第三話 11
僕は、調査結果を本木勝義に報告した。すると、彼はさっそく桐山陽介に連絡を取った。桐山陽介は、まずは、会長付きの秘書として雇われ、会社の業務を学んだ後、その後、営業本部のマネージャーになる予定らしい。桐山陽介のこれからの人生は、前途洋々のようで、僕も今回の結果に満足していた。
二週間の帰省から帰って来た新宅正司が、事務所で自分の田舎土産の蜜柑を自ら頬張りながら、「いや、良かったですねー、所長が、大間に行って全然帰って来なかったから、どうなることかと思ってましたよ」と言った。僕は「ふん!」と言いながらも、彼と同様、蜜柑を頬張っていた。
「その後、今度は桐山君が、九州で漁師になってると言ってたじゃないですか。僕はまた、所長が九州で行方不明になるんじゃないかと心配してました」
「ちょっと、新宅君! 君は最近減らず口が多いね。口は禍の元というのは、君の辞書にはないらしい。ところで、お父さんの足の手術はどうだったんだ? 成功したのか?」
「ああ、ありがとうございます! 本当にすみませんでした。無事成功してピンピンしてます。これから、リハビリですけど、大丈夫でしょう」
「そうか、それなら良かった」
そんな話をしていると、左斜め向かいの山本調査事務所の神崎美波が突然現れ、「新宅さん、お土産ありがとうございました! 今ね、平林さんから、麩饅頭の差し入れを頂いたんですよ。うちの事務所で一緒に食べませんか? 山本所長も是非にとおっしゃってるし。米澤所長もお誘いすように言ってましたけど、所長はお嫌ですよね?」と言った。僕は、神崎美波にも嫌われているのかと思ったが、「そうだね、新宅君、君だけ行かせて貰いなさい。僕はこれから、本木さんとの約束があるから」とニコニコしながら言ってやった。実際、本木勝義との予定は、後十五分に迫っていた。