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LAVeLESS  作者: 神矢
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ビヨンド商会と大会優勝者

 約束の日。


 ゲルムは、依頼人の屋敷へ向かう前に、ルコと待ち合わせていた。


 今回。


 ルコから紹介される人間について、分かっていることはほとんどない。


 年齢は、今回の役を務める上で問題ない。


 貴族のパーティーにも対応できる。


 そして。


 ルコ曰く。


 演技力は、半端ではない。


 それだけ。


「ゲルム。」


 声が聞こえ、振り返る。


「あぁ。ルコ――。」


 言葉が、僅かに止まった。


 ルコの隣に、一人の少年がいた。


「待たせたか?」


「いえ。」


 ゲルムは答えながら、少年を見る。


 若い。


 聞いていた通り、十代だろう。


 そして。


(……なるほど。)


 顔立ちが、恐ろしく整っている。


 今回の役は。


 十七歳になる、貴族令嬢の恋人。


 年齢だけではない。


 見た目まで含めて、申し分ない。


「こいつだ。」


 ルコが少年を見る。


「レイ。」


「初めまして。」


 レイが軽く頭を下げる。


「レイです。」


「ゲルムです。」


 ゲルムも応じる。


「今回は、引き受けていただきありがとうございます。」


「いえ。」


 普通だった。


 少なくとも、今のところは。


「詳しい話は?」


「簡単にはしてある。」


 ルコが答える。


「貴族のパーティーに出て、対象から情報を取るんだろ?」


「はい。」


 ゲルムはレイを見る。


「詳しい内容はこちらで説明します。」


「お願いします。」


「では、場所を移しましょう。」


⸻


 ビヨンド商会。


 応接室。


「こちらが今回の資料です。」


 ゲルムが数枚の資料を差し出す。


「まずは確認してください。」


「はい。」


 レイが資料を受け取る。


 偽名。


 国外の下級貴族という身分。


 出身地。


 家族構成。


 今回、パーティーで使う最低限の経歴。


 そして。


 接触する対象。


 性格。


 交友関係。


 趣味や嗜好。


 今回、パーティーへ参加する目的。


 その中から、聞き出してほしい情報まで。


 必要なものは、一通りまとめられている。


「…………。」


 レイは黙って資料を読む。


 一枚。


 次。


 さらに、次。


 ゲルムも急かすことなく、黙って待つ。


 やがて。


 レイが最後の一枚を確認し、資料を閉じた。


「大丈夫です。」


「分からないところは?」


「ないです。」


「覚える時間は必要ですか?」


「いえ。」


 レイは何でもないことのように言った。


「もう覚えました。」


「…………。」


「?」


「……分かりました。」


 ゲルムはレイを見る。


(記憶力はいいようだ。)


 資料の量は、決して多くない。


 訓練を受けた者なら、この程度を頭へ入れること自体は難しくない。


 だが、一度目を通しただけで、もう必要ないと言い切った。


 少なくとも。


 ルコが何の考えもなく、連れてきた人間ではなさそうだった。


「一つだけ。」


「はい。」


「今回の最優先は、情報を得ることではありません。」


「?」


「あなたが不自然に見えないことです。」


「あぁ。」


 レイがすぐに頷く。


「無理に聞こうとして、怪しまれたら意味がないってことですね。」


「はい。」


「分かりました。」


「必要な情報は資料に記載した通りです。ですが、全てを聞き出す必要はありません。」


「取れる範囲で?」


「はい。」


「分かりました。」


 レイは、もう一度手元の資料を見る。


「これ、持っていかない方がいいですよね?」


「もちろんです。」


「じゃあ返します。」


 ゲルムへ資料を差し出す。


「…………。」


 ゲルムは受け取った。


「本当に大丈夫ですか?」


「はい。」


「偽名も?」


「覚えてます。」


「出身地は?」


 レイが答える。


「家族構成。」


 また答える。


「対象の趣味は?」


 答える。


「…………。」


 間違いはない。


「十分です。」


「はい。」


 ゲルムが資料をまとめる。


「それと。」


「?」


「貴族のパーティーへの参加経験はありますか?」


「…………。」


 レイが一瞬だけ考えた。


「似たようなのなら。」


「そうですか。」


 ゲルムは、それ以上聞かなかった。


 ルコが、貴族のパーティーでも問題ないと保証した。


 ならば。


 今はそれで十分だった。


「緊張は?」


「別に。」


「…………。」


「仕事なんで。」


「そうですか。」


 ゲルムは隣にいるルコを見る。


「?」


 ルコは何でもない顔をしている。


「どうした?」


「いえ。」


 視線を戻す。


 年齢。


 問題なし。


 外見。


 むしろ、予想以上。


 資料の把握も早い。


 少なくとも。


 ここまで、気になる点はない。


「では。」


 ゲルムが立ち上がる。


「依頼人の屋敷へ向かいましょう。」


「はい。」


 レイも立ち上がった。


「俺はここまででいいか?」


 ルコが聞く。


「はい。ありがとうございました。」


「じゃあ、レイ。」


「うん。」


「頼んだぞ。」


「分かった。」


 それだけ。


 ルコは何事もなかったように帰っていく。


 ゲルムはその背中を見送り、隣に立つ少年を見る。


「行きましょうか。」


「はい。」


 二人はビヨンド商会を出た。


 依頼人の屋敷へ向かう。


 ゲルムにとって。


 隣を歩く少年は、ルコが紹介した今回の依頼に適した人材。


 ただ、それだけ。


 レイにとっても。


 隣を歩く男は、ルコから頼まれた仕事を説明してくれたビヨンド商会の人間。


 ただ、それだけだった。


 二人とも。


 互いのことを、ほとんど知らない。


 ゲルムは。


 隣を歩いている少年こそが、自分が追い続けていたアルベルト魔導大会優勝者だとは、夢にも思わず。


 レイもまた。


 隣を歩いている男こそが、自分の正体を追い続け、ついには別人と独占契約まで結んだ男だとは、知る由もなかった。

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