第53話ハカセVS黒龍
やっと会えた。今日この場で決着をつけようか? 黒龍! 今この場で、お前を殺す!
「″水撃″」
ああ、分かってる。こんな攻撃じゃ倒せないことなんて。全部分かってる。そもそも、僕一人で倒すことなんて出来ないことも全部全部、全て分かってる! 一緒に居たから!
「″水流″」
「左腕を持っていかれたか。なぁ、ハカセ? お前はわかってるんじゃないのか? 俺と、共にいたお前なら。お前だからこそ。自分だけじゃ勝てないことを。俺を殺すことが出来ないことを。違うか? ハカセ。」
お前の言う通りだよ。それは、さっき考えていたことだ。僕だけじゃ勝てない。けど、彼らが来るのだったら、話は変わってくる。僕は、信じる。彼らが来ることを。それまで、僕は、諦めないし、負けない。死なない。むしろ、黒龍。お前のことを、殺す気でいる。
「″水刀″」
「次は、右腕。なぁ、ハカセ。なぜ俺は、お前に攻撃しないと思う? それはな、お前を殺してしまうからだ。」
何を言っている?戦う気がないなら、失せろ。今すぐに。
「俺はな、お前の体。いや、体なんてどうでも良い。ただ、お前の中に眠る、魔力が欲しいだけだ。それは、最後だからな。」
魔力? 僕の魔力は、水。それ以外に何がある。そもそも、この世に生きる生物。存在は、魔力を持って生まれる。けど、一つだけだ。魔力は。待て、なら、黒龍は?黒龍は、空間系の魔力を手に入れていた。確かに、人に自身の魔力を貸すことなら出来る。けど、貸すだけど言っても、貸したものの属性までは、使えない。つまり、自身の残りの魔力を増幅させるだけ。なのに、黒龍は、完全に使っていた。自身の、魔力は、破壊なのに。どうして? どうやったらそんなことが出来る? そもそも、以前黒龍が、言っていた、″反死の鏡″ とは、何だ? あれは、ドレサ王女の魔力を奪って出現させていた。そんなことが、出来るのか? 他の存在の魔力、しかも属性まで、奪い自由に扱うことが。待て、なら、もし、それが出来るのであれば、他の存在に、自身の魔力。属性まで与えることが出来たら?与えられた存在は、二つの、魔力を使うことが出来る。
「ハァハァハァ、」
これは、恐怖か? 考え、答えに導いたから? この世の理に反するから? いや、そもそも、これも。つまり、一つの存在に一つの魔力しか与えられない。と言うのも誰かの仮説。黒龍は、知っていたのか。出来ることを。
「どうやら、答えが出たようだな。そうさ、一つの存在に魔力は一つだけ。と言うのも、誰かに与えられない。と言うのも、全て誰かの仮説だ。知っていれば。知ってさえすれば、その仮説を否定することが出来る。まぁこの事を知っているのは、少ないと思うがな。特別な種族と存在しか知らない。俺も、元々は、その仮説に縛られていたからな。が、″あの方″ に言われて気が付いたのだ。」
″あの方″? え? 黒龍が、当主じゃないのか? なら、誰が? 誰が、当主だ! 黒龍にも、命令が出せる存在とは、いったい誰なんだ!
「俺はな、ハカセ。お前を絶望に落とし、もう一度心に入り込み、今度こそ、お前の中に眠る魔力を貰う。そのためには」
そう言うと、黒龍の両腕が再生した。僕が、落としたはずの物が消えた。否、正確には、切り口に取り込まれた。絶望とは、そう言うことらしい。僕では、勝てないと。殺せないと。足掻いても無駄だと。どんなに、強い攻撃をしようと、どんなに魔力を使おうと、俺の前では全て無駄だと。そう言っているような気がした。体にひびが入る。ピキピキと音を立て、崩れて行く。ああ、もう無理だ。そう、無意識に思ってしまう。これが絶望。何をしようと、抗えない。足掻くことさえ出来ない。何もかもが無駄になる。″終わり。″とは、こう言う時に使うのだろう。なにかをするこが許されない。何かを思うことですら許されない。これは、恐怖か? それとも、絶望か。あるいは、その両方かも知れない。足が動かない。接着剤で固定されたようだ。手が上がらない。まるで糸が切れたようだ。呼吸は酷く乱れている。まともに、リズムなんて取れない。考えることしか出来ない。黒龍が、ゆっくりと、近づいて来る。何も出来ない。ああ、死ぬのだろう。そう、思った。その時だった。何か、来る。血が、這い上がる。死と言う恐怖から、出てくる力。ああ、どうにでも、なれ。




