↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LAVeLESS  作者: 神矢
PR
101/149

パーティ潜入

 馬車が、一軒の屋敷の前で止まった。


「着きました。」


「はい。」


 ゲルムに続き、レイが馬車を降りる。


 目の前には、大きな屋敷。


 今夜、パーティーが開かれる場所ではない。


 まずは依頼人と顔を合わせ、その娘と合流するために、ここへ来ていた。


「こちらです。」


 ゲルムが歩き出す。


 レイも、その後へ続いた。


 屋敷へ入り、使用人に案内される。


「こちらでお待ちください。」


「ありがとうございます。」


 通された部屋で、しばらく待つ。


 やがて、扉が開いた。


「お待たせした。」


 一人の男が入ってくる。


 今回の依頼人。


 その後ろには、一人の少女。


 年齢は十七歳。


 今夜、レイの恋人役となる依頼人の娘だった。


「初めまして。」


 男がレイを見る。


「グラント・フォルディアだ。」


「初めまして。」


 レイが立ち上がり、自然に一礼する。


「レイル・アーネストと申します。本日はよろしくお願いいたします。」


 今回、レイに用意された偽名だった。


「こちらこそ。引き受けてくれて感謝する。」


 グラントが隣に立つ少女を見る。


「娘のエリナだ。」


「エリナ・フォルディアです。」


 エリナが少し緊張した様子で頭を下げる。


「よろしくお願いします。」


「はい。」


 レイがエリナへ視線を向ける。


「よろしくお願いいたします。」


「…………。」


 エリナは一瞬だけレイを見て、少しだけ視線を逸らした。


 ゲルムは、その様子を横から見ていた。


(……なるほど。)


 屋敷へ入ってから、既に振る舞いが変わっている。


 言葉遣い。


 姿勢。


 視線。


 立ち居振る舞い。


 どれも自然だった。


 国外の下級貴族。


 そう紹介されても、疑問を持つ者はほとんどいないだろう。


(ルコが言っていた通りか。)


 演技力は半端ない。


 少なくとも、第一印象だけなら十分だった。


「事情は聞いているか?」


 グラントが尋ねる。


「はい。」


「娘とは今日が初対面だ。当然、今夜だけで恋人として振る舞ってもらうことになる。」


「承知しています。」


「無理に親密に見せる必要はない。かえって不自然になる。」


「そうですね。」


 レイがエリナを見る。


「普段通りで大丈夫ですよ。」


「え?」


「無理に合わせようとしなくても、こちらで合わせますから。」


「…………。」


「あ……はい。」


 エリナが頷く。


 再び、少しだけ視線を逸らした。


 グラントがその様子を見る。


「…………。」


 ゲルムも見ていた。


(もう始めているのか。)


 初対面の娘を緊張させない。


 それも今夜の仕事には必要なこと。


 悪くない。


 いや、かなり上手い。


「では。」


 グラントが立ち上がる。


「そろそろ向かおう。」


「はい。」


 パーティー会場へ向かう馬車の中。


 レイはエリナの向かいに座っていた。


「緊張していますか?」


「少し……。」


「大丈夫ですよ。」


 レイが穏やかに笑う。


「失敗しても、俺が何とかしますから。」


「…………。」


「なので、楽しむくらいで大丈夫です。」


「はい。」


 エリナが小さく笑った。


 ゲルムは、隣でそのやり取りを聞いている。


(自然だな。)


 恋人として必要以上に距離を詰めない。


 初対面なのだから、急に親密な振る舞いをすれば、エリナの方が対応できない。


 まずは相手を慣れさせる。


 そういうことだろう。


 やがて、馬車が止まった。


 扉が開く。


「到着しました。」


 先にゲルムが降りる。


 今夜、ゲルムの表向きの立場はグラントの護衛。


 レイの近くにはいない。


 少し離れた位置から状況を確認し、想定外の事態が起きた場合のみレイを補佐する。


 続いて、レイが馬車を降りた。


 振り返り、エリナへ手を差し出す。


「どうぞ。」


「あ……はい。」


 エリナがその手を取り、馬車を降りる。


「ありがとうございます。」


「いえ。」


 そこまでは、屋敷でも見た丁寧な青年のままだった。


 だが、会場の入口へ向かい始めた時。


「…………。」


 ゲルムが僅かに目を細めた。


 何かが変わった。


 レイがエリナの隣を歩く。


 距離は近い。


 だが、近すぎない。


 エリナの歩幅に合わせ、ほんの僅かに速度を落としている。


 人が近くを通れば、自然に自分が外側へ回る。


「…………。」


 そして、エリナへ何かを話す。


「え?」


 エリナがレイを見る。


 レイが小さく笑う。


「……もう。」


 エリナも笑った。


「…………。」


 ゲルムは、後ろから二人を見る。


(違う。)


 屋敷でグラントとエリナへ見せていた振る舞い。


 あれをゲルムは、既に役へ入っているのだと考えていた。


 だが。


 違った。


(こっちか。)


 今、初めてレイは恋人になった。


 隣にいるエリナも、同じことに気づいたらしい。


 先ほどまでとは明らかに違う。


 レイを見る。


「どうしました?」


「い、いえ……。」


「?」


「何でもないです。」


「そうですか。」


 レイが微笑む。


 エリナが、また少しだけ顔を赤くする。


「…………。」


 ゲルムはそれを見て、すぐに理解した。


(あれは演技ではないな。)


 レイは演じている。


 だが、エリナは違う。


 だからこそ、余計に自然に見える。


 二人が受付へ向かう。


「お名前を。」


「レイル・アーネストです。」


 国外の下級貴族の出身。


 その設定を、何の淀みもなく自分の経歴として話す。


「エリナ・フォルディアです。」


 エリナも続いて名乗る。


 受付の者が招待状を確認する。


「フォルディア卿のお嬢様ですね。」


「はい。」


「お連れの方は……。」


 視線がレイへ向く。


 エリナが一瞬だけ言葉に詰まる。


「彼は――。」


「エリナとお付き合いさせていただいています。」


 レイが何でもないことのように答えた。


「…………。」


 エリナが僅かに頬を赤くする。


「承知いたしました。どうぞ、お入りください。」


「ありがとうございます。」


 レイが軽く頭を下げる。


 そして、エリナを見る。


「行きましょうか。」


「……はい。」


 二人が会場へ入っていく。


 その後ろを、少し離れてゲルムも歩く。


「…………。」


 まだ何もしていない。


 対象とも接触していない。


 情報も一つとして得ていない。


 それでも、ゲルムには一つだけ分かったことがあった。


(ルコが保証するだけはある。)


 今回、自分が補佐に入る場面は思っていたより少ないかもしれない。


 そう考えながら、ゲルムもパーティー会場へ入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。