第88話 思想
「それにしてもそれ、便利だよねぇ。一瞬で移動出来ちゃうんだから。やっぱり移動は空間魔力に限るよね」
「フム。確かにこれは、使えるものだ。黒龍またの名を破龍の魔力の残留から導き出された者の魔力だがな。やはり、我が魔力である "強奪" と相性が良い」
「何でも吸い込んじゃうもんね。それに、自分の物にも出来ちゃうんだからね~それから」
「ああ。そうだな。先程から、そこに居るのは敵と見なしても?」
バレタ! バレチッタ! 怪しそうなヤツらが居たから、怪しげな格好をしたオッサンとちょっと陽気な服着た少年が居たから、隠れて話を聞いてたけど、バレていたのか! どうする? う~んと。良し。出るか。
「見たまんまで悪いけど、お前ら悪者ってことでいいか?」
「そうだな。お前たちからすれば悪者。つまり、敵だな。だが、今は争う必要はない。時は来る。神はそう言っている」
神? 何かの宗教か? まぁいいけど。
「なら、お前たちの宣戦布告も神の、つまり神の御告げとかか?」
「否。それは違う。神はそのようなことはしない。神は教えてくれるだけであって命令はしない。それに、みな神の元では平等なのだ。誰か一人に肩入れ等と言うことは決してしない。皆に等しく、皆に慈愛を、皆にお教えしてくださる。そのような存在なのだ」
難しいな。なら、戦争をする必要もねぇじゃねぇか。
「なら、なぜ戦争なんてする。戦争は何も生まねぇぞ。それに、恨みとか、復讐とか、逆襲とか、そんなのに意味はねぇ。勿論。恨むことで生きることだってできる。けど、終わってからは只キツイだけだ」
「そうか。それが貴殿の思想か。深いな。そして、実に素晴らしい。確かに戦争は何も生まない。だが、神は平等なのだ。なら、我らの国にだって富はあっても良いはずだ。生きるためには、苦しむしかない。つまり、この、戦いには意味がある。我らの信念と生き様を賭けた戦いなのだ。始まってしまった物は、もう戻れない。戻るとしてもそれは、理に触る行い。それは、きっと神が赦さぬだろう。だから、戦うのだ。生きるために。足掻くために!」
止まらないのか。もう。止めることも出来ないのか。
「そうだね。生きるために、国民の半分を殺したんだから」
なッ! 殺した? 国民を?
「楽しかったな。あの時は」
殺すのが楽しい? 何だよコイツ。
「帰ろう」
「フム。では、また会おう」
そう言って目の前から消える。急がないと。急いでビミオンに行かないと。そう思った時には、もう走っていた。オッサンには、信念がある。それを突き通そうとする意思がある。なのに、もう一人の陽気な服を着たヤツは違う。楽しんでた。心の底から、本音で笑っていた。別格。今まで会って来たヤツとは明らかに違う。只単に楽しんでいた、この状況を。そんなヤツがビミオンに居たんだ。何か、危ないことが起きているかもしない。そう思うと、背が冷える。それでも走っていた。




