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LAVeLESS  作者: 神矢
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140/146

研究者と酒と音楽と

⸻


 しばらくして、女将が座敷へやってきた。


「皆様、そろそろお時間ですが、いかがなさいますか?」


「今日はこの辺で。」


 レイは女性たちを見た。


「この後、お散歩に行ける子は来ていいよ。」


 四人が顔を見合わせる。


 女将は笑って頷いた。


「それでは、お支度をしてまいりますね。」


 レイがお会計を頼もうとすると、サリアが先に声をかけた。


「ここは私が払おう。」


「え?」


「食事も美味しかったし、楽しかったからな。」


 メロリアがサリアを見る。


「サリアが、研究以外で楽しんでいるところなんて初めて見ました。」


「料理も酒もよかった。」


 サリアは当然のように言った。


 レイが尋ねる。


「いいのか?」


「うむ。気にしなくていい。」


「私は年上だ。」


「それを言ったら、私が一番年上だろう。」


 バルテシアが口を挟んだ。


「ここは私が払う。」


 サリアは少し考えてから頷く。


「では、次の店を頼む。」


「……そう来るか。」


「一番年上なんだろう?」


 メロリアが笑い、レイもつられて笑った。


⸻


 二軒目は、地下街でもひときわ大きなバーだった。


 奥にステージがあり、二階には大人数で使える貸切のフロアがある。


 レイたちは女の子たちと一緒に二階へ上がった。


 席からは、ステージ全体がよく見える。


 階下の客席はすでに埋まっていた。


「ここにはよく来るのか?」


 サリアが尋ねる。


「ああ。ショーが面白いんだよ。」


 レイが答えたところで、店内の灯りが落ちた。


 ステージの中央に光が集まる。


 一人の少女が姿を見せると、客席から歓声が上がった。


 音楽が始まる。


 少女は軽やかにステージを駆け、曲に合わせて踊った。


 大きく動いても、指先まで綺麗に揃っている。


 メロリアは手すりに少し身を寄せた。


「すごいですね。」


「うむ。」


 サリアもステージから目を離さない。


「踊りが上手い。」


「歌もこれからですよ。」


 レイが言うと、二人はますます楽しそうに舞台を見た。


 曲が進み、少女が歌い始める。


 客席の歓声が少し静まり、今度はその声に聞き入った。


「……あの子は誰ですか?」


 メロリアが尋ねる。


「ああ。ラクエンで一番人気のアイドル。」


 レイはステージを見た。


「ニーナだな。」


 曲が終わると、階下から大きな拍手が起きた。


 メロリアとサリアも、並んで手を叩いた。


 レイたちと一緒に来た女性も、拍手を送っていた。


「いつ聞いても素敵な声ですよね〜。」


「今日は特に調子がいいかも。」


 バルテシアも立ち上がり、惜しみなく拍手する。


「感動した。素晴らしいパフォーマンスだ!」


 バルテシアは立ち上がって拍手した。


「彼女の音盤を買うぞ!」


 バルテシアが言うと、レイの隣にいた女性が笑った。


「後で販売会があると思いますので、その時に。」


「サインももらえますよ。」


「本当か!」


 バルテシアは再びステージを見た。


「私も買おう。」


 サリアが言う。


「私も欲しいです。」


 メロリアも頷いた。


「今日は、知らない世界をたくさん教えてもらえて、とてもよかったです。」


 メロリアは隣のサリアを見る。


「サリアも楽しんでいますし。また来たいですね。」


「悪くはなかったが、私はもう来ないぞ。」


「大丈夫。来るから。」


 レイが当然のように言った。


「来ないと言っただろう!」


「来たら来たで楽しむだろ。」


「私は外の空気が毒なんだ!」


「今日も平気だったじゃん。」


 サリアはしばらくレイを睨んだ。


「……諦めの境地だな。」


「俺はお前と遊びたいんだから、仕方ないだろ。」


 その場にいた人たちが、一瞬だけ言葉を止めた。


 サリアが少し目を見開く。


「友達だからな。」


「……うむ。」


 サリアは照れくさそうに口元を緩め、ステージへ目を向けた。


 メロリアは二人を見て、嬉しそうに笑った。


⸻


 販売会で音盤を買い、バルテシアはニーナからサインももらった。


 店を出ると、レイは一緒に来た女性たちをムラサキまで送り届けた。


「今日はありがとうございました。」


 以前レイと散歩をした女性が頭を下げる。


「こちらこそ。またな。」


「はい。お待ちしています。」


 ほかの三人も、それぞれメロリアたちに挨拶をして店へ戻っていった。


 四人だけになり、バルテシアが手にした音盤を見下ろす。


「まさか、こんなものを買って帰るとはな。」


「楽しそうでしたよ。」


 メロリアが笑う。


「君もな。」


「はい。とても。」


 サリアも、買った音盤を持っている。


「サリアは、家に帰ったらすぐ聞く?」


 レイが尋ねた。


「いや。今日は十分に聞いた。」


 サリアは音盤へ目を落とす。


「明日、研究の合間に聞く。」


「そっか。」


 メロリアは、二人のやり取りを聞きながら夜の地下街を見回した。


 知らない場所で食事をして、音楽を聞いた。


 サリアとも、久しぶりに研究以外の時間を過ごせた。


「また来ましょうね。」


 メロリアが言うと、レイが頷く。


「ええ。」


 サリアは返事をしなかった。


 けれど、音盤を手にしたまま、少し楽しそうに歩いていた。

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