↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
93/113

暴かれた秘密と、波乱の予感



放課後の校舎は、部活動に励む生徒たちの遠い歓声と、夕日を浴びて長々と伸びる影に包まれていた。


生徒会室の中では、夏の学園祭に向けた最終予算案の書類整理が行われていた。

デスクに向かう涼香は、スッと背筋を伸ばし、清廉潔白な「夏目先輩」として淡々とペンを走らせている。


「——うん、この備品費の申請はこれで問題ないわ。みんな、今日も手際よく進めてくれてありがとう」


「さすが夏目先輩! 先輩が仕切ってくださると、本当に仕事がスムーズに進みます!」


「ええ、後輩のみんなが頑張ってくれているおかげよ」


涼香は完璧な笑みを浮かべ、後輩たちからの尊敬の眼差しを受け止めていた。

しかし、そのブラウスの胸元の中——昨夜、樹につけられた甘い首筋の痕跡(※第92話のお仕置き)を隠すために、彼女は普段着けない高めのレースハイネックをしっかりと着込んでいた。


(……ふぅ、なんとか誤魔化せているわね。……あとのスケジュールは、資材置き場の確認だけ……)


涼香はふと、手元の時計に目をやった。

17時。樹と約束した「生徒会室裏の通路」での待ち合わせ時間まで、あと少し。


「みんな、今日の作業はここまでにして下校してちょうだい。鍵の管理と最終確認は、私がやっておくから」


「えっ、夏目先輩が一人で? 申し訳ないです……!」


「いいのよ。これも副会長の務めだから。気をつけて帰ってね」


「はい! お疲れ様でした、夏目先輩!」


後輩たちが爽やかに挨拶をして退室していく。

静まり返った生徒会室で、涼香は一瞬だけ肩の力を抜き、ふっと安らぎの吐息を漏らした。


「……よし。急いで資料を片付けて、樹くんのところに行かなくちゃ」


涼香は嬉しそうに琥珀色の瞳を輝かせると、かばんを手に取り、誰もいないはずの裏通路へと向かった。


校舎の陰に位置する資材置き場裏は、人通りが全くない二人だけの「聖域」だった。


壁に背中を預けて待っていた樹のもとへ、カツ、カツと聞き慣れた高跟鞋(ヒール)の音が近づいてくる。


「……樹くん!」


「涼香! お疲れ様。今日も生徒会の仕事、大変だったでしょう?」


角を曲がってきた涼香は、周りに誰もいないことを確認するや否や、我慢限界と言わんばかりに樹の胸元へ飛び込んできた。


「……ん……っ……! 樹くん不足で、死んじゃいそうだったわ……」


「わっ、涼香!? 急に抱きついたら危ないよ……」


「だって……今日はずっと会議で、樹くんの顔を遠くからしか見られなかったんだもの……」


涼香は樹の服をギュッと掴み、胸元に顔を擦り付けながら甘えた声を出す。

先ほどまで生徒会室で「完璧な副会長」を演じていた人物と同一人物とは、誰も信じられないだろう。


「……ねえ、樹くん。ちょっとだけ……エネルギー補給させて?」


涼香は上目遣いに照れくさそうに樹を見上げると、かかとを少し浮かせ、自分の唇を樹の唇へと重ね合わせた。

西日が二人の影を長く引き伸ばし、夕暮れの静寂の中に、チュッと小さな甘い音が響く。


「……ふふ、これで少し元気が……ん?」


接吻を終え、樹の胸に額を預けていた涼香が、ふと眉をひそめた。


——カサッ。


資材置き場の陰、積み上げられた段ボールの隙間から、小さな乾燥した葉を踏む音が聞こえた。


「……え?」


樹と涼香の身体が、同時に硬直する。


「な、誰かいるの……!?」


樹が咄嗟に涼香を自分の背中に庇い、警戒の視線を音のした方へと向けた。

すると、影の中から……生徒会の1年生後輩女子・美咲(みさき)が、手に書類の束を持ったまま、目を極限まで見開いて固まっていた。


「な……夏目……先輩……!?」


美咲の顔は蒼白になり、手にした書類がパラパラと地面に落ちていく。


「さ、さっき……キス……それに……『樹くん』って……え……? 冴えない後輩の櫻井くんと……付き合って……!?」


