魔導軍の女大将
アイリスとマリーに追いついたレイは、広場の端にヒナを見つけた。
軍服姿の部下が数人、その周りに立っている。
ヒナは隣の女性と話しながら、時折、広場の人の流れに目を向けていた。
「あ、ヒナさん!」
マリーが声をかける。
アイリスも顔を上げ、小さく手を振った。
「ヒナ。」
「あら、アイリス。マリーも一緒なのね。」
「こんにちは!」
「こんにちは。二人とも、祭りは楽しんでる?」
「うん。」
「はい! まだ見たい屋台がたくさんあるんです。」
ヒナは二人に笑いかけた。
そのすぐ後ろにレイが立っている。
ヒナはそちらを見なかった。
「遊びに来てはしゃいでると思ったら、今日はお仕事なんですね。」
「あなたこそ、心の中では踊り狂ってるでしょうけど冷静ですこと。」
「……俺のことは見えてたんだな。」
ヒナは答えず、隣の女性へ向き直った。
「あ、ベロニアさん。」
「彼が以前話していた、何でも屋をしているレイです。」
「こちらはレイの妹のアイリスと、その友人であるトーリア公爵家のマリーです。」
それから、三人に女性を紹介する。
「この人は私の上司の、ベロニア・アルヴェスト大将。」
レイは姿勢を正し、ベロニアに一礼した。
「初めまして。レイと申します。」
「いつもヒナにはお世話になっております。」
ベロニアはその立ち居振る舞いを見て、軽く眉を上げた。
「ほう。」
それから、レイとヒナを交互に見る。
「こいつがお前の恋人か?」
ヒナの動きが止まった。
一拍遅れて、ベロニアの方を向く。
「ち、違います!」
「だが、カップルイベントには一緒に出たんだろう?」
「それは……!」
ヒナはレイをちらりと見た。
レイは澄ました顔で、何も言わない。
「あれは仕方なくです!」
「こんなだらしない奴と付き合うわけないですよ!」
言い切ってから、ヒナはベロニアの楽しそうな顔に気づいた。
「では、私がもらってもいいのか?」
「こんな奴、ベロニアさんには釣り合わないですよ。」
「ほう。顔はいいと思うが?」
「顔だけです。」
「他に良いところは全くないと?」
「……そんなことはないですけど。」
「それならいいじゃないか。」
ベロニアは楽しそうに笑った。
「だが、私は自分より弱い男は無理だ。」
「なかなか強そうだがな。」
そばにいた部下の一人が声を上げる。
「ベロニアさんに勝てる奴なんて、ヒナさんのお父上くらいでしょう!」
「間違いありません。」
レイも頷いた。
「私なんて、足元にも及ばないですよ。」
「ヒナはどう思うんだ?」
「……分かりません。」
「なんだと? 正直に言え。」
「互角でもおかしくありません。」
レイが面倒そうな顔でヒナを見る。
ベロニアは、ますます楽しそうに笑った。
「ふむ。とても興味が湧いた。」
「そのうち、私と立ち合おう。」
「嫌です。」
「命令だ。」
「私はあなたの部下ではありません。」
ベロニアが声を上げて笑った。
「私にはっきりそう言う奴も珍しい。」
「ますます気に入った。また近いうちにな。」
「嫌です。」
「ヒナの力量分析は、私より上だぞ。」
「いや、こいつは私をいじめたいだけですよ。」
「何でも屋なんだろ? 依頼するから待っててくれ。」
ヒナが横から口を挟んだ。
「私も見たいわ。」
「ベロニアさん。妹のアイリスに頼めば通りますよ。」
「おい。」
「なるほど。良いことを聞いた。」
レイはさらに面倒そうな顔でヒナを見る。
「では、我々はそろそろ失礼する。」
「あぁ……まあ、はい。また。」
ベロニアは楽しそうに笑い、部下たちを連れて歩いていった。
レイはその背中を見送り、ため息をつく。
するとマリーが、レイの前に回り込んだ。
「レイさんが戦ってるところ、見たことないから見たい!」
「ねえ、アイリスちゃん。強いんでしょう?」
「うん。世界一強い。」
アイリスは迷わず答えた。
「そうだよね。十代最強になったんだもんね。」
マリーはレイを見上げる。
「ねえ、レイさん。私も観に行くね!」
「……はい。」
「レイ。」
「ん?」
アイリスが真面目な顔をして呼ぶ。
「そろそろ花火の時間。」
「ああ、花火か。」
「初めて見る。」
「それは楽しみだな。いい場所確保しようぜ。」
「うん。」
アイリスが笑顔で頷くと、マリーも二人のそばに並んだ。
「早く行こう! いい場所が埋まっちゃうよ!」
「ああ。」
レイは二人と一緒に、花火がよく見える場所を探しに歩き出した。




