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LAVeLESS  作者: 神矢
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王家の影部隊

 その日の夕方。


「……終わった?」


「はい。」


 報告を受けたゲルムは、思わず聞き返した。


 依頼を渡したのは今日だ。


 それも、王城への潜入。


「間違いないのか?」


「はい。目的のものは王城内に存在するそうです。」


「…………。」


 ゲルムは黙り込んだ。


 早すぎる。


 準備期間すら、ほとんどなかったはずだ。


 普通なら、まず夜間の侵入を考える。


 人目が減り、闇に紛れやすい。


 だが、王城では逆だった。


 夜間は警備がさらに厳しくなる。


 何より厄介なのが、《センス》を扱える者の存在。


 魔力を広範囲に広げ、そこに誰がいるのかを把握する高等魔法。


 使える者自体が極端に少ないため、一般的な施設なら考慮する必要すらない。


 王城は違う。


 夜間には《センス》を扱える者が交代で配置され、周囲を監視している。


 登録されていない魔力が入り込めば、それだけで異常。


 なら、魔力を遮断すればいい――とはならない。


 魔力遮断をした人が動いている。


 それ自体が異常だからだ。


 夜に侵入するのは、むしろ悪手。


 そこまで理解している者なら、昼を選ぶ。


「…………。」


 ゲルム自身が潜入するなら、そうする。


 修理、搬入、清掃。


 王城へ正規に出入りできる人間を調べ、その中から使える経路を探す。


 だが、それも簡単ではない。


 王城へ出入りする業者は厳重に管理されている。


 従業員の魔力まで登録済み。


 顔を変えたところで意味がない。


 魔法で別人になろうと、魔力までは別人にならない。


 追加の人員を一人紛れ込ませるだけでも、登録情報と照合されれば終わりだ。


 まして、それが発覚すれば。


 利用された業者まで、王城への出入りを禁止されかねない。


 協力者を作ることすら難しい。


(俺なら……。)


 最低でも二週間。


 慎重にやるなら、一ヶ月は欲しい。


 それでも、成功する保証などない。


「今日、だぞ……。」


 ゲルムが呟いた。


 依頼を渡したのは今日。


 それが、夕方には終わっている。


「どうやって入った……?」


 もちろん、方法は明かされていない。


 依頼したのは潜入だ。


 誰にも知られず、目的のものが王城に存在するかだけを確認する。


 それができたのなら、過程を聞く必要はない。


「…………。」


 プロ資格を使った?


 いや。


 それなら意味がない。


 ビヨンドには、プロ資格を持つ人間が一人いる。


 資格を行使して王城を調査するだけなら、最初からその者に任せればいい。


 今回、知りたいのは一つだけ。


 探している希少品が、王城にあるのか。


 あるなら、それ以上の探索に金も人も使う必要はない。


 なければ、今まで通り外で探せばいい。


 だが、どちらであっても。


 ビヨンドがそれを王城に、存在する可能性すら知られたくない。


 表向きは、今まで通り探し続けているように見せる必要もある。


 だから、完全な外注にした。


 ビヨンドとの繋がりが見えない人間に、誰にも知られず確認させる。


 それが今回の依頼だった。


「…………。」


 あの何でも屋。


 やはり、相当な腕だった。


 パーティーでの一件だけではない。


 潜入まで、それも王城を相手に、依頼を受けたその日のうちに終わらせた。


「……大したものだ。」


 ゲルムは素直に評価した。


 そして同時に、以前から抱いていた推測にも、また一つ材料が加わった。


 ノアは、この男の存在を知っていたのではないか。


 前回の依頼。


 十七歳の令嬢の恋人役として、貴族のパーティーへ参加する。


 ノアでも年齢的には問題なかった。


 だが、あの何でも屋は容姿も圧倒的に優れ、背も少し高い。


 貴族の中に入っても違和感のない立ち居振る舞いまで身につけていた。


 結果だけを見れば、あの男の方が適任だった。


 だが、ゲルムが考えているのはそれだけではない。


 あの依頼をきっかけに、ビヨンドはあの何でも屋と繋がった。


 もちろん、直接ではない。


 今後もルコを通して依頼することになる。


 それでも、ビヨンドに新しい選択肢が増えたことに変わりはない。


 そして今回、早速その選択肢が役に立った。


「…………。」


 もし、そこまで考えていたのなら。


 ノアは自分に与えられた仕事をこなすだけではない。


 会社に足りないものを見極め、必要な人材と繋げる。


 会社や従業員の成長まで考えて動いている可能性がある。


 証拠はない。


 だが、以前よりもその可能性は高く見えた。


「…………。」


 ただ。


 今回は違う。


 王城へ潜入し、目的のものを確認する。


 年齢も、容姿も、社交界での振る舞いも関係ない。


 あの何でも屋でなければならない理由がない。


 そして、ノアなら今回の依頼が特殊であることも分かっているはずだ。


 ビヨンド自身が動けない理由も。


 プロ資格を使えない理由も。


 恐らく、理解している。


 それでも、断った。


「なぜだ……?」


 実力が足りない?


 あり得ない。


 ゲルムの認識では、レイよりもノアの方が遥かに上だ。


 大会優勝者。


 世界でも稀に見る実力者。


 あの何でも屋が依頼当日に成功させられる仕事を、ノアにできないとは思えない。


 ならば。


 できないから、断ったのではない。


 できるのに。


 やらなかった。


 その違いに気づいた瞬間。


 ゲルムの思考が。


 止まった。


「……王城。」


 民間の商会から、王城への潜入を依頼されて。


 実力とは関係なく、受けることのできない立場。


「…………。」


 まさか。


「王家の……影の部隊……?」


 その言葉が口から出た瞬間。


 ゲルム自身が黙った。


 王家直属。


 表には存在しないとされる、王国の影で動く者たち。


 もし、ノアがそこに所属しているのなら。


 今回の拒否は、あまりにも綺麗に説明できる。


 民間の商会から、自分たちが守る王城への潜入を依頼される。


 受けられるはずがない。


 できるかどうかではない。


 立場上、できない。


「…………。」


 そして、もしそうなら。


 トーリア公爵家で見習いをしているという立場すら、任務のための偽装ということになる。


 ノアが本当に所属しているのは、トーリア公爵家ではない。


 そのさらに上。


 王家。


「……いや。」


 ゲルムは小さく息を吐いた。


 証拠はない。


 推測に推測を重ねている。


 ただ。


 前回は、自分より適任な人材をビヨンドへ繋ぐために断った。


 今回は、自分の立場では受けられないから断った。


 そう考えれば。


 ノアの二度の拒否には、どちらにも理由がある。


 そして、そのどちらも。


 自分の都合ではない。


「…………。」


 ゲルムはしばらく考えたあと、静かに立ち上がった。


 これは、確定事項として扱う話ではない。


 だが。


 部長には報告しておくべきだろう。

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