駒場祭の熱気と、氷山姫の堂々たる夫お披露目
黄金色の銀杏並木と、秋の東大駒場祭
十一月下旬、秋深まる東京大学・駒場キャンパス。
敷地内を埋め尽くす銀杏の大木が鮮やかな黄金色に染まり、澄み渡る秋空の下、ハラハラと舞い散る葉がキャンパスに黄金の絨毯を敷き詰めていた。
この日は、東京大学が誇る秋の最大イベント『駒場祭』の初日。
校門をくぐる大勢の一般来場者、他大学の学生、そして模擬店の威勢の良い呼び込みの声で、普段は静謐なキャンパスが祭りの熱気と活気に包まれていた。
「……うわあ、すごい人ですね! 高校の文化祭とは規模も熱気も全然違います……!」
人ごみの中で目を輝かせていたのは、法学部一年の橘樹だった。
シックなグレーのタートルネックに上質なロングコートを羽織り、洗練された雰囲気を纏う彼は、一年前の受験生の面影を残しつつも、すっかり東大生らしい凛とした佇まいを見せていた。
「ふふ、驚いたかしら? 駒場祭は3日間で十万人以上が訪れる日本屈指の学園祭なのよ」
樹の隣で上品に微笑んだのは、法学部二年の夏目涼香だった。
オフホワイトのアンゴラニットにチェック柄のマーメイドスカート、そして黒のロングブーツ。
風にそよぐ艶やかな黒髪と、透き通るような白磁の肌。その群を抜いた美貌は、すれ違う人々や他大学の男子学生たちの視線を一瞬で釘付けにしていた。
「あいつ……超絶スタイルいいし可愛すぎない!?」「東大にあんな芸能人レベルの人いるの……!?」と周囲から囁き声が漏れ聞こえる。
しかし、涼香は周囲の視線など意にも留めず、自然な動作で樹の右腕に自分の両腕をキュッと絡め、豊満な胸元へと抱き寄せた。
「さあ、樹くん。今日はサークルの手伝いも講義もないわ。二人きりで駒場祭を思い切り楽しみましょうね?」
「り、涼香……っ! 人がたくさん見ていますよ……!」
「いいじゃない。……私には、あなたしか見えていないんだもの」
涼香は幸せそうに琥珀色の瞳を細めると、樹の指に嵌められたプラチナのペアリングに自分の指輪をそっと重ね合わせ、愛おしそうに頬を緩ませた。
模擬店巡りと、二人きりの甘い一口
二人は腕を組んだまま、模擬店が隙間なく立ち並ぶメインストリートを歩き始めた。
「樹くん、見て! あそこのクラスが出している焼きたてのチュロス、すごく良い香りがするわ」
「本当ですね! 買いに行きましょうか。僕が並んできますよ」
「ううん、二人で並ぶの。……あなたと離れるなんて、一秒だっていやだもの」
行列に並んでいる間も、涼香は樹の腕にしがみついたまま片時も離れようとしない。
無事に温かいシナモンシュガーのチュロスを買い求めると、涼香はワクワクした様子でそれを一口かじった。
「ん……! サクサクでとっても美味しいわ!……はい、樹くん。あーんして?」
涼香は自分がかじったばかりのチュロスを、樹の唇の前へと差し出した。
「えっ……!? ここ、お店の真前ですよ!? 周りの学生さんたちが……っ」
「いいから、あーん。……私の食べたあとの一口、嫌かしら……?」
涼香が少し眉を下げ、上目遣いで哀しそうな表情を作ってみせる。
その破壊的な愛おしさに耐えかねた樹は、意を決してチュロスにパクッと噛みついた。
「っ……! 美味しいです! 涼香……!」
「ふふ、大成功。……間接キス、美味しかったかしら?」
耳元で悪戯っぽく囁かれ、樹は顔を真っ赤にしてうつむいた。
二人が見せる甘い空気感に、周囲でチュロスを買っていた男子学生たちが「なんだよあのリア充……」「うらやましすぎるだろ……」とハンカチを噛み締めていた。
氷山姫を狙う男たちと、容赦なき撃退法
チュロスを食べ終え、二人が銀杏並木のベンチで温かいホットミルクを飲んでいた時のことだった。
「――あれ? もしかして、法学部の夏目先輩じゃないですか!?」
声をかけてきたのは、華やかな私服を着た他学部の男子上級生三人組だった。
法学部トップの成績を誇り、高嶺の花としてキャンパス内で有名な涼香の姿を見つけ、ナンパ目的で意気揚々と近づいてきたのだ。
「やっぱり夏目先輩だ! いやあ、まさか駒場祭で見かけられるなんてラッキーだな。先輩、これから僕たちのサークルのステージ発表があるんですけど、VIP席で一緒に見ませんか? その後、打ち上げにも招待しますよ!」
男たちは涼香の隣に座る樹の存在を露骨に無視し、涼香に向かって馴々しく手を差し伸べた。
すると――。
つい先ほどまで樹に向けていた甘く溶けるような微笑みは一瞬で消え去り、涼香の瞳には氷点下以下の冷徹な光が宿った。
「……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「えっ? あ、僕たち工学部三年の――」
「興味ありませんわ」
涼香は相手の言葉を冷ややかに遮ると、組んでいた樹の腕をさらに力強く抱きしめ、男たちに向かってはっきりとと言い放った。
「私には、世界で一番大切で、愛おしい『夫』がおりますの。……見ず知らずの方のお誘いに応じる理由も、あなた方のステージを見る時間もございません」
「え……ええっ!? つ、夫……!? 婚約者じゃなくて、夫!?」
男たちが絶句して目を見開く中、涼香は自分の左手を高く掲げ、太陽の光を浴びて美しく輝くプラチナの結婚指輪をこれ見よがしに見せつけた。
「彼の名は橘樹くん。法学部一年で、私の自慢の旦那様です。……お分かりいただけたら、私たちの貴重なデートの時間を邪魔しないでいただけますか?」
「っ……す、すみませんでした……っ!」
圧倒的な『氷山姫』の威圧感と、逃げ場のない夫婦宣言に叩きのめされた男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
夕暮れの講義室と、甘い愛の密約
男たちを撃退した後、樹は照れくささと嬉しさが入り混じった表情で涼香を見つめた。
「涼香……『夫』だなんて、堂々と言ってくれて……すごく嬉しかったです」
「当たり前でしょう? あなたは私の本当の旦那様なんだから。……誰にもあなたを軽視させないし、私の心に踏み込ませたりしないわ」
夕方、喧騒から少し離れた駒場一号館の静かな中庭。
夕日が銀杏の木々を茜色に染め上げる中、二人はベンチに深く腰掛け、そっと肩を寄せ合った。
涼香は樹の手に自分の手を重ね、彼の指にしっかりと自分の指を絡めつけた(恋人繋ぎ)。
「ねえ、樹くん。今日の夜……新居に帰ったら、私をたくさん甘やかしてね?」
「はい……! もちろんです。涼香の好きな料理をいっぱい作って、ずっと抱きしめています」
「ふふ、合格よ。……大好き、私の樹くん」
夕暮れの風が吹き抜け、舞い散る黄金色の銀杏の葉がふたりを優しく包み込む。
試練を乗り越え、東大という新しい舞台でさらに絆を深めた二人のキャンパスラブストーリーは、これからも誰にも邪魔されることなく、永遠に眩しく輝き続けるのだった――!




