↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAVeLESS  作者: 神矢
PR
120/146

温泉旅行

 いつもの昼下がり。


 王都の街を二つの影が駆け抜ける。


 メルが街角を曲がる。


 少し後ろを、レイが追っていた。


 路地を抜けても、通りを駆けても、その距離は変わらない。


 メルが速くなれば、レイも同じだけ速くなる。


 そうして街を一周し、二人はいつもの公園へ戻ってきた。


 メルはベンチに座って、息を整える。


 レイも隣に腰を下ろした。


 汗ひとつかいていない。


「最近、また速くなったよな。」


 メルは少しだけ視線をそらした。


「……黒髪が、魔力の使い方教えてくれたから……。」


「教えたからって、すぐに使いこなせるもんじゃねぇよ。」


「……でも、距離は縮まらない。」


「そこはまだ譲れねぇな。」


 レイが笑うと、メルも小さく笑った。


 しばらく並んで休んでから、レイはベンチの背にもたれた。


「あー……最近、温泉行ってねぇなー。」


「……温泉、行ったことない。」


「そうなのか。王都から少し離れた街に、いい温泉があるんだよ。」


「……へえ。」


 メルが興味を持った様子で顔を上げる。


 レイはその顔を見て、あっさり言った。


「じゃあ、行くか。」


「……え?」


「温泉。」


「……お母さんに聞かないと。」


「別に大丈夫だろ。俺が話しとくよ。」


「……本当に?」


「ああ。」


 メルは少しの間、レイの顔を見ていた。


「……じゃあ、行きたい。」


「決まりだな。」


 メルは俯いて、小さく笑った。


⸻


 公園を出た二人は、その足で孤児院へ向かった。


 レイが温泉旅行の話をすると、ローズ院長は頷いた。


「行くのはいいですよ。」


「よかったな、メル。」


「……うん。」


「ただ、アイリスちゃんもまだ小さいですし、引率の女性がいてくれたらいいのですが……。」


「女性か……。」


 レイが考えている横で、メルが顔を上げた。


「……いる。」


「ん?」


 メルは答えず、部屋を飛び出した。


「おい、メル。」


 レイも後を追う。


 メルは街を駆け抜け、軍本部へ向かった。


 中へ入ると、まっすぐ受付へ行く。


「ヒナ……呼んでください……。」


 受付の職員が顔を上げた。


「ヒナさんですか?」


 メルが頷く。


 そこへレイも入ってきた。


「なるほど。ヒナか。」


 メルは振り返り、もう一度頷いた。


⸻


 受付から連絡を受けて、ヒナがやってきた。


「メル? レイも。どうしたの?」


 メルはヒナを見上げた。


「……温泉に行くの。」


「温泉?」


「……一緒に来てほしい。」


 ヒナがレイを見る。


「ローズ院長に、女性の引率がいてほしいと言われてな。」


「アイリスも行くの?」


「ああ。」


 ヒナはメルに向き直り、笑った。


「もちろん。私でよければ、一緒に行くわ。」


「……本当?」


「うん。楽しみだね。」


 メルが嬉しそうに頷く。


 レイは二人を見て言った。


「せっかくだし、ルコも誘うか。」


 その後、ルコにも声をかけた。


 五人で、温泉旅行に行くことになった。


⸻


 温泉街へ向かう列車が、王都を離れた。


 アイリスとメルは、並んで窓の外を眺めていた。


 メルが列車に乗るのも、王都の外へ出るのも初めてだった。


 表情はいつもとあまり変わらない。


 けれど景色が変わるたび、目で追っている。


「メル、あれ見て。」


 アイリスが遠くを指さす。


 メルは少し身を乗り出した。


「……見えた。」


 アイリスはそんなメルを見て、嬉しそうに笑う。


 そして、レイが最初にしてくれた約束を思い出した。


『外に出たら、いろんなとこ連れてってやるよ。』


 あの日から、レイは本当にいろんな場所へ連れて行ってくれた。


 今日もこうして、一緒に列車に乗っている。


 解放されてからは、初めての旅だった。


 向かいの席で、ルコが二人を見て笑った。


「今回はレイの魔導大会優勝と、アイリスちゃんの奴隷解放記念だな!」


「私は負けたけどね。」


 ヒナが言うと、レイは困ったように笑った。


「まだ言うのかよ。」


「記念旅行の理由を確認しただけよ。」


「その顔、納得してねぇだろ。」


「どうかしら。」


 ルコが声を上げて笑う。


「だったら帰ってきてから、また勝負すればいいじゃないか。」


「旅行中くらい勝負の話はやめようぜ。」


「今、最初に持ち出したのはルコよ。」


「そうだったな!」


 アイリスも笑って、また窓の外を向いた。


 隣では、メルがまだ景色を追っている。


 列車が進むたび、知らない場所が次々と現れる。


 メルは一度も窓から目を離さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。