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LAVeLESS  作者: 神矢
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黒猫とおいかけっこ

 孤児院へ向かう途中でアイリスとも合流し、三人で歩く。


 サリアは門の前までずっと叫び続けていた。


「帰る!」


「私は帰るぞ!」


「研究がぁぁぁ!」


「はいはい。」


 孤児院の門の前で、レイはようやくサリアを降ろす。


「着いたぞ。」


「……。」


 サリアは孤児院を見上げ、小さくため息をつく。


「……仕方がない。」


「ここまで来てしまったからには。」


 服と髪を軽く整える。


「まったく。」


「本当に仕方がないな、君は。」


 すっかり諦めたようにレイの隣へ並んだ。


「こんにちはー。」


 レイがいつもの調子で孤児院へ入る。


「あ、レイさん。」


 ローズが笑顔で迎える。


「こんにちは。」


「あぁ。」


 レイはアイリスへ手を向ける。


「妹のアイリス。」


「一応、従業員。」


 アイリスはぺこりと頭を下げる。


「アイリスです。」


「よろしくお願いします。」


 続けてサリアへ視線を向ける。


「こっちはサリア。」


「トランポリン作った人。」


「初めまして。」


 サリアは軽く一礼する。


「サリアだ。」


「よろしく頼む。」


 ローズは目を丸くした。


「えっ。」


「トランポリンを作られた方ですか?」


「子供たちのために、本当にありがとうございます。」


 サリアは小さく首を振る。


「レイ君に頼まれて作っただけだ。」


 ローズは改めて二人へ頭を下げた。


「そうだったんですね。」


「あの……。」


「そういえば、さっき外で叫び声がしましたけど……。」


「あぁ。」


「気にしなくていい。」


「ただの発作。」


「発作ではない!」


「私は正常だ!」





 子供たちはトランポリンではしゃぎ回っていた。


 アイリスも何も言わず、その中へ混ざって飛んでいる。


 表情は変わらない。


 けれど。


 口元だけは少し緩んでいた。


 その少し離れたところ。


 メルも子供たちに混ざりながら、何気ない様子で跳ねている。


 黒い猫耳だけが、時折レイたちの方へ向いていた。


 ローズは孤児院の中からお茶を運んでくる。


 魔導冷蔵庫から取り出した、よく冷えたお茶だった。


「どうぞ。」


「ありがとう。」


 サリアは一口飲み、小さく頷く。


「うん。」


「冷たいね。」


「美味しいよ。」


 ローズは嬉しそうに笑った。


「冷蔵庫も、十年くらい前まではまだあまり普及していませんでしたから。」


「今は本当に助かっています。」


「ふむ。」


 サリアはグラスを置く。


「何か改善してほしいところはあるかね。」


「え?」


「いえ……特にはありませんけど。」


「どうしてですか?」


「改善点があるなら。」


「直すから。」


「……え?」


 サリアは首を傾げる。


「あれ。」


「私が作った。」


「……え?」


 ローズは魔導冷蔵庫を見る。


 サリアを見る。


 もう一度、冷蔵庫を見る。


「え……。」


「えぇぇっ!?」


「これをですか!?」


「うん。」


「そうだけど。」


 あまりにも当然のように頷くサリア。


「こ、これって……!」


「今ではどこの家庭にもありますよね!?」


「そうらしいね。」


「便利だろう?」


「べ、便利なんてもんじゃありません!」


「夏でも食材は傷みにくいし!」


「子供たちにも冷たい飲み物を飲ませてあげられるようになりましたし!」


「本当に助かってるんです!」


 サリアは少し照れくさそうに頬を掻く。


「そうか。」


「役に立っているなら良かった。」


 少しだけ間を置く。


「だから。」


「何か改善してほしいところがあれば言ってくれ。」


「次に活かせる。」


「はい……。」


「分かりました。」


「でも、今のところは本当に助かっています。」


「そうか。」


 サリアは満足そうに頷いた。


 少し離れたところで。


 黒い猫耳が、ぴくりと動く。


 メルは跳ねながら、ちらりとサリアを見る。


(……あれ。)


(この人が作ったんだ。)


 毎日当たり前のように使っている魔導冷蔵庫。


 その隣では。


 レイが何でもない顔でお茶を飲んでいた。


 レイはふと思い出したように口を開く。


「あぁ。」


「そういえば。」


「洗濯機も魔導冷暖房もこいつだったな。」


「トイレや排水設備なんかも。」


「……え?」


 ローズの思考が止まる。


「え?」


「えぇぇぇぇぇっ!?」


 その大声に、子供たちが一斉に振り向く。


 メルも跳ねるのをやめた。


 サリアは不思議そうに首を傾げる。


「そんなに驚くことかね?」


「驚きますよ!」


「王国中どころか、世界中で使われてる物ばかりじゃないですか!」


「そうなのか?」


「知らなかった。」


「お前、自分で作っといて知らないのか……。」


 レイは呆れ半分、苦笑半分で肩をすくめる。


「研究が楽しかったからね。」


「使われる数までは興味がない。」


「その辺は家の者に任せてる。」


「なるほど……。」


 ローズはもう笑うしかなかった。


 メルは黙ったまま二人を見つめる。


 トランポリンを作った人。


 魔導冷蔵庫を作った人。


 洗濯機も。


 魔導冷暖房も。


 トイレも。


 そんな人を。


『こっちはサリア。』


『トランポリン作った人。』


 レイは、それだけで紹介した。


「……。」


 黒い猫耳が、ゆっくりとレイの方へ向く。


 本人は何も気にした様子もなく、お茶を飲んでいた。


 メルは少し離れた場所から、三人を眺めていた。


 世界に三百人ほどしかいないプロハンター。


 そして。


 誰もが使っている魔導具を作った人。


 その真ん中で。


「働きたくねぇ……。」


 レイは気怠そうに欠伸をしている。


「……。」


(あんな人と仲良くて。)


(あんなにすごい人なのに。)


 メルの猫耳が、ぴくりと動く。


(……変な人。)


 その時。


 レイと目が合った。


「お。」


 メルは一瞬だけ止まる。


 そして。


 くるりと背を向けた。


 少しだけ振り返る。


「……。」


 口元をわずかに上げる。


 次の瞬間。


 駆け出した。


「おい。」


 レイも笑う。


「逃げるのか?」


 そのまま地面を蹴った。


 二つの影が、王都の街へ飛び出していく。

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