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LAVeLESS  作者: 神矢
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研究者の息抜き

 やがて、着飾った女性が四人、座敷へ入ってきた。


 それぞれが丁寧に挨拶をして、四人のそばに座る。


 レイの隣に来た女性が、顔を見て笑った。


「レイさん。お久しぶりです。」


「ああ。久しぶり。」


「以前のお散歩、とても楽しかったです。」


「俺も楽しかったよ。」


「レイさんとのお散歩は、時間が関係ないですからね。」


 バルテシアが顔を上げた。


「……お散歩とは、なんだ?」


「さっき話した、気に入った子と出かけることですよ。」


 レイが答える。


「普通は二時間で店に戻ると決まってるみたいです。」


「君の場合は違うのか?」


「そうみたいですね。」


「そうみたいで済ますのか……。」


 バルテシアは少し呆れる。


「はい。リュウ様のご友人ですから。」


 女性が笑った。


「お泊まりの場合は、時間は決まっていませんけど。」


「普通はお店が終わった後です。」


「レイさんがお散歩に誘ってくださると、その時点でお店でのお仕事は終わりになるんです。」


「一緒にお出かけしている間も、お仕事扱いですしね。」


 向かいの女性が目を輝かせた。


「本当に時間を気にせずお出かけできるんですね。」


「うん。私の時もそうだったよ。」


 レイの隣の女性が頷く。


「妹さんが待っているからって、早めに帰られましたけど。」


「帰りはお店まで送ってくださいました。」


「……噂の通りなんですね。」


 別の女性もレイを見る。


「女の子たちの間で、よく話に出るんですよ。」


「まあ、あいつの友人なら話題にもなるか。」


 レイは納得して頷いた。


 女性たちは顔を見合わせ、少し笑った。


 話を聞いていたメロリアが尋ねた。


「年齢も近いですもんね。それで仲良くなったんですか?」


「いや、仲良くはないですよ。」


「え?」


 レイの隣の女性が笑った。


「私、レイさんとリュウ様の挨拶を見たことがありますよ。」


 向かいの女性が身を乗り出す。


「えっ。あの噂の挨拶ですか!?」


「本当だったんですか?」


「ええ。少し違う結果でしたけど。」


「……どんな挨拶なんだ?」


 バルテシアが尋ねる。


 女性は楽しそうに答えた。


「顔を合わせたら、殴り合うみたいです。」


「……殴り合い?」


 メロリアがレイを見た。


「レイ先生が、ですか?」


 バルテシアも驚いている。


「君が喧嘩をするところなど、想像できん。」


「私たちも最初は信じられませんでした。」


 女性が笑った。


「レイさん、ここでは穏やかにお話しされますから。」


「リュウ様も、お客様には丁寧ですし。」


 メロリアが首を傾げる。


「でも、友人なんですよね?」


「友人ですよ。」


 レイは酒を一口飲んだ。


「仲は悪いですけど。」


「……よく分からんな。」


 バルテシアが呟く。


 その間、サリアは運ばれてきた料理を味わい、酒を飲んでいた。


 話には加わらず、次の皿が来るのを楽しそうに待っている。


「私が見た時も、レイさんがリュウ様に近づいていって。」


 女性は楽しそうに身を乗り出した。


「今にも喧嘩になりそうだったんです。あの挨拶が見られると思っていたら――」


「リュウ様の護衛の一人が、レイさんに突っかかっていったんです。」


「それで、レイさんを殴り飛ばして!」


「……レイ先生を?」


 メロリアが目を丸くする。


「人ってあんなに飛ぶんだ……ってくらい飛んでいて、びっくりしました。」


 バルテシアもレイを見た。


「ああ……あの時か。」


 レイが笑った。


「新人の護衛が、自分の仕事を真っ当しようとしてたんですよ。」


「リュウも戸惑ってて、あれは面白かったな。」


「でも!」


 女性がレイの方を向く。


「あんなに吹っ飛んだのに、レイさんは無傷だったんですよ!」


「服にも、汚れ一つついていませんでした。」


「ああ。それは納得です。」


 メロリアが頷く。


「うむ。こいつなら普通だな。」


 バルテシアも、もう驚いていなかった。


 サリアは料理を食べながら、何度もうんうんと頷いた。


「新人の方は、レイさんがリュウ様のご友人だと知らなかったんです。」


 女性は嬉しそうに続けた。


「だからレイさん、護衛としての花を持たせたんですよ!」


「素敵ですよね。」


 レイは少し笑った。


「夢を奪いたくなかったんだよ。」


「夢を奪いたくなかったんだよ。」


「それにレイさん、あの時こうも言ってましたよね。」


 女性が楽しそうに笑う。


「護衛に勝ったなんて噂が広まったら、地下街をまともに歩けなくなるって。」


「飯を食いに来るたび絡まれるの、面倒だし。」


 レイが苦笑すると、メロリアが尋ねた。


「リュウ・リスタードとの喧嘩はいいんですね。」


「ああ。殴り合いって言っても、お互い一発ずつ殴る程度ですよ。」


 隣の女性が首を振る。


「いや……リュウ様に殴られて、その後普通に一緒に飲める人なんていませんから。」


