ドンヨビ商会の実力
最初の仕事。
ジャルムから説明を聞きながら、俺は黙って頷いていた。
十七歳の令嬢。
近々開かれる貴族のパーティーへ、その恋人として同行する。
目的は、会場に来る一人の貴族。
令嬢との関係を利用して自然に相手へ近づき、会話の中から必要な情報を聞き出す。
(なるほど。)
潜入。
身分の偽装。
対象への接触。
情報収集。
別に難しくはない。
貴族のパーティーへ潜り込む仕事なら、今までにも何度かやっている。
十七歳の令嬢の恋人役なら年齢的にも不自然ではないし、必要なら事前に相手の情報を覚えて、それらしく振る舞えばいい。
ただ。
(最初の仕事がこれか。)
少し考える。
できる。
だが。
今はまだ、できないことにしておいた方が面白い。
「あの……。」
「はい。」
「すみません。」
申し訳なさそうに頭を下げる。
「俺には……ちょっと。」
「…………。」
「難しいです。」
「分かりました。」
「…………え?」
「では、こちらで別の人材を探します。」
「…………。」
俺は少し戸惑ったようにジャルムを見る。
「いいんですか?」
「?」
ジャルムが僅かに首を傾げる。
「契約時にお伝えしたはずです。」
「…………。」
「できる範囲で構いません。」
「あ……。」
「無理に受けていただく必要はありません。」
「…………。」
「では。」
「あ、はい……。」
ジャルムが席を立つ。
俺はその背中を見送りながら、表情は変えなかった。
(さて。)
これでいい。
この仕事なら、俺が断れば当然、別の人材を探す。
問題は。
ドンヨビ商会が、どこへ行くか。
この街にはルコがいる。
若く見えるが、十代ではない。
商人であり、プロハンターでもある。
そして、ドンヨビ商会と商売上の繋がりを持っている。
俺が知りたいのは、その先。
ルコ本人は、おそらく嫌がる。
だが、ルコの近くには、この手の仕事を得意とする何でも屋がいる。
直接依頼を持っていっても、あいつはドンヨビ商会からの仕事を受けないだろう。
だが。
ルコから話が行けば、別だ。
(どこまで辿り着けるかな。)
それと。
もう一つ。
ここまで来ても俺は、見習いのフリを続けている。
最初の仕事すら、難しいと言って断った。
それを見て。
本当にただの見習いだったのか。
そう判断して俺を切るのなら。
それでもいい。
その程度なら。
ドンヨビ商会を利用する意味もない。
逆に。
まだ俺が見習いを演じていると考えた上で。
自分たちで別の道を探せるなら。
(しばらく使えるかもしれないな。)
まずは。
見てみよう。
◇
依頼は、完璧に遂行された。
必要としていた情報は全て揃っている。
余計な騒ぎもない。
対象にも、こちらの意図は気づかれていない。
そして。
今回の仕事をきっかけに。
ドンヨビ商会は、一人の優秀な何でも屋との繋がりまで手に入れた。
「…………。」
ジャルムは報告書を見つめていた。
始まりは。
アノンに依頼を断られたことだった。
だから別の人材を探した。
ドンヨビ商会と取引のあるルコへ話を持っていった。
ルコ本人には断られた。
だが。
代わりに、一人の何でも屋を紹介された。
結果。
依頼は完璧に終わった。
それだけではない。
今後も条件次第では、ルコを介して仕事を頼める。
(アノンに断られたおかげ……。)
そこまで考えて。
ジャルムの思考が止まった。
「…………。」
いや。
まさか。
アノンなら。
ルコとドンヨビ商会に取引があることくらい、当然把握しているだろう。
では。
もし。
(ルコと、あの何でも屋の繋がりまで把握していたとしたら?)
「…………。」
自分が断れば、こちらは代わりを探す。
そして、ルコへ相談する可能性がある。
ルコ本人が断ったとしても。
その先に。
今回の仕事に適した何でも屋がいる。
結果として。
ドンヨビ商会は、今まで持っていなかった新しい繋がりを手に入れた。
(…………。)
アノンに断られたから。
手に入った繋がり。
いや。
(まさか……ここまで?)
ジャルムは。
しばらく報告書を見つめていた。
◇
(辿り着いたか。)
報告を聞いて、それだけを思う。
ルコ本人ではない。
その先。
あの何でも屋まで。
そして、依頼も完璧に終わっている。
(俺を切ることもせず、繋がりも持ったか。)
悪くない。
少なくとも。
最初の依頼を断った程度で俺への評価をひっくり返すこともなく。
必要な人材を、自分たちで探した。
しかも。
直接では繋がれなかった人間にまで、別の経路から辿り着いた。
(やはり大手。)
俺は小さく息を吐く。
(悪くはないな。)
なら。
もうしばらく。
利用させてもらおう。