「美咲ちゃん……っ!?」


涼香の顔から、一瞬で血の気が引いていった。


絶対にバレてはならない「学校一の氷山姫」と「無名な後輩」の極秘関係。

それが、よりによって生徒会の後輩に、バッチリと現場を見られてしまったのだ。


「ち、違うの……これは……っ!」


涼香は焦って前へ出ようとしたが、声が震えて上手く言葉が出てこない。

普段ならどんなトラブルも完璧に処理する彼女が、あまりの動揺に立ち尽くしてしまう。


その時——樹が前に踏み出し、美咲と涼香の間に静かに立った。


「美咲さん」


樹の聲は、驚くほど冷静だった。

彼は震える涼香の手を、背しろでキュッと力強く握りしめた。


「見た通りです。……僕と夏目先輩は、お付き合いしています」


「ツ、樹くん……っ!?」涼香が目を見開く。


「櫻井くん……本気なの……? あの高嶺の花の夏目先輩と……!?」美咲は信じられないものを見る目で二人交互に見つめる。


「はい。先輩を混乱させてしまってすみません。でも、先輩は僕の前でだけ、本当の自分を見せてくれているんです。……お願いです、このことは誰にも言わないでいただけませんか?」


樹はまっすぐに美咲の目を見つめ、深く頭を下げた。


涼香は背中で繋がれた樹の手の温もりに触れ、自分の胸の奥が熱く震えるのを感じていた。

守られてばかりだった「冴えない後輩」が、自分の危機に一番に立ち上がり、堂々と自分との関係を認めてくれたのだ。


涼香もハッと正気を取り戻すと、樹の隣に並び、いつもの凜とした(だがどこか優しさを帯びた)表情で美咲を見つめた。


「……美咲ちゃん。困惑させてしまってごめんなさい。でも……櫻井くんは、私にとって世界で一番大切な人なの。完璧じゃない私も全部受け止めてくれる……私の特別な人なの」


「夏目……先輩……」


美咲は、二人の固く結ばれた手と、お互いを深く信頼し合う強い眼差しを見て、息をのんだ。

そこにあったのは、噂されるようなスキャンダルではなく、お互いを心から想い合う「本物の恋」だったからだ。


「……わかりました」


美咲は地面に落ちた書類を拾い上げると、少し照れくさそうに鼻を鳴らした。


「……私、口は堅い方ですから。生徒会の誰にも言いません。……でも! 夏目先輩を泣かせたら、私絶対に櫻井くんを許しませんからね!」


「……美咲ちゃん……! ありがとう……!」


美咲がペコリと頭を下げて走り去っていくのを見送り、静寂が再び二人を包み込んだ。


「……ふぅ……」


危機を脱した瞬間、涼香の緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちそうになった。

樹は慌てて彼女の華奢な身体を抱きとめる。


「涼香! 大丈夫!?」


「……ううん、大丈夫……ただ、心臓が破裂しそうだったわ……」


涼香は樹の胸に顔を埋め、安堵の涙をポロポロとこぼした。


「でもね、樹くん……すごく嬉しかったわ。あなたが……みんなの前で、私との関係を堂々と言ってくれたこと……」


「当たり前だよ。僕は涼香の夫……ううん、彼氏なんだから。涼香を守るためなら、何だってするよ」


「……ツキ……」


秘密が暴かれた放課後。

しかし、試練を乗り越えた二人の絆は、以前よりも遥かに強く、深く結ばれていた。


夕闇が二人を包み込む中、新たな波乱の予感とともに、二人の物語は次のステージへと動き出すのだった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最後までお読みいただきありがとうございます!

「夏目先輩のギャップ萌えが可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
ページ下部の【★★★★★】評価とブックマーク登録で応援していただけるとめちゃくちゃ励みになります!✨

※皆様の星とブックマークが作者の執筆の原動力です!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。