 バルテシアがレイを見た。


「君は研究や学問、魔法技術だけでなく……純粋な戦闘もこなすのか。」


「いや、俺の専門は戦闘ですよ。」


「学問は趣味です。」


 バルテシアとメロリアが、揃ってレイを見つめた。


 バルテシアは、ローレン理論改式を完成させるまでの研究を思い出していた。


 レイは自分が行き詰まったところで何度も発想を出し、計算にも付き合った。


 対等な共同研究者だと、今でも思っている。


 メロリアも、レイが初めて彗星の軌道図を見た時のことを思い出す。


 話を理解したばかりか、彼女が考えていなかった観測の方法まで示した。


 そしてサリアの魔導具研究にも、時々手を貸しているという。


 それだけのことをしておいて、趣味。


「……趣味。」


 メロリアが呟く。


「そうですけど?」


 レイは不思議そうに二人を見る。


 サリアは気にした様子もなく、料理を口に運んでいた。


 向かいに座った女性が、三人に尋ねる。


「そういえば、皆さんはどんなお仕事をされているんですか?」


 女性は、レイと一緒に来た三人を見た。


「王立魔導学園で、魔法理論学を教えている。」


 バルテシアが答える。


「えっ。王立魔導学園の先生ですか?」


「うむ。」


「すごい……。」


 隣の女性も姿勢を正した。


「私も、同じ学園で天文学を教えています。」


 メロリアが言う。


「お二人とも、学園の先生なんですね。」


「はい。」


 女性たちはメロリアにも興味深そうに質問を始めた。


 サリアが料理を一口食べてから、口を開く。


「私は魔導具の研究と開発をしている。」


 隣に座っていた女性が、箸を置く。


「……もしかして、サリア様ですか?」


「そうだが。」


「本当に……?」


 女性は思わず、ほかの三人と顔を見合わせた。


「私の実家、王都から離れた町にあるんです。」


「上下水道が通った時、母が何度もサリア様のお名前を言っていました。」


 サリアが顔を上げた。


「そうなのか。」


「はい。家の中で水を使えるようになって、洗濯もずっと楽になって。」


「冷蔵庫が来た時も、家族みんなで中を覗きました。」


 女性は少し照れたように笑う。


「王都に来てからは当たり前みたいに使っていますけど、実家に初めて届いた日は忘れられません。」


 ほかの女性たちも頷いた。


「うちも、サリア様の魔導具を使ってます。」


「暑い時期は空調がないと困りますし。」


 サリアは一人ずつ顔を見た。


「……ちゃんと、使えているんだな。」


「はい。毎日。」


「気に入ってくれてるならよかった。」


 サリアは小さく頷き、料理へ視線を戻した。


 女性たちはまだ嬉しそうにサリアを見ている。


 少しして、その一人がレイに尋ねた。


「レイさんは、学園の先生方ともお知り合いなんですね。」


「俺も土曜だけ、魔法戦闘術の講師をしてるんだよ。」


「レイさんも先生だったんですか?」


「ああ。戦闘は専門だからな。」


「いや、君は私の魔法理論学の講義も代行しただろう。」


 バルテシアが口を挟む。


「あれは一回だけですよ。」


「一回でも、立派に務めた。」


「レイ先生なら、天文学の代行だってできますよ。」


 メロリアも言う。


「それは専門外ですって。」


 バルテシアとメロリアが、また揃ってレイを見た。


「すごい!」


 レイの隣にいた女性が笑った。


「レイさんって、なんでもできるんですね。」


「いや、まあ何でも屋だからな。」


「それは広義すぎませんか……?」


 レイは酒を一口飲む。


「だって魔法戦闘術の講師も臨時だし。」


「え?」


 メロリアが顔を上げた。


「レイ先生が臨時?」


「はい。ずっと臨時です。」


「正規だと思ってました。」


「確かに、もう半年以上いますしね。」


 メロリアはバルテシアを見た。


「バルテシア先生。正規にしないんですか?」


「……いや、その。」


「歯切れが悪いですね。」


「ここまでやってくれてるんですから、正規にしてあげてくださいよ。」


 メロリアはあっさりと言った。


「はい。もう次から正規講師で。」


「君は本当に強引だな。」


 バルテシアが眉を寄せる。


「私としても、レイが希望するならそうしていいと思っている。」


「ああ。そういうことですか。」


 メロリアはレイに向き直った。


「レイ先生も、正規がいいですよね?」


「いや、俺は今のままでいいです。」


「学園としても、いつでも切れる方がいいでしょう。」


「切る理由がないだろう。」


「え?」


「ん?」


 レイとバルテシアが顔を見合わせた。


「そうですよ。」


 メロリアも頷く。


「レイ先生が切られることなんて、ないですよ。」


「まあ、いいじゃないですか。」


 レイは二人から目をそらした。


「今、話すことじゃないでしょう。」


 バルテシアを見る。


「先生も、あまりこの話はしない方がいいのでは?」


「ん? 私は特に構わないが。」


 バルテシアは一拍置いた。


「君が言うなら、そうしよう。」

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