第七話 11
常木彰浩が逮捕された翌日、僕は新宅正司と共に再び、みやこ食堂を訪れていた。
「あの人はね、糖尿病で透析をしなくちゃ生きていけないのに、病院に行くのをさぼって飲み歩いていたんだよ。バーのホステスは、自分のことしか考えないバカばっかりで、ボトルキープさせては飲ませまくってた。アタシ、頭に来てリサって女の顔をぶん殴ってやったわ。あの人が、何人もの女と浮気してるのは知ってたわよ。でも、浮気しててもいいから、私はあの人に生きてて欲しかった。ただ、それだけなんだよ。米澤さん、見付けてくれて本当にありがとう。刑務所病院だったら生きていられる。本当に感謝しています」
新宅正司は、常木美也子の真意を聞いて涙していた。僕も涙ぐみながら、「美也子さんは本当に良い方ですね」と言った。
この時、女性への偏見が、自分の中で完全に消滅したのを感じていた。
「ところで、米澤さん、あなた東京の人だよね?」
「そうですよ」
「あなたに良く似た米澤って人、アタシ知ってるんだよ。昔、母がここをやってた時、来てくれてたお客さんでね、釣りが趣味で、お店に釣った魚をよく持って来てくれてたから覚えてるんだよ。あなたとすごく良く似てるから、もしかして繋がりがある人なんじゃないかなと思ってたんだよ。ほら、これが、みんなでお花見した時の写真」
常木美也子は、自分と母親と店の客が、咲き誇っている桜の木を背景に、笑顔で写っている写真を僕に見せた。僕は、若かりし頃の父母を写真の中に見付け絶句した。
「でも、この女の人がいるでしょ? この方はもう亡くなってるんだよ。あそこの城ヶ崎灯台の崖から飛び降りたらしいわ」
僕は、常木美也子のその言葉を遮るように言葉を発した。
「常木さん、ありがとうございます。この夫婦は僕の両親なんです。もう二人とも亡くなっていますが……。僕は両親の写真を一枚も持っていないんです。だから、二人の若い頃の写真が見られて嬉しかったです」
「そうだったんだね。ごめんね。余計なことを言ってしまったね」
「いいえ、常木さんと僕は、やっぱりご縁があったんですよ。感謝しています」
僕は、常木美也子にそう言うと、新宅正司と共に、みやこ食堂を後にした。新宅正司は、心配そうに僕の横顔を見ていたが、僕は彼に笑って見せた。
「今日は、仕事が解決したご褒美に一泊して帰るか」
「えーっ! ほんとですかっ!」
「みやこ食堂もいいけど、露天風呂に浸かりながら一杯というのもやってみたいだろ?」
「はいっ!」
「たまにはこういうことでもしなけりゃ、やってられないよな」
「はいっ!」
僕は、新宅正司と笑顔でそう会話していた。




