黒猫の好奇心
その日の夜。
子供たちが寝静まり始めた頃。
ローズは食器を片付けていた。
「ねぇ、お母さん。」
振り返ると、メルが椅子へ腰掛けている。
「なぁに、メルちゃん。」
「今日の昼間。」
「何でも屋の黒髪に会った。」
ローズは少し笑う。
「レイさん?」
メルは頷いた。
「泥棒捕まえてた。」
「へぇ!すごいじゃない。」
「レイさんって、本当に頼りになるね。」
「……。」
メルは少し考え込む。
「どうしたの?」
「プロハンターって何?」
「あぁ……。」
ローズは手を止めた。
「プロハンターっていうのはね。」
「世界に三百人くらいしかいない、ギルドに認められた人たち。」
「この街にも何人かいるみたいだけど……。」
「まぁ、私たちが会ったり、お話したりすることはないかな。」
「教会の行事で見かけることはあるかもしれないけど。」
「雲の上の存在って思えばいいよ。」
「ふぅん……。」
少しだけ沈黙が流れる。
メルがぽつりと言った。
「あの黒髪。」
「プロハンターなんだって。」
「えぇ!?」
ローズは思わず目を丸くした。
「……あぁ。」
「そっか。」
「何でも屋さんだもんね。」
ローズは納得したような顔で穏やかに話す。
「きっと。」
「レイさんのところの社長さんが、プロハンターなんだ。」
メルは首を傾げる。
「社長?」
「うん。」
「何でも屋さんって、一人じゃできないことも多いから。」
「きっとレイさんは、その人のところで働いてるんじゃないかな。」
「……。」
メルは小さく頷く。
(そうなんだ。)
(あんなに足が速いのも。)
(見てないのに、私に気付くのも。)
(泥棒を捕まえられるのも。)
(その人の下で働いてるからなんだ。)
でも。
『ローズ院長には内緒にしなきゃな。』
怒らないし。
夜食に誘うし。
(……。)
(変。)
ローズは一人納得したように微笑む。
「それなら納得かな。」
「配達も、本当にびっくりするくらい速かったし。」
「テーブルの修理も、工具も使わずにあっという間だったでしょう?」
「お仕事も、すごく丁寧だったし。」
「本人は、やる気なさそうに見えたけど。」
メルが小さく頷く。
「あぁ。」
「今日も。」
「働きたくねぇ……って言ってた。」
ローズは思わず笑った。
「ふふっ。」
「そういうところは、良い意味で口だけなんだよね。」
「でも。」
「世界に三百人しかいないプロハンターさんの下で働くなんて、普通はできないことだから。」
「レイさんも、十分すごい人なんだよ。」
「……ふぅん。」
メルは短く返事をする。
昼間のことを思い出す。
『罪状は窃盗罪。被害者はこの人。』
あの真剣な顔。
『働きたくねぇ……。』
あの面倒くさそうな顔。
『依頼が来るから?』
あの適当な返事。
(……変。)
(世界に三百人しかいない。)
(そんな人の下で働いてるから。)
(変なんだ。)
メルは一人で納得し、小さく頷いた。




