第三話 9
山本道代は、唐吉に頼まれて、再び、速水愛に話を聞いていた。速水愛は、相変わらず、やる気がなさそうな憮然とした表情をしていた。
「もう話すことなんかないんだけど……」
「まあ、そう言わないで。ごめんね、どうして桐山君を捜しているのか、きちんと話してなかったわよね?」
山本道代は、二年前に桐山陽介が青木屋に勤めていた時、酩酊して倒れていたところを、彼が親切に介抱してくれて、その時のお礼を言いたい、出来れば自分の会社で働いて欲しいと、大会社の会長が彼を捜しているのだと説明した。
「会長にとってもそうなんでしょうけど、桐山君にとっても、こんな良い話はないと思うの。サンライズチェーンといったら、世界に誇る大会社だもの」
「そうだね……」
「桐山君、サンライズで勤めたら、きっと成功するわよ。だから、本当のことを教えて」
「陽介はね、お人好しでいつも騙されては他人の借金を背負わされてたの。それで今働きづめになってる。私の親もだらしがなくて、私も親の借金を背負ってたから、陽介も同情してくれて、俺がなんとかすると言ってくれたけど、陽介は身体を壊してしまうくらい無理すると分かってた。だから、私はわざと他に彼氏を作って別れたの。あなたのことも借金取りだと思ったから、嘘を吐いた。もう陽介を苦しめないでと思ったから」
「そうだったのね……」
「うん」
「それで、今、彼はどこにいるの?」
「陽介は、横浜の工事現場で働いている」
速水愛は、そうポツリと呟いた。




