第七話 12
森山熊三とメイド二人は、夕暮れ時の米澤綾子の久しぶりの訪問で、バタバタと忙しく動き回っていた。
「伯父様、急に来てしまってごめんなさい。森山さん達にもご迷惑だったわね……」
「いや、伊勢海老は森山の大好物だから、喜んでいるだろう」
米澤綾子は、父の知人から送られてきた伊勢海老を持参していた。
「うちの父は、本当に失礼なの。二人家族なのに、こんなに大きな伊勢海老を十匹も送って来て、迷惑だから兄のところへ持って行ってくれと言ってたんです」
「はははは。アイツは相変わらずだな。私より手強いヤツだ」
「本当にそうなんです。伯父様のほうが随分お優しいわ。親切で送ってくださったのに、父は感謝の気持ちなんかこれっぽちもないんですから。でも、伊勢海老は、お料理が難しいから、逆にみなさんに悪かったかしら」
「うちのメイドは料理上手だから、気にせずとも良かろう」
「そうですよね。羨ましいですわ。十匹まるまる持ってきたから、皆さんで召し上がってください」
「ありがとう」
「唐吉さんも、もうすぐ帰る頃でしょう?」
「いや、さっき、今日は伊豆に泊まると連絡があったそうだよ」
「伊豆のどこなんですか?」
「城ヶ崎海岸だそうだ」
米澤唐左衛門がそう言うと、米澤綾子の顔色が急に変わった。
「何故、城ヶ崎海岸へ行ったんですか?」
「仕事の依頼があったと聞いているが……」
「伯父様、本当にそれだけなんですか?」
「いや、詳しいことは何も聞いていないんだよ」
「静枝さんと何か関係があるんじゃないですか?」
「唐吉に母親のことを話したことは一度もない。唐吉は、静枝がどこで亡くなったかも知らないだろう。警察にいた時に知ったかもしれないが、唐吉がその話題に触れたことはない。それに今更、そんなことを知って何になる? もうとっくの昔に終わったことだよ。亡くなった人間は、二度と戻らない」
米澤唐左衛門は、悲痛な面持ちだった。




