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LAVeLESS  作者: 神矢
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地砕の暴君 リュウ

 男はそんなことを気にも留めず、真っ直ぐこちらへ歩いてきていた。


「あっ。」


 女の子の一人が小さく声を上げる。


「リュウ様だ。」


「本当だ。」


 ルコもすぐにそちらを見る。


「来たな。」


「……めんどくせぇ奴が来た。」


 レイがぼそっと呟く。


 その直後。


 リュウの視線が、まっすぐレイを捉えた。


「……。」


 口元が、にやりと吊り上がる。


 顎をわずかに上げ。


 目を細め。


 まるで、


 ――どうした、チビ。


 そう言わんばかりの、腹の立つ顔だった。


「……。」


 レイの眉がぴくりと動く。


 リュウはさらに口角を上げる。


 完全に挑発している。


「……あいつ。」


 レイが足を止める。


 そして。


 レイはリュウを睨みつけたまま、真っ直ぐ近づいていく。


「はいはい。」


 その少し後ろを、ルコが呆れたようについていく。


 リュウの隣にいた古参の幹部も、なんとも言えない表情を浮かべていた。


 少し離れたところでは、女の子たちが目を輝かせている。


「ねぇ。」


「もしかして……例の挨拶、見れるんじゃない?」


「さすがに嘘だと思うけど〜。」


「でも、ほんとに喧嘩しそう。」


 その頃。


 リュウの斜め後ろを歩いていた新人幹部も、近づいてくるレイをじっと見ていた。


(……あの男。)


(若様のこと、めちゃくちゃ睨んでるよな?)


(もしかして……。)


 新人幹部の顔が、ぱっと明るくなる。


(俺の初仕事か!?)


 レイはそのままリュウの目の前まで歩いていく。


「テメェ、何見てんだ?」


「潰すぞ。」


「あぁ?」


 リュウが眉を上げた。


「おいおい。」


 待ってましたとばかりに、新人幹部が二人の間へ入った。


「まずは俺の相手をしてもらわなきゃ。」



 胸の奥が、熱くなる。


(……ついに来た。)


(俺の時代だ。)


 腕っぷしだけなら、誰にも負けない自信があった。


 幹部へ上がってからも、ずっとこの役目を任される日を待っていた。


 ――少し前。


「おう。」


 先輩幹部に呼び出された俺は、背筋を伸ばして立っていた。


「お前、今日から審査対応オッケーだから。」


「気合い入れていけよ。」


「若様とやりたがる奴がいたら、まずはお前が出ろ。」


「ぶちのめしちまっていい。」


「負けても若様はむしろ喜ぶけどな。」


「ただし。」


 先輩は少しだけ目を細める。


「簡単には負けんなよ。」


「はい!」


 あの時から。


 この瞬間を、ずっと待っていた。


 そして今。


 目の前には、若様へ堂々と喧嘩を売る男がいる。


(来た。)


(初仕事だ。)


 新人幹部は嬉しそうに拳を握る。


「……。」


 レイはそんな男を見て、少し困った顔をした。


 それから、その後ろにいるリュウへ視線を向ける。


「これ……いいのか?」


「いや。」


 リュウも新人幹部を見る。


「どうする?」


「俺に聞くなよ。」


 リュウは隣の幹部へ顔を向けた。


「なぁ、どうすんの? これ。」


「え……どうしましょう。」


「何言ってるんですか?」


 新人幹部だけが不思議そうに三人を見る。


「俺にやらせてくださいよ。」


「……まぁ、いいけどさ。」


 リュウが諦めたように言う。


 新人幹部の顔が、さらに明るくなった。


「さてと。」


 レイの前に立ち、拳を鳴らす。


「覚悟はできてるかい? 色男。」


「……あの。」


 レイが少しだけ困った顔をする。


「できれば、やりたくないんですけど。」


「今さらビビってんのか?」


「うん。」


「めちゃくちゃビビってます。」


「……舐めてんな。」


 新人幹部の目が据わる。


「とりあえず、おねんねしとけ。」


 次の瞬間。


 新人幹部が踏み込んだ。


 魔力のオーラを纏った右拳が、レイの顔面へ叩き込まれる。


「ぶっ――」


 レイの身体が大きく吹き飛んだ。


 地面へ落ち。


 そのまま何度も転がっていく。


 やがて動きを止めた。


「……。」


 レイは倒れたまま、ぴくりとも動かない。


 新人幹部は拳を振り抜いた姿勢のまま固まっていた。


「……。」


 数秒。


 その顔が、みるみる明るくなる。


「俺……。」


「俺!!」


 拳を握りしめる。


「初仕事完遂!!!!」


 満面の笑みだった。


 リュウは倒れたレイをしばらく眺める。


「……まぁ。」


「またあとでな。」


 そのままルコへ視線を向けた。


「ルコもまたな。」


「おう。」


 新人幹部は誇らしげに胸を張りながら、リュウたちの後についていく。


「レイさん!?」


 女の子の一人が慌てて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」


 もう一人もすぐにしゃがみ込む。


「レイさん、しっかりしてください!」


 レイは動かない。


 完全に気を失っているように見えた。


 遠ざかっていく新人幹部が一度振り返る。


 レイの周りに駆け寄る女の子たちを見て、さらに満足そうに頷いた。


 やがて、その姿が人混みの中へ消えていく。


「……。」


「行った?」


 倒れたまま、レイが小さく呟いた。


「おう。」


「もう行ったぞ。」


 レイはすくっと立ち上がった。


「えっ。」


 二人の女の子が固まる。


 怪我はない。


 派手に地面を転がったはずなのに、服にも一切汚れがついていなかった。


 ルコが呆れたようにレイを見る。


「お前、性格悪いな。」


「夢壊す方が可哀想だろ。」


「そういうとこだよ。」


 レイは軽く肩を回す。


「じゃあ、飲みに行くか。」


 四人はそのまま、次の店へ向かった。

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