秋祭りの花火
屋台の並びを進んでいると、運営の係の者と話しているルコがいた。
話を終えたルコが、レイたちに気づいて手を上げる。
「お、レイ。」
「おう。」
「アイリスちゃんとマリーちゃんも来てたのか。」
「こんばんは、ルコ。」
「こんばんは、ルコさん!」
「二人とも、祭りは楽しんでるか?」
「うん。」
「屋台、いっぱい回りました!」
「そりゃよかった。」
レイは係の者が去っていくのを見た。
「お前、なんでもやるよな。今度は祭りの運営か。」
「運営も商売のうちだからな。」
「花火を見る場所を探してるんだ。」
「それなら、運営の荷物置き場に少し空きがあるぞ。」
「そこからならよく見える。」
「入っていいのか?」
「俺が案内するんだ。」
「荷物の邪魔にならなきゃ問題ねぇよ。」
ルコが先に立って歩き出した。
「そういや、リュウの近況は聞いたか?」
「いや、何も聞いてないけど、他国へ遠征に行くって言ってたよな。」
「西のセレノア海域だ。」
「そこで暴れ回ってた海賊をぶっ倒したらしい。」
「へえ。」
「そのあと、倒した海賊たちと一緒にクラーケンまで退治したそうだ。」
マリーが目を丸くする。
「クラーケンまで……?」
「楽しそうだな。」
ルコは呆れた顔でレイを見た。
「……まあ、いい。」
「それだけじゃねぇんだよ。」
ルコは肩をすくめた。
「あの海域には、島国が組んだ連合国家がある。」
「リュウはそいつを丸ごと、リスタードの傘下に入れちまった。」
「マジで?」
「国でも作る気か、あいつ。」
「住民合わせて二十万人だからな。」
「あの海域は、もうリスタードのものみたいなもんだ。」
「あいつは、しばらく帰ってこれねぇだろうが。」
「これから、とんでもねぇ金が動く。」
「その辺は興味ねぇ。」
「お前はほんとに……。」
「まあ、何かあったら手伝うよ。」
「おう。助かる。」
話しているうちに、ルコが足を止めた。
メインステージの裏手にある、荷物置き場だった。
木箱や道具が片側に寄せられ、その脇に三人が並んで立てるだけの空きがある。
「ここだ。」
マリーが空を見上げた。
「ここなら見えそう!」
アイリスもその隣に並ぶ。
「じゃあ、俺は仕事に戻る。」
「ああ。ありがとな。」
「楽しんでけよ。」
ルコは三人に手を振り、屋台の方へ戻っていった。
「アイリスちゃん、ここすごくいい場所!」
「うん。すごく楽しみ。」
アイリスも、花火が上がるのを待つ空を見上げた。
しばらくして、夜空に一筋の光が昇った。
高く昇りきったところで、赤い花火が開く。
遅れて届いた音が、胸の奥まで響いた。
「わあ!」
マリーが声を上げた。
アイリスは目を見開いたまま、空を見上げている。
赤い光が消えると、屋台の屋根も人々の顔も、また夜の暗さに戻った。
その暗がりから、今度は青い花火が開く。
細かな光が尾を引いて落ちていく間に、もう一つ、少し離れた空へ金色の花火が上がった。
「アイリスちゃん、今の見た?」
「うん。」
「すごく綺麗!」
「……うん。綺麗。」
マリーは花火が上がるたびに声を上げた。
アイリスも、次はどこに光が昇るのかと、夜空のあちこちへ目を向ける。
風が煙を流していく。
その向こうでまた花火が開き、広場から歓声が聞こえた。
最後にはいくつもの花火が続けて上がった。
赤、青、金。
重なった光が空を明るく照らし、大きな音が続く。
やがて最後の光が、細い尾を引きながら消えていった。
広場に拍手が広がる。
アイリスはしばらく、煙の残る空を見上げていた。
「アイリスちゃん、来年も来ようね。」
「うん。」
「絶対に来る。」
アイリスはレイの方を向いた。
「レイも、また来ようね。」
「ああ、約束な。」
「うん。」
マリーとアイリスは、帰り道でもさっきの花火の話をしていた。
レイは二人の隣を歩きながら、ときどき空を見上げる。
花火はもう終わっていたが、祭りの灯りはまだ通りに残っていた。




