↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAVeLESS  作者: 神矢
PR
15/87

黒猫と変な大人

 庭を飛び出したレイは、そのまま路地へ駆ける。


 壁を蹴り、屋根へ飛び乗る。


 黒い猫耳がぴくりと動いた。


 メルが振り返る。


 その瞬間。


 レイはひらりと屋根を飛び越え、そのままメルの目の前へ降り立った。


「よぉ。」


 メルは目を丸くする。


「……!」


 レイは笑う。


「足速いな。」


 レイが言い終えるより早く。


 メルは反射的に身を翻し、全力で駆け出した。


 さっきまでとは比べものにならない速さだった。


「お。」


 レイは思わず笑う。


「本気か。」


 そのまま追いかける。



 屋根から屋根へ。


 塀を蹴り。


 細い路地を抜け。


 煙突を飛び越え。


 メルは一度も立ち止まらない。


 ただ逃げる。


 レイも無理に止めようとはしなかった。


 一定の距離を保ちながら、ただ後ろを追いかける。



 一時間後。


 街外れの小さな公園。


 メルは肩で息をしながら、ベンチへ腰を下ろした。


「はぁ……。」


「はぁ……。」


 耳も尻尾もぐったりと垂れている。


 そこへ。


 レイがゆっくり歩いてくる。


 息一つ乱れていない。


「よ。」


 メルは悔しそうに睨んだ。


「……なんで。」


「なんでそんなに速いの。」


 レイは肩をすくめる。


「あぁ。」


「俺最強だから。」


「……変なの。」


 メルは立ち上がる。


「じゃあ私はこれで。」


 踵を返す。


 後ろから足音。


 振り返る。


「……。」


「なんでついてくるの。」


 レイは空を見上げた。


「腹減ったな。」


「一緒に帰ろうぜ。」


「……え?」


 レイはそのまま歩き出す。


 メルは立ち尽くしたまま、その背中を見つめていた。


「帰らないの?」


 レイは振り返りもせず手だけ振りながら聞く。


「帰る。」


「なら昼飯食いに行こうぜ。」


「……。」


 メルは少しだけ首を傾げる。


「……変なの。」


 小さく呟くと、数歩遅れて歩き出した。




 孤児院の門が見えてくる。


 ローズは入口の前を行ったり来たりしながら、何度も外へ目を向けていた。


「あっ……!」


 レイの姿を見つけ、ほっと胸を撫で下ろす。


「レイさん!」


「どこへ行ってたんですか!」


 レイは苦笑する。


「ちょっと鬼ごっこ。」


「……鬼ごっこ?」


 その時だった。


 レイの少し後ろから、小さな足音が聞こえる。


 少し息を切らしたメルが、ゆっくりと歩いてきて、レイの隣で立ち止まった。


「ただいま。」


 ローズは目を丸くした。


「メルちゃん……。」


 思わずレイを見る。


 またメルを見る。


(え……。)


 今まで何人もの人が追いかけた。


 気付けなかった人もいた。


 気付いても、少し追いかけて。


『逃げられちゃいました。』


 そう苦笑して戻ってくる人ばかりだった。


 それなのに。


 初めて来たばかりのレイは。


 メルを連れて帰ってきた。


 ローズにとって今日は、初めてのことばかりだった。





 気付けば、夕日が孤児院の庭を赤く染めていた。


「もう帰るのー?」


「えー!」


「もっと遊ぼうよ!」


 子供たちが一斉にレイへ駆け寄る。


 レイは苦笑した。


「また今度な。」


「えぇー……。」


「約束だぞ!」


「あぁ。」


「また来る。」


 その一言だけで、子供たちは嬉しそうに笑った。



 ローズは深く頭を下げる。


「今日は本当にありがとうございました。」


「助かりました。」


「いえ。」


 レイは軽く手を振る。


「じゃあ帰ります。」


「あの。」


 ローズは少しだけ言いづらそうに口を開く。


「もしよろしければ……。」


「ギルドの派遣なんですが。」


「これからも、レイさんにお願いすることはできませんか?」


「他の方が悪いというわけではないんです。」


「でも……。」


 少しだけ庭へ目を向ける。


 まだ子供たちは、名残惜しそうに門の前へ集まっている。


「今日、初めてあの子たちが、あんなに楽しそうに笑ってくれました。」


「……。」


「メルちゃんまで。」


 レイも振り返る。


 少し離れた場所で、猫耳をぴくりと動かしながらこちらを見ているメル。


「あぁ。」


「固定の方が俺も助かる。」


「毎回違う孤児院行くの、めんどくさいし。」


 あまりにもあっさりした返事に。


 ローズは思わず小さく笑ってしまった。


「ふふっ。」


「ありがとうございます。」


「では、ギルドへお願いしてみます。」



 黒猫の耳を揺らしながら、メルはその様子を黙って見つめていた。


 レイがふと視線を向ける。


 目が合う。


 メルはすぐにぷいっと顔を逸らした。


 レイは小さく笑い、軽く手を振る。


「またな。」


 メルは何も答えない。


 それでも。


 レイが門を出て見えなくなるまで、その場を動かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。