎている。


 アイリスにとって、レイは大切な兄だった。


 レイもまた、自分を妹として大切に思ってくれている。


 それは、日々を共に過ごしていれば嫌でも伝わってきた。


 けれど。


 一歩、家の外へ出れば話は別だった。


 額に刻まれた証を見れば、誰もがアイリスを奴隷だと知る。


 そんな自分が自由人と同じように振る舞えば、侮られるのは自分だけではない。


 主人であるレイにも、迷惑がかかる。


 だからアイリスは。


 外では、奴隷として生きていく覚悟を決めていた。


「……ふぅ。」


 アイリスは、ゆっくりと息を吐き出した。


 安心できる場所。


 それが、この家だった。


 主人であるレイが与えてくれた、かけがえのない居場所。


 けれど、この家の中で。


 レイは主人ではなく、兄だった。


 ここで過ごした時間。


 積み重ねてきた、大切な記憶。


 瞼を閉じれば。


 あの日の森の匂いさえ、今でも鮮明に思い出せる。


 アイリスは幸せを噛み締めるように、そっと目を閉じた。


 そのまま。


 過去をなぞるように、浅い眠りへ落ちていった。


 ◇


「ねえ、レイの育った国って、どんなところなの?」


「あー、俺の国かぁ……。」


 レイは少し懐かしそうに、遠くを見た。


「小さな国でさ。いろんな種族が暮らしてたよ。」


「エルフも?」


「ああ、もちろん。」


「エルフもいたし、亜人って呼ばれる種族もいた。」


 レイは、何でもないことのように笑った。


「でもさ。結局、みんな同じだろ。」


「考えて、話して、笑う。同じ人だよ。」


「種族なんて関係なく、みんな一緒に暮らしてた。」


「……私も、森の外に出てみたいな。」


「そうだよなぁ……。」


 レイは少しだけ考え。


 アイリスへ笑いかけた。


「いつか出られるようになったら、いろんなところへ連れていってやるよ。」


 ◇


「レイ!!」


「アイリス……どうして、ここに……。」


「私たちの里だから!」


 アイリスは、声を張り上げた。


「私たちが守るんだよ!」


「アイリス……駄目だ……!」


「……悪いな、レイ。」


「やめろ……。」


「アイリス……しっかりしろ……!」


「……ごめんね、レイ。」


「助けられなくて……。」


「違う……!」


「俺が……お前を守れなくて……!」


「……悪いな。」


「少しばかり、胸糞は悪いけど。」


「これも運命だよ。」


「この子は、連れていく。」


「アイリス……!」


「待ってくれ……!」


 伸ばされた手が。


 少しずつ、遠ざかっていく。


 ◇


「……リス。」


「……アイリス。」


「アイリス!」


 名前を呼ばれ。


 アイリスは、ゆっくりと目を開けた。


 目の前にいたのは。


 自分にとって、何よりも大切な兄だった。


「レイ……。」


 まだ眠気の残る声で呟く。


「おかえりなさい。」


「ああ、ただいま。」


 レイは少し申し訳なさそうに笑った。


「遅くなって悪かったな。」


「こんなところで寝てたら、風邪ひくぞ。」


「待ってたら……そのまま寝ちゃった。」


「……そっか。」


 レイは、それ以上何も言わなかった。


 ただ。


 アイリスの頭へ、そっと手を置く。


 優しく、髪を撫でられる。


 この瞬間が。


 アイリスは、何よりも落ち着いた。


 けれど。


 レイの手は、すぐに離れてしまう。


 名残惜しくなり。


 アイリスは、遠ざかるその手を目で追った。


 それに気づいたのか。


 レイが、柔らかな笑顔を向けてくる。


「どうした?」


「……なんでもない。」


 アイリスは小さく首を横へ振った。


 故郷の家族とは。


 もう、会えなくなってしまった。


 それでも。


 この何気ない日々が、いつまでも続けばいい。


 アイリスは。


 いつも、そう願っていた。


けれど。


 初めから、この家を安心できる場所だと思えていたわけではない。


 レイを兄として慕い。


 自分を家族だと思えるようになるまでには、少しだけ時間がかかった。


 それは。


 アイリスがラヴェレスで暮らし始めて、まだ間もない頃のことだった。

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